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男性Vtuber四人の担当になったが、全員普通ではなかった話  作者: 弓園千尋
第二部 第2章 いろいろ巻き込まれる
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8 エントリー決定

 巧と同じ枠に映っていた司が横からたしなめるように言った。

「巧、いきなりそんなことを言われても、ツカズさんが困るでしょ?」

「えー?だって、絶対面白そうな話があるに決まってるのに、後回しにすんなよって思うじゃん?なあ、何かあるんだろ?」

「まあ、お前さんが喜びそうな話はある。だが、それよりも先に話すべきことがある。お前さんの配信の件だ」

 俺はそう言いおいて、当初の予定通り、巧の配信の話をした。巧単独ではまだやっていなくて、チャンネル登録者数の伸びもはかばかしくない。単独でライブ配信をする等して努力をしてくれ、と。

 巧は顔をしかめて、

「だって一人で何喋ったらいいんだよ」

「一人でやれ、とは言わない。まずは司以外の誰かと配信してみろ」

「あー、じゃあ健吾とやる。それでいいだろ。今日の夜の配信にとりあえず出れば」

 今日の夜には確かに鴫沢レンの配信があるが、

「告知なしでやるのか。告知ありの方が絶対にいいぞ。相乗効果が出る」

 俺は言った。巧が折角鴫沢レンの配信に一人で出るといっているのに水を差すことになるかもしれないと思いながら。

 すると健吾が苦笑しながら、

「じゃあ、今日の夜の僕の配信で告知して、来週出るっていうのはどうかな」

「わかった。それで行く。で、面白そうな話をきかせろよ」

 俺は仕方なく、メルザイオスに水天宮杯への参加の話が来ていることを伝えた。巧は予想通り、嬉々として言った。

「出る!司も出るよな?」

「今エントリーしている大会と日程が被ってなければね?健吾くんはどうする?」

「出てもいいけど、水天宮杯って、どういうレベルのものなの?プロとか出てくるんだったら、僕は辞退した方がいいんじゃないかな」

 健吾が心配そうに言うので、俺は説明した。

「いや、そこまでじゃない。プロと遜色ないレベルのチームも中にはいるが。主催の水天宮イルマのチームなんかがそうだな。もともと水天宮杯は、水天宮イルマと仲間たちのゲームの強さを確かめる、という目的で始まったもので」

「それって、自分たちの腕試しのために大会を始めたってこと?」

「ああ。自分たちは結構強いと思うが、それがどれくらい強いのか試したい、っていう感じだな」

 そして今までの水天宮杯は、すべて水天宮イルマ、あるいは彼女が参加しているチームが優勝している。

 すると、それまで黙っていた周防が訊いた。

「大会に弱い相手を集めたのではないのですか。それで勝てているのでは」

「いや、そんなことはない。まあ、プロは呼んでないが、プロに匹敵すると言われている連中を選手として結構な数、呼んでいる」

「なるほど。そういうことでしたら、僕はお役に立てそうにありませんね」

 周防は肩を竦めてみせた。俺は周防に、

「社長は、何らかの形でメンバー全員が水天宮杯に関われ、と言っていたが」

「じゃあ、僕は応援配信でもしますか。それでもいいでしょう?」

「勿論。ただ、一つ問題があってな。今まで、水天宮杯にはうちの事務所からは柏宅が呼ばれていたんだが、メルザイオスとコラボ禁止になっている関係で、お前たちが出るとなると、柏宅が出られなくなる。そのことで炎上するんじゃないかという懸念がある」

「それなら、メルザイオスは出ない方がいいんじゃないですか?」

 周防が言う。健吾も頷くが、俺は柏宅の思いを皆に話した。今回を逃すと、うちの事務所がゲーム面で弱小であるというレッテルを貼られたままになるので、それは避けたいのだと。

 周防は小さく頷きながら、

「確かに、事務所の色がどうなるかで所属しているタレントの活動に影響は出ますからね。僕は柏宅さんの気持ちを汲んでもいいと思います。社長が何か対策を考えているということですし。氷上さんはどうです?」

「そうですね。他ならぬ柏宅さんがそこまで言うのなら、覚悟を決めてやるしかないかな。そうなると、ますますみっともない試合はできない」

「じゃあ、あとは巧と司だな。お前たちはどう思う。……巧?司?」

 画面の中の巧と司が、揃って同じ方を向いてじっと動かないでいたので、俺は声を掛けた。すると、司が少し小首を傾げながら、

「すみません、今、手元のラップトップで水天宮さんたちの試合を見ていたんです。僕たちは出ることに勿論異論はないんですけど、そうなったときのチームメンバーって、僕と巧と、健吾くんですか?」

