4 そういえばお祓いの話を
鈴木は困惑したような表情で、
「何でも、あの業界……というんですかね、祓い屋の界隈というか、そちらも競争が激しいらしくって。周防さんの家は古くから続くそういうことに強い家で、いわゆる名家旧家っていうか。それに対して新興勢力が対抗してきたりとか、同じ旧家同士で足の引っ張り合いっていうか、そういうのがあるらしいんですよね。その辺りは僕にはよくわからないんですけど。周防さんも、関わっても碌なことにはならないから知らない方がいいって言って話してくれないし」
「業界……そんなものがあるのか」
「らしいんです。びっくりですよね。でもそう考えたらちょっと納得することはあって。僕、前に周防さんに言ったんですよ。他にそういう力のある人がいる家とかあるんだったら、そちらに頼んで呪いを祓ってもらうとかできないのか、って。周防さんの家は周防さんが一番力が強いらしくって、その周防さんが無理となったら、周防さんの家以外の人に頼るしかないじゃないですか。でも周防さんは、それはできない、って言って」
「何でだ」
「そんなことを他の家に頼んだら、生殺与奪を相手に握らせるようなことになるから、って。競争が激しい業界だっていうんなら、そういうこともあるのかな、って」
「なるほど」
言いながら、俺はひっかかるものを覚えていた。
祓う?確か、周防についているモノを祓える人がいるとか、そんなことを……そうだ、健吾が前に言っていた。
そのとき、鈴木のスマホに着信があった。ポケットから取り出したスマホの画面を見て、鈴木が慌てたように言う。
「すみません、夏代室長から、マウスを取りに行っただけなのに何でそんなに時間がかかるんだ、って、メッセージが。すみません」
鈴木はぺこりと頭を下げると、小走りに部屋を出て行った。
それを見送って、俺は早速とスマホをポケットから取り出し、健吾に、ききたいことがあるから連絡がほしい、とメッセージを送った。例の、祓える人について話をきくためだ。最近は配信をグラハムのマンションからやることが増えてきていて、事務所に来る機会が減っており、直接会うこともなかなかない。
すると、すぐに電話がかかってきた。
「あの、訊きたいこと、って何ですか」
電話の向こうから聞こえる音からすると、健吾はどうやらカラオケボックスにいるらしかった。
そして何故か健吾のテンションは低い。今は夏休みで、仕事や武道等の稽古がないときは基本的にフリーだ、と健吾は言っていたので、気軽にメッセージを送ってみたのだが、
「すまんな、取り込み中に電話をくれて。ちょっと訊きたいことがあってだな。今、他の人の耳は、今、周りにないか。大丈夫か」
呪いがどうこうとか、誰かの耳に入っていい話ではない。少なくとも俺だったら、通りすがりの人間がそんなことを喋っていたら思わず二度見する。
よく考えたら、メッセージでやりとりすればいいことか。でも、いろいろと訊きたいことがあるから、電話が手っ取り早いんだよなあ。
どうやら健吾は一人ではないようだった。電話の向こうで健吾に話しかけている女性の声が聞こえる。……この声はもしかして瑠璃か?
俺は焦った。まさかデートの最中に健吾は電話してきてるってことか?俺が邪魔したってことか?でも、それならメッセージを後で返してくれても。……いや、仕事のことだからと健吾がこちらを優先したってことか。
「すまん、健吾。今、都合が悪いのだったら、後で返事してくれたのでいいから」
「いえ、大丈夫です。えっと、僕、今、歌の練習のためにカラオケボックスにいて。ツカズさん、今からこっちに来られませんか。ツカズさんの意見をききたくて」
「俺の意見?」
俺に歌のことを訊かれても、と思ったが、
「周防さんに、次に一緒に歌ってみたを出そうって誘われていて。幾つか候補曲をもらったんですけど、どれもしっくりこないっていうか、うまく歌えてる感じがしないっていうか。それで、瑠璃ちゃんとか真田にもきいてもらってるんですけど、意見が一致しなくて」
なるほど、それで俺の意見がききたい、か。
マネージャーである俺の知らないところで、次に出す歌ってみた動画の相方にと周防が健吾を誘っていたのに驚いた。そうときいたら、これは行くしかないか。ただ、行っても呪い云々の話はできそうにないなあ。
「ツカズさん?」
「いや、何でもない。わかった、今から行く。場所はどこだ」
俺は自分のトートバッグをさっと肩からさげると、すぐさま事務所を出た。ついでにどこかで昼を食べてくるか、と思いながら。
カラオケボックスの受付で、健吾から教えられた部屋番号と代表者の名前を言う。呼坂、という名前で部屋はとられていた。呼坂、って誰だ。
俺が利用申し込みの手続きをし終えたところへ、後ろから声が掛けられた。
「仕事とはいえ、馬に蹴られにやって来るなんてご苦労様」
振り向くと、壁際に置かれたベンチに、小柄な女の子が座っていた。髪はぱっつんのおかっぱ、白いノースリーブのシャツにショッキングピンクの太股丈のバルーンパンツ、そしてそれに長い黒のソックスを合わせている。
その猫みたいな目を見て、それが誰かすぐにわかった。
真田だ。




