8 試合
社長はゲームに必要な機材を貸すことを快諾した。が、自分も試合に参加させろと言う。
俺は戸惑った。社長のFPSの腕前は俺以上だ。還暦を迎えたというのにその視力も集中力も反射神経も衰える様子はなく、プロに混じっての試合経験もザラだ。だが、巧はデュオ戦をしようと言っている。向こうが巧と司の二人だからだろう。俺の代わりに社長に出てもらう?それとも健吾に退いてもらう?俺と健吾だったら、俺の方がうまい。健吾もうまい方ではあるが、俺には届かない。
社長は重ねて言う。
「VEMならトリオ戦の設定もあるから、私が加わっても問題ないだろう」
「社長、これ、例の男性ライバーの採用面接の一環なんですよ?」
「なら、私が参加する理由があるじゃないか。とりあえず、こっちに来い。話をしよう」
言われて、俺は社長室に行くことにした。どうなるかわからないが、健吾にもついてくるように言う。健吾は自身のラップトップPCを片手に社長室までついてきた。パソコンは開き放しで、通話は続いているらしい。
俺は健吾を社長室に入れると、社長室のドアをしめた。
健吾は社長に、
「すみません、今日の面接相手の二人が社長にも会いたいって言っていて」
言いながら健吾はノートパソコンの画面を社長に向けて見せた。画面にはさっきと変わらず巧と司が並んで映っている。
巧が社長を見て言った。
「よう、あんたがそこの事務所のボスだな。あんたんとこの部下にそっちのプロジェクトに誘われてるモノなんだけど」
「ああ。初めまして、私が社長の一ノ瀬だ。そっちは?名乗らないのか?」
「俺は巧。こっちが司」
社長は少し考えるようにしながら、
「Twitchにチャンネルを持っている、あの司と巧で違いないか」
「ああ。信じられない、って感じか?」
「まあ、アカウントの名前からすると日本人だが、本当に日本人かどうかは疑ってたからな」
「俺たちの配信を見たことがあるんだ?」
「ああ。何回か」
「最初の頃は日本語で配信していたんですけどね」
司がほほえみながら言う。
「でも、その頃の配信はアーカイブには残っていないんで、僕たちが日本語で配信していたのを知らない人の方が圧倒的に多いでしょうね」
「最初の頃というとリスナーも少なかったろうし、そうなるだろうな」
納得した様子の社長に、巧が、
「そんなことはどうでもよくってさ、俺たち試合がしたいんだけど」
「わかってる。機材を使わせろっていうんだろ。いいぞ。ただし、条件がある。私も試合に参加させろ」
巧と司は少し驚いたような表情をしたが、巧の方はすぐに、
「いいぜ。大歓迎だ。やろう」
すると、そういうことなら、と健吾が、
「僕が抜けて、社長さんとツカズさんの二人で組めばいいですよ。社長さん、ツカズさんよりも上手なんでしょう」
こいつうまくやりやがった、と俺は半ば非難の目で健吾を見た。健吾は苦笑している。
が、画面の向こうから巧が言った。
「何でそうなるんだよ、健吾。お前もライバーの仕事に誘われてるんだろ?だったらお前も参加な」
「でもそれだと、そちらの人数が足りないでしょう」
健吾が澄まして言うと、巧はにやりと片方の口の端をつり上げて笑った。
「大丈夫だ。一人当てがある。そいつは超初心者だから、俺らのハンデにはちょうどいい。そいつを参加させるのに話さないといけないから、十五分後に俺が立てたルームに入ってこいよ。健吾、お前のところにサーバーのアドレスとパスコードを送っておくから。じゃあ、十五分後にな」
巧は画面の外に出ていき、司が少し怪訝そうな表情をしながら、じゃあ十五分後に、と言って通信は切れた。
アドレスとパスコードは十分後に健吾のスマホに送られてきた。それを共有し、俺と社長と健吾は、それぞれ社長室にあったPCからログインし、ゴーグルを装着してVR世界に入った。社長室には機材がいくつもあって、こういう状況にも余裕で対応できる。
VEMはリアリスティックな銃器バトルを追求したVRのFPSだ。プレイヤーが操るキャラクターに能力差はない。差が出るとしたら、プレイヤーの腕前と装備の違いによる。
招待プレイヤー一覧の画面を開いたまま、巧たちがログインしてくるのを待つ。そこには参加人数しか表示されていない。
ロビー画面を眺めながら、俺は少し違和感を覚えていた。画面のデザインが、いつものVEMと違う。表示されている項目はほとんど同じだが、並びが違うし、背景の色味やフォントも違う。強いて言うなら、正式サービス前に一度だけ参加したクローズドテスト版のVEMを思い出した。
約束の時間になると全チームの人数表示が埋まり、試合が開始された。ステージは廃墟となったマンションが立ち並ぶ町で、そこを舞台での生き残り戦である。
俺たちは建物の中で武器を漁った。落ちている武器を拾いながら、社長が首を傾げる。
「長距離レンジの武器がないな。銃はどれも射程距離が短い。あとは近接武器か」
「確かに。多分、接近戦になりますね」
そのとき、健吾のスマホから着信音が鳴った。健吾はVRゴーグルを外してスマホを確認し、それから怪訝そうに言った。
「巧さんからメッセージが来ました。北東の農場に行け、ポイントを稼がせてやる、だそうです」




