7 突然のゲームのお誘い
呆気にとられる俺をよそに、健吾が巧に話しかけた。
「こんにちは、巧さん。初対面の人がいるのに、いきなりそれはないでしょう」
「そうだよ、巧。まずは挨拶でしょ」
「でも、それって必要か?俺らがライバーの話を蹴ったらもう関わることはないだろ」
巧の言葉に俺は背筋を正し、腹に力を込めて名乗った。
「あの、初めまして。ライバー事務所Postnuvila Worksの津和徹和と言います。よろしく御願いします」
すると、巧は一瞬意表を突かれたような顔をしていたが、次の瞬間には笑い出していた。
「面白いな、お前。うん、気に入った。俺は巧。こいつは司。そこの氷上健吾の知り合いだ。で、もう自己紹介は終わったんだし、ゲームをやろうぜ、VEM。そっちとこっちでデュオ戦な」
VEMとは、正式タイトル「Vivere est militare」の略で、VR方式のFPSだ。
司が呆れたように言う。
「巧、紹介が雑」
「えー、これ以上口で細々言ってもまどろっこしいだろ。ゲームやればいろいろとわかるんだし」
「それはゲームをやりたい口実でしょ。同じチームでやるんならともかく、デュオ戦で対戦してたらわからないんじゃない?それとも、巧は津和さんと組むつもりなんだ?」
「んなわけないだろ。俺はお前と組む。これは決まってる話だ。そうじゃなくて、敵として戦ってるのを見てるだけでもわかるもんがあるだろ。あと、設定で近接ボイスチャットをオンにしておいたから、交戦中に話したりできる」
「もしかして、もうこのために試合のセッティングまでしたんだ?珍しく初対面の人に会うつもりでいるなと思ったらこれとはね」
二人のやりとりをきいていた健吾が小声で俺に言った。
「多分、ゲームをしないと巧さんとはこれ以上話ができませんよ。どうします?」
「勿論プレイする。ただ、Twitchの配信動画を見た限りだと、俺は二人のレベルに及ばない」
「僕なんかもっと足りてないですよ。大丈夫です、多分、ゲームが下手だからという理由でデビューの話を蹴られるということはないと思うんで。そういうのは分けて考えられる人なんで」
「おーい、話はまとまったか?」
画面の向こうから巧が呼びかけてきた。健吾が答える。
「はい。試合をやるのはいいですよ。何時からにしますか」
「面子揃ってるんだし、今すぐだろ」
「でもこっちはゲームができる環境じゃないんですよ。僕たち、ツカズさんの会社の会議室にいるんです。使ってるパソコンもゲームができるようなスペックはないし、VRゴーグルだってないし」
「そんなの知るかよ。ライバー事務所なんだろ、事務所からライバーが配信するための機材とか揃ってるんじゃないのか」
機材は確かにある。が、
「会社の機材は使えない。ライバー用のだから、俺が使うわけにはいかない」
「じゃあ何とかしろよ。俺は今すぐゲームがしたいんだから」
巧は明らかに機嫌を損ねていた。司がとりなそうとするが、駄々をこねる子どものように受け付けない。
司がそっと画面越しに健吾に視線を送ってよこした。健吾が何かに気づいたような表情をし、それから俺に訊いてきた。
「ツカズさん、この社内にゲームができる環境が、ライバー用以外にもあるんじゃないですか。例えば、社長さんはゲーム好きですよね。社長さんが会社にも機材を置いているとか」
「あ」
俺は思わず声が出た。確かにある。社長室にはそれこそ最高性能の機材が揃っている。
「わかった。ちょっと社長と話してみる」
俺はすぐにスマホで社長に電話をした。
すぐに電話に出た社長に、俺は経緯を話した。例の男性アイドルプロジェクトのための面接をしていて、その面接相手から今からゲームをしようと誘われていること、相手が気分屋で、それに応じないと面接自体も打ち切られそうなこと、それを避けるためにマシンを貸してほしいことを。
社長は訊ねてきた。
「ゲームねえ。何のゲームだ?」
「VEMです」
すると社長は大きく頷きながら言った。
「わかった。貸してやる。ただし、私も試合に参加させろ」




