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男性Vtuber四人の担当になったが、全員普通ではなかった話  作者: 弓園千尋
第二部 第1章 騒がしくなる 
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8 周防の反応

 俺は鳴瀬と伊東が持ってきた件について、周防に話した。周防はさすがに深刻に受け止めた様子だった。

「行道くんから昨日、きいてはいたんです。津和さんから、開示請求の進み具合を訊かれた、って。何かあったのかなと思ったんですけど、そういうことでしたか」

「ああ。だからといってお前さんに何かしろとかいうわけじゃないんだが、少し心に留めておいてほしくてな」

「わかりました。もしかしたらマスコミでそういう動きをしてくるところもあるかもしれないなとは思っていたんですが」

 そう言って、周防は小さく笑った。俺は怪訝に思って訊ねる。

「何だ?」

「いえ、なんか、本当に芸能活動復帰したんだな、って。勿論配信のときのリスナーの反応とか自分のチャンネルの登録者数とかXのフォロワーの増え方なんかで、表に出る活動をしているんだっていう実感は得ていたんですけど、でもマスコミまでもが動き出すっていうのはまた違った感覚があるっていうか、緊張感が出てくるっていうか」

「嫌じゃないのか」

 周防の様子が生き生きしているのが俺には不思議で訊いたのだが、周防は口元に笑みを浮かべ、

「いいえ。寧ろ楽しいですよ」

 俺は少し目眩がした。こういう精神構造のヤツを理解できる気がしない。しかもそれが俺の担当タレントっていうんだからな。まあ、神経が太いのは良いことだ、くらいに思っておくか。

「まあ、今日の本題はそういうことだ。顔を見て話したかったっていうか、電話とかで伝えるのも少し違うと思ったんでな。オンラインでも良かったんだが」

「すみません。僕が環境を整えられなくて」

 周防は鈴木の家の離れに住んでいるが、気がつくと鈴木の妹の和が入り込んでいたりしていて、人の耳のない場所を確保するのが難しいというのは前からきいている。そのせいで、毎週金曜日の配信も、うちの事務所からやっている。それはいいんだが、

「配信のたびに事務所に来るのも大変じゃないか」

「行道くんには、離れを改造してもいい、と言われているんですけど、それもちょっと、と思って。物理的ではない方法で人の耳を気にしなくていいようにやろうとすることもできるけれど、常時それをやっていると疲れるので」

 物理的ではない方法って、魔法とかそういうことか?……なんだか俺、そういう考え方になじんできてるか?いかんいかん。

「鈴木の家を出るとか、そういうことは考えないのか。給料はそれなりに出せていると思うが。……そもそも、もう一つの仕事の方でも給料はもらっているんだろう?」

 芸能の仕事がなくなったら家賃が払えなくなって困る、と周防が言っていたから、鈴木は自宅の離れに住んだらどうかと提案した、ときいている。お金の問題が解決すれば、もっと便利なところに住めるのではないか。

 俺がそのことに気付いて周防を見ると、周防はわずかばかり首を傾げながら、

「そうなんですけど、家業の方はなかなか収入が不安定なので。そうそう、配信のことなんですけど、家業の事務所の方に一部屋、防音室を作ってもらうように話をしているんです。そちらが完成したら、そちらから配信できますよ」

「それはこちらとしては申し訳ないというか……一度、そちらにも挨拶に行った方がいいのかな」

「別にそれはしなくて大丈夫です。スタッフは僕の活動に理解を示しているので。寧ろ、僕が今みたいに活動できるようになって良かった、って言っています。呪いの件に見舞われる前から、いつか障りが原因でカメラの前に立てなくなる日がくるんじゃないかって、心配されていたので。今のような形なら、そういうのは関係なくやれるでしょう」

「その、障りとやらで機材が動かなくなる、とかいうことはないのか」

「対策をすれば大丈夫です。うちはそんな素人じゃありません。……といっても、今回の僕の霊障には手も足も出ていないので、説得力はないですけど」

「いやまあ、普通の配信に支障がでなければそれでいいと思うが」

「ええ、うちは専門家なので安心してください」

 周防はほほえむ。俺はまたその精神力に感心してしまう。

「お前さん、すごいなあ」

 俺の言葉の意味がわからない様子で周防は小首を傾げる。

「何がですか?」

「いや、呪われたりしても、精神的に参ってる様子はないし、芸能記者に狙われてるってきかされても、動揺しないし。お前さんはそういうスキャンダルは今までなかったから、少しはぐらつくかなと心配していたんだが」

「別に、疾しいことはしていないので」

「そうだよな。まあ、こっちがいくら正しいことをしていても、難癖つけてくるやつは難癖つけてくるからな。わかった。それにしても、お前さんを写真に撮ったら影が映るとかネットに書いたヤツは、業界の人間なんだろうか」

 その噂は芸能界で流れているときいたが。

「どうですかね。開示請求の結果を見たらわかることですけど、そもそも僕の姿を写真に撮るなんて、業界の人間じゃなくてもできますからね。通りすがりに僕に気付いて勝手に撮っていくとか」

「確かにそうだな。近所の人とかだって撮ろうと思えば撮れるし」

 嫌な考えだが。しかし周防は小首を傾げて、

「そうなんですけど、今住んでいるところはそういうことはないんですよね。近所の方がよくわきまえているというか。引っ越しのときに行道くんと挨拶回りをしたんですけど、そのときに、芸能人だったけど今は活動をしていないから、写真とか撮らないでください、って行道くんが言ってくれたのが良かったのかもしれない」