「そうなるな」

「駄目だな」

 巧は目線を下に向けたままで言った。

「健吾じゃ足りない。すぐに落とされる。ツカズ……でも厳しいな。社長ならいけるか」

 巧の言葉に、司が応じる。

「そうだね。社長さんなら安心だね」

「というわけだ。俺たちに社長が加わってそれで1チームできるから、健吾、お前が外れろ」

 すると、周防が異議の声を上げた。

「待ってください、それっていいんですか?先方はメルザイオスに出てほしいと言っているのに、鴫沢レンを外して社長を入れるなんて」

「無様な試合はできないんだろ。それに、今見てるのは過去の水天宮杯だが、配信者も出てる。VTuberでなくてもいいみたいだ」

 司も巧と同じ方に視線を置いたまま、

「そうだね。まあ、鴫沢レンが出ないわけにはいかないだろうから、ツカズさんにも出てもらって、あと一人、誰かを加えてもう1チーム出すとかどう?」

 そこで俺は、主催者側からはうちの事務所から2チーム出すように言われていること、俺も参加するつもりであることを伝えた。

 健吾が途端に喜色の滲んだ声を上げる。

「じゃ、ツカズさんと一緒に大会に出られるってこと?わかった。頑張ろうね、ツカズさん」

 巧もうきうきとした様子で、

「それじゃ話は決まったな。社長とツカズも参加で」

「いや、社長の了解をとらないと」

 俺はそう言ったが、巧はこちらを見ようともせず、視線は画面の下の方に向けたままだった。多分そこにラップトップPCがあるのだろう。

 司も目だけは同じ場所を見ながら、

「今、巧から社長さんにメッセージを送りました。水天宮杯で勝ちたいから、一緒に出てくれって。社長さんからツカズさんに話があるかもしれませんね」

「あ、返事があった」

 巧が声を上げ、俺はドキリとした。思わず訊ねる。

「何て?」

「主催者に確認してOKをもらえたら出てもいいって」

 ……まあなあ。立場上、自分から参加したいとは言えなくても、巧たちに頼まれたら断ることはしないだろう。

 巧は手元のPCから顔を上げ、

「2チーム出すんだよな?これで足りないのはあと一人だけど」

「それについては、副社長が伝手をあたってみると言っていた。VTuberでなくてよいのなら、何とかなると思う、と」

 俺がそう言ったとき、周防が「あ」と何かに気がついたように声を上げた。

「どうした?」

 俺の声かけに周防は少し考え込み、

「そう言えば、今日、副社長さんからメッセージが来ていました。僕の前の事務所のタレントと絡むようなことがあっても大丈夫か、って。もしかしてこのことかな」

 周防の前の事務所というと茅野会長のところか。あそこは大手だから、eスポーツに手を広げたいという考えがあってもおかしくはない。

 周防はと言うと、特に構わない、と返したそうだが、巧に、前の事務所にゲームがうまいヤツはいたかと訊かれて、特にそこまでのタレントはいなかったと思う、と困惑した様子で言った。

 巧はそれでも上機嫌さを隠さず、

「まあ、どんなヤツが来てもいいさ。ツカズと健吾がしっかり戦えれば。二人とも、シゴくから、覚悟しておけよ。特にツカズ、お前、最近FPSサボってるんだろ。まずはリハビリからしないとな」

 そして俺のところに、サーバーのURLとパスコードが送られてきた。

「前に面接のときに使ったサーバだから」

 巧が言う。それって、面接のときのゲーム対戦でログインした、あのVEMによく似たゲームか。

 俺は首を傾げる。

「別に普通にVEMでいいだろ」

「そのサーバならちょうどいい練習相手がいるから」

「練習相手?オリジナルのbotでもいるのか?」

 俺は冗談のつもりで言ったのだが、巧はさらりと、

「まあ、そんなもんかな。とにかく、今日の夜から特訓開始だ」

「いや、大会はまだ二ヶ月先だぞ?」

「んなもん、早くに取りかかった方がいいに決まってるだろ。お前たちの出来次第で事務所の立場が強くなるかどうか決まるんだからな。気張ってかかれよ?」

 そう言われると、俺は言い返せなかった。

 普段は鴫沢レンの配信は事務所で見てから帰ることにしているのだが、その日は家で見ることにして、定時で家に帰った。家は事務所から2駅のところでとにかく近い。夕食を買いにコンビニに寄って帰宅しても時間に余裕があった。

 食事をし終わった頃にちょうど鴫沢レンの配信が始まった。健吾はミーティングで言っていた通り、来週巧が一人でゲストに来る、と予告した。コメント欄は概ね歓迎ムードだったが、中には、

「マジ?本当に巧が一人で来るの?」

「巧って一人で来られるの?サボったりしない?」

 などといった書き込みもあった。……どうやら、巧は司とセットでないと動かない、と認識しているリスナーが既にいるらしい。これはどう考えるべきか?

 巧からは、今日の練習は巧たちのTwitch配信が終わった後に始めよう、と言われていた。巧たちはTwitchの配信を相変わらず毎日やっていたが、メルザイオスやメンバーの配信とは時間が被らないように調整してやってくれていた。今日も鴫沢レンの配信が終わってから自分たちの配信をすることになっている。

 ということは、レンの配信後、まだ一時間は猶予があるということだ。

 俺は巧たちの配信中に一人で練習を始めてしまうことにした。巧が言ったとおり、最近ゲームから離れているので、間違いなく腕が鈍っているだろう。巧たちとの練習が始まるまでに少しでも勘を取り戻しておきたい。

 巧から送られてきたURLに飛び、指示されたIDとパスコードでログインする。

 VRゴーグルをかぶり、ロビー画面で巧の指示通りにトレーニング戦を選択する。そして俺は戸惑いの声を上げた。

「……あれ?」

 俺の目の前には、VEM特有の灰色がかった青空のもとに広がる無機質な素材の床や機械の障害が並ぶエリアではなく、灰色の雲が浮かぶピンク色の空のもと、黄褐色の地面が延々と続く荒野が広がっていた。

 そして、俺から三十メートルほど先に、一人の黒髪の青年がいた。紺色の軍服っぽい服を着て、白いマントを着けている。

 長いマントをひらりとなびかせながら、青年はドラゴンと戦っていた。


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