2 ドラゴンを狩りに行く
さっきも言ったが、VEMはプレイヤーの能力から武器から舞台までリアルに基づいて作られているゲームだ。魔法なんてものは存在しないし、敵だって人間のみ、モンスターなんていうものは出てこない。
なのに、ドラゴン?
いやいや、さっきアレクシスは、ここはいろいろなことの練習ができる場所、と言っていた。それはつまり、VEM以外のゲームの練習もできる、ということではないか。
とはいえ、
「俺はVEMの練習をしに来たんだが」
「わかってます。でもちょっと、手助けをしてもらった方がいい状況になってしまって。あなたにも同行してほしいんです。やることは簡単です。遠くから銃でドラゴンを撃ってほしい。武器はこれで」
アレクシスが両手を前に差し出すと、その上に狙撃用のライフルが現れた。それを俺の手に渡してくる。
受け取った銃を俺はまじまじと見た。VEMで使われるライフルに似ているが、ちょっと違う気がする。
キョウが言う。
「まあ、ちょっとした射撃の練習と思って来ればいい。お前の守りは俺が固めるから」
「じゃ、行きましょうか」
アレクシスは俺の返事をきかず、手をさっと上げた。すると、辺りの光景が変わった。さっき見えていた風景は遮るもの一つないただの荒野という感じだったが、今、俺たちは小高い丘の上にいて、下には小さな林が見える。
「ドラゴンはあの林の中にいるので、僕がまず、空から魔法で攻撃して林から追い出します。そこを撃ってください」
「俺も一緒にやるから、何とかなるだろ」
「多分、一発では倒せないと思うので、向こうが死ぬまで何度も撃ってください。僕も攻撃しますし。あ、一つだけ。僕を撃ってしまうかもしれないっていう心配はしなくて大丈夫ですから」
じゃ、行きます、と言って、アレクシスは空に舞い上がった。巧たちの家で見た、空を飛んでやってきた瑠璃と健吾を思い出す。飛び方が似ている。
アレクシスは空から林めがけて、思い切り大きな光を落とした。ものすごい熱と爆風が辺りに吹きすさぶ。……ていうか、熱?風?VRだからってそんなの感じるもんじゃないだろ。
しかし、そういうものを感じたのは最初の一瞬だけで、すぐにそんなものは来なくなった。薄く光る幕みたいなのが、俺の前に浮かんでいるキョウの前方に広がっている。
「すまんすまん、最初から結界を張っておくべきだった」
キョウが言った。その間にも、結界とやらの向こうでは事態が動いていた。林は跡形もなくなり、その中からドラゴンが舞い上がる。さっきアレクシスたちが倒していた奴の五倍はありそうなでかさだ。
「ほれ、撃て。あいつの援護をしろ」
「結界があっても弾は向こうに届くのか」
「大丈夫だ。あっちからの攻撃や衝撃は通さないが、こちらからの攻撃は通すように作ってある」
俺は銃を構え、スコープでドラゴンを見た。が、アレクシスがドラゴンの周りを飛び回っていて、どうかすると弾が当たってしまいそうだ。
俺はスコープを外した。
「どうあってもアレクシスに当たりそうなんだが」
気にするなとアレクシスは言ったが、やっぱりフレンドリーファイアは避けたい。
「気にするなと言ったろう。それはアレクシスが作り出した銃だから、その弾があいつ自身に当たっても問題はない」
そう言われて、俺はふんぎりがついた。再度銃を構える。その間もアレクシスは空を飛び回り、剣でドラゴンに斬りかかり、その合間に魔法で攻撃をしている。キョウも結界の表面からおびただしい数の光の矢を放っている。
俺はドラゴンを撃った。でかい図体の割に動きが早く、弾が当たらない。それでも、こちらを警戒しないといけないと意識させることはできたらしい。動き方がさっきとは明らかに変わっている。
キョウが声を上げた。
「おっし、その調子でやってくれ。十分な援護になってる」
そういうことなら問題ない。相手をどう追い込むかは、社長にさんざんたたき込まれた。
俺はドラゴンの動きを予測しながら撃っていく。幾つかの弾はドラゴンをかすり、それは見た目よりも大きなダメージを相手に与えているのが見てとれた。ドラゴンはますます俺の狙撃を警戒し、そして幾つかの弾丸がかすった後、空高くまで一度舞い上がると、俺めがけて急降下してきた。
やばい、と思ったそのとき、ドラゴンの動きを読んだアレクシスがドラゴンの前に割って入った。長剣を構え、その体から光をほとばしらせる。
剣はそのままドラゴンの鼻面に当たり、ドラゴンの体はそこからまっぷたつに裂けた。綺麗に二つに裂けた体めがけてキョウが光の矢をこれでもかというほど集中して撃ち込み、ドラゴンの体は爆発、光の粉になって辺りに粉雪のように降った。
「終わった……?」
俺は銃を下ろす。
「おう、終わった終わった。お前のおかげで随分楽だった」
キョウは結界を解いて、俺のところまで飛んでくると、肩の上に乗ってきた。足が俺の肩にふれている感じや、その体毛が俺の頬に当たる感触はあるものの、重さは全く感じない。
アレクシスも舞い降りてきた。
「うん、本当に助かった。ありがとうございました。あ、そろそろ戻らないと。巧さんが来る前に」
「まあ、遅かったみたいだけどな」
キョウが空を見ながら言った。
俺はその視線を追って見た。
巧が、空に浮かんでいた。VEMのアバターの格好ではなく、本人そのままの姿で。
巧は半眼になって俺たちを見下ろしていた。……なんか、不機嫌そうに見えるが。