 なるほど。

「それは安心だな。それにしても、通りすがりの人に何の気なしに撮られた写真でも全部影が映るんだろうか」

「いろいろ試してみましたけど、そのようですね。少なくとも、写真を撮る側が、僕を被写体として認識している場合は。僕が周防章だとわかっていなくてもそうでした」

「じゃあ、本当にたまたま風景の一部として映ってた、とかそういうのなら?」

「ええ。そういうときには影は映ってなかったですよ」

 それではやはり芸能人として露出するのに致命的ではないか。

「その、呪いっていうか、障りっていうか、それは弱くなったり薄くなったりしないのか。時間が経てば少しずつ薄くなるとか、日によっては薄くなる、とか」

「今のところはないですね。気がついたときにうちの事務所のスタッフが僕の写真を撮ってみるんですけど、変わりないです。何だったら、今、津和さんも撮ってみますか?」

 言われて、俺はスマホで撮ってみた。前に撮ったときとかわらず、顔にべったりと黒いインクが吹き付けられたような影がかかっている。

「確かに前と変わらないなあ。でも、健吾が撮ったときには影が薄かったから、その時々によるってことはあるんじゃないかと思ったんだが」

 周防は少し怪訝そうに、

「氷上さんが撮ったらそうだったんですか?」

「ああ。お前さんと初めてここで会ったときに、俺が写真を撮った後、健吾も撮っていたろう。あのときに見せてもらったけど、影は確かにかかっていても顔の輪郭というか、目鼻がどうとかいうのはわかる程度に映ってた」

 俺の言葉に、周防は考え込む様子を見せた。

「……氷上さんは僕と会う度に、写真を撮っていいかって、訊いてくるんです。それで、撮るたびに、やっぱり影が映りますね、って言って、僕には撮った写真を見せないまま、その都度写真を消しているんですけど」

「そりゃまあそういうものなんじゃないか」

 正体不明の影が映った写真なんて、残してはおかないだろう。

 だが、周防は眉間に少し皺を寄せながら、

「氷上さんは次はいつこちらに来るんですか」

「いつかなあ。配信はもう自宅からやってるから」

「明後日のユニットチャンネルの配信も、ここからではない?」

 毎週日曜日の夜はユニットのチャンネルの配信日だが、四人全員が参加するのではなく、鴫沢レンを軸に、メンバーの誰かが出演する、という形になっている。四人全員が揃ったのは、デビュー後一回きりではないか。明後日は巧と司を加えての三人での配信だ。

「明後日も自宅からだな」

「そうですか。わかりました。あの、氷上さんがこちらに来る用があったら、僕にも連絡をくれませんか」

 俺は了解した。

 その後は周防は3Dのモデルでダンスパフォーマンスをしたい、といういつもの要求を切り出してきて、それに対して俺は少し待つように、と言い聞かせる、というやりとりをしているうちに、夏代室長が周防を呼びにきた。それでやっと俺は解放され、周防を碌に見送ることもせずに這々の体でマネジメント室に戻った。あー、疲れた。

 しかし、休む暇もなく、今度は社長に呼び出される。鎔先生の引っ越しが終わったから、そのお祝いをしよう、という件だ。俺は夏代室長から社長へのクレームをまず伝えてから、鎔先生の引っ越し祝いの話を進めた。

 そんな話をしてからまた自分の席に戻り、疲れた、と突っ伏していた。しばらく俺はそのまま動かなかったが、ふと、何かの視線を感じて体を起こした。

 と、机の上に見慣れないぬいぐるみがあった。手のひらに乗るくらいの、バク?アリクイ?みたいな、白黒のぬいぐるみだ。

「なんだ、こりゃ」

 俺は手を伸ばしてぬいぐるみを手にとった。そこへ前島主任がやってきた。

「あ、津和主任、それ、忘れ物です」

「忘れ物?」

「ええ。津和主任と周防さんが使ってた会議室、私たちがその後で使ったんですけど、それとその手提げが置いてあって。多分、周防さんのですかね」

 俺は、ぬいぐるみの傍に小さな手提げ袋も置かれているのに気がついた。確かにこちらには見覚えがある。今日、周防が事務所に来たときに手に提げていたサブバッグだ。

「あー、リハーサル会場に届けるか?」

 しかし、行くと藍堂がいるしなあ……。きっと俺を捕まえて、いろいろ文句を言ってくるに違いない。そしてもしかしたら周防にまで絡んでくるかもしれない。

 それに、これからまた幾つか打ち合わせの予定が入っている。

 俺は周防に、事務所に忘れ物があったこと、それを届けに行きたいが、他の予定が入っていてすぐには出られないこと、をメッセージで送った。

 返事は来ない。

 俺は仕事を続けた。午後の三時を過ぎても連絡はなく、どうしたものかと思っていたら、周防から電話が入った。

「あの、すみません。忘れ物のことで」

「ああ、どうしようと思っていたんだ。俺は今からなら出られるが、リハーサル会場に届けに行ったらいいか?」

「いえ、もう僕はうちの家業の事務所に戻っているところで」

「じゃあ、そっちに届けようか」

「いや、そこまでは……。でも、そうですね、もしよければそうしてもらえると。明日の仕事で使うものが入っているんで」

 明日の仕事って、心霊調査とかお祓いとか、そういうことか?……それをきくと、ますます届けなければという気になった。


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