6 ルール運用は厳格に
社長は訊ねた。
「お前は今、水天宮の依頼を受けてコラボ解禁を頼みにきたと言ったが、そうなのか?本当は違うんじゃないのか」
社長の言葉に、柏宅は俯いた。福沢マネージャーが、
「あの、すみません、柏宅は本当に水天宮杯に出たくて」
「本当は水天宮は何と言ってきたんだ?」
柏宅は顔を上げ、
「……ごめんね、って私に。今回はメルザイオスに出てほしくて、そうなると私には出てもらえないから、って。次の大会はソロ大会で考えてるから、そのときにはお願いって言われたけど、でもきっと次もイルマちゃんはまたメルザイオスを、というか司くんと巧くんを誘うと思うんです。それってつまり、コラボ禁止の間はずっと私は水天宮杯に出られないってことになって」
「そうなるな」
「社長!」
柏宅は声を上げた。柏宅の気持ちはわかる。水天宮杯はVTuber界隈では一、二を争う権威があるイベントだ。それに参加できるかどうかは、ゲーマーとしての柏宅の格に影響が出るだろう。
副社長は目を細めながら、
「柏宅さんには申し訳ないが、コラボ禁止の方針は変わりませんよ。そして、司くんたちが水天宮杯に出るとなったら、柏宅さんは水天宮杯のあらゆることに関わることはできません。例えば、試合の観戦を配信内ですることもできません」
「それって、大会のMCもできないってことですか。イルマちゃんには、選手として出てもらうことはできないけど、そっちをお願いしたいって言われていて」
「それも勿論できません」
「そんな……」
柏宅は呆然としていた。いつも余裕をかましている柏宅には珍しいことで、俺は思わずまじまじと見てしまった。
柏宅はそんな俺の視線に気づいたようで、少し小さく咳をすると、
「津和主任、何とか言ってくださいよ。鴫沢レンがどれくらいできるかしらないけど、私の方が絶対に腕前は上です。私と組んだ方が、司くんたちは優勝できます」
「あー、いや、それはわからんが。そもそもの話として、何でメルザイオスが大会に出ると決まったように言うのかな、と」
柏宅は、あっけにとられるような表情で俺を見てきた。俺は居心地の悪さを感じながら、
「だってそうだろう。司たちにだって都合はあるだろうし。それに、司たちが試合に参加したら、リスナーはきっと、司たちが参加するせいで柏宅が出られなくなったんだ、とか言うだろう。それはそれで炎上する」
「担当マネージャーとしては、メルザイオスが大会に参加するのは反対か」
社長に訊かれて、俺は首を左右に振った。
「別にそこまでは。本人たち次第だと思いますけど、炎上を覚悟してまで参加すべきものなのかとは思います」
「お前の言うことももっともだが、私としては参加してほしいと思う。今回はチャンスだ。これに参加することで、事務所のブランドイメージに箔がつく。逆に水天宮杯への参加オファーを断ると、うちの事務所はゲーム関係では扱いにくい事務所という印象がつく」
社長が言うと、柏宅も勢い込んで言った。
「私もそう思います。今回の話を受けたら、ウチの事務所は競技シーンでもイケるんだって見てもらえるようになります。司くんたちの腕前はそれだけのものがあるし。二人のTwitchの配信を見てる人たちは知ってることだけど、YouTubeしか見ていない人たちは知らないから」
「俺もそう思う。だが、そうなると、お前は水天宮杯には出られないぞ。そこは曲げられないと俺も思う」
俺の指摘に、柏宅は唇をきゅっと噛んだが、すぐにまっすぐ俺を見て、
「……構いません、受け入れます。さっき、私も出られないかって訊いたのは、もしかしたら、と思ってのことだったので。最初から覚悟はできているんです」
「本当にいいのか」
俺の問いに、柏宅は微笑む。
「駄目ですよ、主任。私の決心を鈍らせないでください。目先のことよりも先のことを考えないと。このままだと、うちの事務所はゲームの分野では弱小ってレッテルを貼られたまま、よそに抜かれる。それで、事務所としては二度と水天宮杯の声は掛からない、それは嫌です。事務所自体に力がなかったら、できることもできないので。今回は見送っても次の機会を待てる、そんな風にしたいんです」
