7 突然の出場要請
「実はですね、イルマちゃん、主任にも大会に出てほしいって言っていて。それなら、よそから借りてくるのは二人で済むでしょう」
「……は?」
柏宅の言葉に、俺はそういう反応しか返せない。柏宅は俺が何も言わないのをいいことに、口早に喋りはじめた。
「桜田ちゃんの件で炎上したとき、主任がツカズって名乗ってVのガワを使って公式チャンネルで事務所の声明を読んだじゃないですか。あれの切り抜きをイルマちゃんがたまたま見て、それで、中の人って本当にうちの事務所の運営の人なの、って訊かれたんです。それで、社長のゲームの弟子だよ、って言ったらものすごく興味を示して。だったらゲームがうまいに違いない!って」
これには社長自身が怪訝そうな顔をした。
「水天宮は私のことを知っているのか?」
「そりゃそうですよ!ゲーマー属性があるライバーで一ノ瀬トウのことを知らないヤツはモグリです。とにかくですね、社長の弟子ってきいて、主任にも出てほしいなって」
「津和が出るかどうかは津和次第だな。どうする?」
「どうする、って……。俺はただのスポークスマンですが」
「それはそれ、これはこれだろう。スポークスマンがゲーマーでもおかしくはない」
「じゃあ言いますけど、もしものときのために俺は中立的な立場でいた方がいいんじゃないかと思うんですよね。もしもこの件で炎上して桜田のときみたいにまた事務所の声明を発表しなければならないとなったときに、俺が大会に参加していたら、前みたいに中立的な立場で声明を読む、ということができなくなるでしょう」
すると、柏宅は声を上げた。
「でも、主任が出なかったら、ウチは3人もよそから借りることになって、2チーム出したって見られなくなります。事務所の力がはっきり見えてイヤです」
「しかしだな。炎上したときの対応を考えると仕方がないだろう」
すると、社長が言った。
「事務所として事に当たろうというのに、そういう問題じゃないだろう」
「社長……!」
柏宅は社長をきらきらした目で見た。
俺はため息をついた。
「つまり社長は、炎上後の処理をできる人間がいなくなってもいいっていうんですか」
「現場にいる人間だからこそ発信できるものもあるだろう」
社長は力強く言い切る。あー、だめだ、これは。ゲーマーとして、競技シーンへの足がかりができるかもしれないチャンスを逃してはいけない、と、そちらに頭が向いている。
俺は副社長へ視線を向けた。副社長はのんびりとした口調で、
「しかし、メルザイオスが参加するにしても、先ほど津和主任が言われたような炎上のリスクはあるわけです。先ほど、あちらに招待した理由について言い方を考えてほしい、と条件をつけていましたが、あれは水天宮側とうちとの関係での炎上を防ぐためであって、柏宅さんが参加できなくなったことについて炎上を防ぐものではない」
「それについては私に考えがある。メルザイオスの出場については、また正式に事務所に依頼があるということでいいか」
社長が問うと、柏宅は頷いた。
「そうです。イルマちゃんは、事務所に話をする前に、私に詫びを入れておこうって思ったらしいです。正式の依頼はもうすぐ来るんじゃないかな。で、来週中くらいで参加意向を確認して、それで参加選手を決めるらしいから」
「大会の開催告知配信はいつだ」
「来月の一日にするってきいてます」
「まだ少し時間はあるか。わかった。私に考えがある。副社長、後で少し相談に乗ってくれ。津和、メルザイオスのメンバーに大会について話せ。炎上についての危険性も説明しろ。参加するしないは本人たち次第だが、メンバーの二人以上が参加するとなった場合、最終的には四人全員が何らかの形で大会に関わるようにさせろ」
「全員と言われても、さっきも言ったように周防くんはゲームをしませんよ?」
「それでも、だ。応援配信でもいい。ユニットだからな。メンバー同士の関係性を見せられるようにしろ。今はその辺が弱い。特に、周防だけが浮いている感じがする。津和、お前はメルザイオスが出るとなったら参加する、ということでいいんな?」
俺は頷くしかない。というか、俺が後方援護に回ると言っても、それでは駄目だと社長はもう決めている。ゲーマーとして、もう譲らないだろう。
俺の返事を確認して、社長は宣言した。
「他から二人借りてでも、うちからは2チーム出す。借りる相手はどうにかする。別にVTuberじゃなくてもいいんだろう」
柏宅は頷きながら、
「それは大丈夫と思います。配信者も呼ばれることになってるし。ていうか、イルマちゃんに私が掛け合います」
「しかし、弱い人を呼べないのは当然ですが、強すぎる人が来ても問題ではないですか」
副社長の言葉に社長は少し顔をしかめた。
「そうだな。強すぎてツカズを喰うようなのは連れてこられない。……んー、私が頼める相手は下手するとほとんどがそういうレベルか……」
「Rush modeの子を津和さんと同じチームにして1チーム作るのは駄目なんですか?」
福沢マネージャーが言うが、社長は首を横に振り、
「駄目だな。津和に関しても、他箱の女性ライバーと組ませることはしない方がいいだろう。今度は津和が炎上しかねない」
すると、副社長が言った。
「Vtuberでなくて良いのであれば、私の伝手で何とかなるかもしれません。eスポーツに手を伸ばしたい芸能事務所もあるので」
「それでは、助っ人のことは副社長に任せて、津和、お前はメルザイオスの連中の意向を確認してくれ」
というわけで、その日のユニットミーティングで俺はその話をすることにした。とはいえ、まず、話すべきことを話してしまわないといけない。今回のミーティングは、巧に活動をもっとしっかりやるように話す、というのが一番の目的だった。
しかし、ミーティングの時間になり、パソコンの画面にメンバー全員が揃っているのを確認して俺が口を開こうとした瞬間、巧が挨拶もなく、生き生きと話しかけてきた。
「なあ、なんか面白い話があるんだろ?それをきかせろよ」
俺は面食らう。何も知らない筈の巧が、何でそんな風なことを言ってくる?




