7 周防の懸念
周防が来るのをマネジメント室の自分の席で仕事をしながら待っていると、プロダクト室の夏代室長がずかずかと入ってきた。そして、俺のところまで歩いてきながら言った。
「津和主任。ちょっと話があるんだが。メルザイオスの件で。巧と司、あれ、どうにかならないか」
どうにか、とはどういう意味だ?巧と司は、VTuberとしてのデビュー後も以前と同様にTwitchの配信を毎日続けている。司はさらに一人で週に一回YouTubeの配信もしていて、活動についてどうにかしろ、と言うのなら一人で配信をしていない巧だけになるが、それにしたってプロダクト室に言われることじゃない。
夏代室長は頭をがしがしと手で掻きながら、
「あの二人が社長を大会に誘うから、社長の時間がとれない。いろいろと相談しないといけないことがあるのに」
「あー、それは社長に言えば良いのでは?」
「言ってる。対応もしてもらってる。けど、スピード感が足りないんだよ。もっと即座に対応って感じにしてもらいたいのに、後回しにされるっていうか。社長的には、二時間くらい待たせてもその日の内に対応してるからいいだろ、ってもんなんだろうが」
俺は素直に頭を下げることにした。
「申し訳ない。あの二人に言います。それと、俺からも社長に言います。少しは考えてくれ、と」
「頼んだよ」
そう言って、室長は部屋を出ていった。入れ替わりに、周防が入ってくる。夏代室長はすれ違いざまに、後でな、と周防にフランクに声を掛けていた。……なんか、俺に対するのと全然態度が違うんだが。
「どうかしたんですか。巧くんと司くんの名前が聞こえましたけど」
周防は興味津々といった風に訊いてきた。まあ、室長は声が大きいからなあ。俺は肩を竦めて、
「いや、大したことじゃないんだ。それじゃちょっと部屋を移ろうか」
あらかじめとっておいた会議室に移り、俺は話し出した。
まずは、歌ってみたの件から。
「健吾から、歌ってみたの動画を出そうと周防くんに誘われてるってきいた。俺は全然知らなかったんだが」
ちょっと責めるようにきこえるかな、と思いながら俺は言った。周防はめげる様子もなく、軽く笑いながら、
「ああ、その件ですか。次に何を出すかといったら、歌ってみたになるだろうと思って、津和さんに言われる前に準備をしていただけですよ。一言言えば良かったですね」
そう言われると、こちらも文句は言えない。俺はちょっと言葉に詰まる。
周防はうっすら笑みを浮かべ、
「氷上さんが相談してきたんですか?彼、どんな様子でした?この件についてはあんまり乗り気な様子ではなかったですけど」
「頑張って練習してたよ。ただ、何で二人で歌ってみたを出すんだって言ってた。四人全員でやればいいんじゃないかって」
「それも考えたんですけど、四人のバランスを満たすような曲を見つけるのがなかなか難しくて」
二人でやれそうな曲なら簡単に見つけられたということらしい。
「まあ、二人でやるとなって、健吾を誘ったのは判断としてはいいと思うけどな。メルザイオスの一番人気は鴫沢レンなんだし」
「そうなんですけどね。でも、本当は僕は巧くんとやりたいんですよ。歌の技量でいけば、僕以外のメンバーの中では彼が文句なしに一番だから。多分、彼相手だったら僕は遠慮せずに歌うことができる」
意外だった。
「お前さんは、巧を敬遠しているのかと思っていたが」
「彼は確かに警戒しないといけない相手ですよ。でも、前にも言いましたけど、芸能活動の同僚としては文句なしに強力なんで」
「でも、巧を誘わなかった?」
「誘えないでしょう、彼はいつも司くんを間に立ててくるから。司くんが邪魔するとは思わないけど、巧くんは司くんを理由に断ってくるんじゃないかな。……実は、僕らの活動のネックは最終的にはそこになるんじゃないかと、僕は思い始めているんですよね」
「そこ、とは?」
「巧くんと司くんの関係性ですよ。リスナーにはそこはおいしいポイントらしいんですけど、僕からみると、巧くんが司くんに依存しているように見える。巧くんにはいろいろな可能性があるのに。司くんもわかっていると思うんだけど、突き放さない」
「その必要はないだろ。というか、面倒くさがりの巧を司がうまくつついて動かしているから、メルザイオスの活動にも巧が参加しているように俺は思っているが」
「それはそうなんだと思いますよ。今の段階ではそれでいいと思います。でも、先々、巧くんが司くんから自立していないのが足かせになるんじゃないかって。まあ、そんなことまで心配しないとならなくなるのは、メルザイオスがかなり人気になって、活動が今よりも幅広くなってからでしょうけど」
うーん、そういう風になっても、今のままで問題はないのでは?俺からすると、司は巧にとっては理想的な保護者に見える。……いや、保護者がいるってのがそもそも問題か?
「まあ、そこまでになったら、そのときには考えるさ」
「そうですね、そこに至るまでにもいろいろとやれることがあるでしょうし。それで、歌ってみたの件で僕を呼びだしたんですか?」
「いや、本題は別にある」
俺は鳴瀬と伊東が持ってきた件について、周防に話した。
周防の表情はどんどん引き締まっていった。