社長は頷き、
「そうだな。ただ、津和の言うとおり、メルザイオスの出場については本人たち次第なところではある」
すると、柏宅は俺に深々と頭を下げた。
「お願いします。メルザイオスに大会に出るように話してください。そうじゃないと、うちの事務所はいつまで経ってもゲーマー界隈では箸にも棒にもひっかからない存在で終わっちゃう。お願いします」
柏宅は深々と頭を下げた。どうしたものかと俺が考えていると、社長が言った。
「やっぱり、炎上リスクは怖いか」
「それはそうですよ。社長もわかってるじゃないですか」
「そうだな。だが、それはやりようだと思う。例えば、主催者側に少し条件をつけるとか」
柏宅は頭を上げ、訊ねる。
「条件、ですか」
「ああ。参加者発表のときに、メルザイオスを呼んだことについて少し言い方を考えてもらう。そもそも、水天宮イルマが司たちを招待したというだけで炎上する可能性がある。メルザイオスをデビューさせたときにうちが炎上したのと同じ事が起こるかもしれん」
すると、柏宅が少し顔をしかめながら言った。
「それって、イルマちゃんが司くんたちと絡みたいから指名した、みたいなことですか?イルマちゃんはそういう人じゃありません。第一、他にも男性ライバーは参加するだろうし」
「よそはどうでもいい。言い方を考えてほしいというのは、うまいライバーを選んだらこうなった、みたいな感じで言ってほしい、ということだ。色恋を全く感じさせないような感じで」
「それなら大丈夫ですよ。イルマちゃんは実力主義だし、いつもそのことは言ってるし。今回だって、言うと思います。下手なヤツに用はない、って。それを、参謀のぴのんたが、もうちょっとエンジョイしてる感じがほしいから基準を緩めてください、って言うのが大会開催告知の配信の定番のやりとりだし」
俺は訊いた。
「じゃあ、そこまでうまくないヤツも出るってことか」
「そうですね。本当に下手なライバーは出ないと思いますけど」
「他は誰が参加するんだ」
「詳しくはきいてません。参加チームは20で、企業勢VTuberが8チーム、個人勢VTuberが4チーム、後はゲーム配信者が8チームだってきいてます」
「Vだけじゃないのか」
「はい。多分、ゲーム配信者は男ばかりになるんじゃないですかね」
すると、社長が訊ねた。
「企業勢はどこが出るんだ」
「Rush modeとウチ以外には、ウミツグリとノレプです」
「企業勢で8チームなんだろう?複数チーム出す事務所があるということか」
「主催側としては、企業勢は各事務所2チーム出す形にしたいらしくて。それだと、どの事務所も平等でしょう」
「しかし、それだとうちは無理だぞ。メルザイオスだけだと四人だ」
「人が足りなければ、よそから借りてもいいから、って言われています。あ、そうだ。そのことも相談されてたんだった。メルザイオスってウチの女性ライバーとの共演NGじゃないですか。他の箱の女性ライバーとも駄目なんですか?」
「勿論だ。同じ箱は駄目でよその箱ならいい、というのでは、それはそれで燃える可能性がある」
「そうですか……。主催側としては、各事務所2チームっていうのは、どうしても守りたいみたいなんですよね。で、うちはメルザイオスだけじゃ2チーム作れないでしょう。それで、混成チームを作るにしても、メンバーを借りる当てがないんなら、Rush modeの子を貸してもいい、って言われているんですが」
俺はそこで言った。
「そもそも、周防くんはゲームをしないんだが。暇つぶしにもしないと言っていた」
すると、社長は唸りながら、
「じゃあ、三人しか参加できないか」
「はい。なので、ウチから2チーム出す、ということ自体ができません。それとも、司と巧、鴫沢レンを2チームに分けて、残りをよそから借りて2チーム作りますか」
「それはこちらとしてはやりたくないな。そもそも、六人中三人もよそから借りてくるとなると、うちが2チーム出せていると言えるかどうか」
すると、柏宅はちらりと俺を見て、
「実はですね、イルマちゃん、主任にも大会に出てほしいって言っていて。それなら、よそから借りてくるのは二人で済むでしょう」
は?




