3 周防の忠告
どう見ても、周防がモデルだとしか思えない登場人物や、実際にあった心霊番組のロケで起きた話を元にした映画脚本で、それを読んだ俺が真っ先に思ったのは、これはうちの事務所にとっては問題なのではないか、ということだった。
まあ、一般人からしたら、そんなロケが実際にあったかどうかなんてわかりはしないだろうが、業界人からすると、ああ、あの件か、とわかるだろうし、何より映画会社が、これは実際にあったことです、と宣伝をやりかねない。
そうなると、登場人物のモデルは誰だ、となり、恐らく周防にたどり着く。そして、芸能界に流れている、周防章はとあるテレビ番組で心霊スポットのロケで心霊現象に巻き込まれた結果、呪われ、彼が写真や動画に映るとその顔に黒い影がかかるようになった、という噂が改めて注目されるだろう。
そうなったとき、うちはどう立ち回るか。周防の写真を撮ろうとする輩が数多く出てくるだろうし、そうなると周防に関する噂が本当であると証明されてしまうし、その結果として、水子云々みたいなデマまでもが事実であると誤認されるかもしれない。それは避けなければならない。
一番いいのは、映画化をやめてもらうことなんだが。それは難しいんだろうなあ。
周防はため息をついた。
「監修は引き受けてもいいです。でも、ロケへの同行はどうでしょうかね。そこまで必要ですか」
「実は、ロケ現場は七つ哭谷のあの場所を考えていて」
真中が言う。すると周防は、
「ロケの場所は別なところにした方がいいですよ。でないと、またおかしなことに巻き込まれかねない」
「周防さんが来てくれればいいんじゃないですか」
「僕は行きません」
横から茅野会長が、
「なあ章、撮影場所はよそにするとしても、お守りとしてこの事務所に関わってほしいんだが。そういうホラーとか超常現象を扱った作品を撮影すると、おかしな現象が起きるというのはよくきく話だろう」
「わかりました。ロケの際には、うちのスタッフが行きます。津和さん、僕が映画に協力するのはそういう方向性で構いませんよね?」
「映画自体への協力はこちらの事務所のことだからうちがどうこう言うことじゃないけど、映画の宣伝で周防くんが巻き込まれるようなことは困るなあ」
すると、真中は難しい顔になった。
「そんなことを言われても、こちらも困ります。映画が出来たあとに配給会社が考えることですし」
「しかし、実際の出来事を元に制作しました、とかいうような宣伝をとられたら、絶対にこのロケや心霊スポットの特定が始まる。この二枚目俳優のモデルが誰か、なんかも絶対に。そうなったら、恐らく周防くんにたどり着くでしょう。そうなると、周防くんが何故俳優活動を退いているのかが話題になって、呪い云々みたいなことが一般に言われるようになるのは困ります。周防くんのVTuberとしての活動が世間に受け入れられてきているところなのに」
「でも、だからってこの作品を撮るのをやめるなんてことは絶対にできないですよ。少なくとも、僕はやり遂げたい。やっと巡ってきたチャンスなんです!」
「だから、映画を撮ることについてこちらはどうこう言っているわけじゃないんです。目立つ形で周防くんを巻き込まないでほしい、ということです。その結果、周防くんに注目が集まって、写真に影が映るっていう噂が広く知られるようになると困ります」
すると、茅野会長は小さくため息をつき、
「映画の宣伝方法については、こちらから話してみる。そもそも、この賞の協力先としてうちが入っているし、所属タレントも出演させるし、話はしやすいと思う」
「絶対の約束とはならないんですね」
無理だろうなと薄々思いながら、俺は言った。
すると、会長は深々と頭を下げた。
「そちらに迷惑はかけないようにできる限りのことはする。なので、心霊現象対策だけでも引き受けてほしい。この作品に関わったタレントに不調が起こらないようお願いしたい。心霊の分野で、この事務所以上に頼りになるところを俺は知らないんだ。章自身が関わらなくてもいい、スタッフでいいから、誰か人を出してくれ」
すると、真中が声を上げた。
「駄目だよ、それじゃ。周防章には現場に来てもらわないと。でないと、いろいろとおいしくないじゃないか!」
「そういう風に章を使うのは駄目だと、最初から言っているだろう。章の今の活動にも支障が出るし、津和さんのところに迷惑がかかる」
「でも、おじさん!」
おじさん?
俺と周防は顔を見合わせた。会長はため息を一つつき、また頭を下げる。
「すまない、本当は最初に言うべきだった。こいつは俺のいとこの子で、小さい頃から知っているんだ。勿論、こいつの弟も知っている」
道理で、と、周防は呟くように言った。
「おかしいと思ったんです。会長は、自分のところを離れたからって、一度自分が面倒を見たタレントが困るようなことはしない人なのに、どうしてこの映画の話は前に進めようとしているんだろう、って」
「すまない。こいつの親父、まあ俺のいとこだが、そいつも映画を作りたいっていう夢を見ていてな。かなわないままに死んでしまったが、その息子が父親と同じ夢を見て、しかもそれを叶えようとしていると思うと、どうしても肩入れしてしまって」
「どうします、津和さん。僕はさっきの条件でもう仕方がないかなって思っているんですけど」
周防に訊ねられて、俺は確認する。
「映画の監修はするが、ロケの同行まではしない?」
「ええ。でも、津和さんは運営側として考えることがあるでしょう。僕に火の粉がかからないようにしないと、ユニット全体に影響が出かねない。会長もそれはわかるんじゃないですか」
「それは、まあ……」
渋々とではあるが頷く茅野会長に対し、真中は、
「僕は絶対に映画を作りますからね!あなたの許可なんか、そもそもいらないんだ。監修だってロケの立ち会いだっていらない」
すると、途端に茅野会長の顔色が変わった。
「駄目だ、絶対にこの事務所に関わってもらわないと。お前、うちのタレントがどうなってもいいのか。最悪の場合、章みたいになってしまうかもしれないんだぞ?」
その瞬間、部屋の空気が凍った気がした。




