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男性Vtuber四人の担当になったが、全員普通ではなかった話  作者: 弓園千尋
第8章 スポークスマンが見たもの
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7 周防に渡されたもの

 ユニット名は「メルザイオス」に決まった、と周防は言った。今日の午前中に社長がメンバー四人をオンラインで召集し、そこで話し合ったらしい。

 初めてその名前をきいて、俺は思っていたのと全然違ったことに内心落胆していた。俺は、踊る星、というのをどこかの国の言葉で言い換えたらっていうアイデアを出し、社長はそれを生かす、と言ってくれたのに、その要素がどこにもない。あれだけ必死に考えたのに。

「津和さん?」

 周防が不思議そうに俺を見る。俺は我に返って、

「いや。俺が出したアイデアはどこに行ったんだろうって」

「だから、津和さんが出したアイデアを元に考えたって言ったじゃないですか。メルザイオスというのは、巧くんと司くんがTwitchの配信で喋っている言葉で、踊る星という意味だそうですよ」

「……そうなのか?」

「ええ」

 周防の説明では、俺からユニット名のアイデアをきいた後、踊る星、というのを何語に訳せばいいか、社長はいろいろネットで調べたが、ピンとくるものがなかったらしい。もうこうなったら、俺には申し訳ないが全く違ったアプローチで考えるか、と当事者である健吾たちユニットメンバーをオンラインで集めて話し合いを持ったが、誰も良いアイデアを出さなかった。というか、周防も含め、メンバー全員が俺のアイデアを支持したらしい。

 じゃあどうする、となったときに、社長がふと思いついたように、巧と司に、

「お前たちが普段Twitchで話している言葉だと、踊る星、というのはどう言うんだ」

 と訊いた。周防はその問いに驚いた。巧や司と一緒にデビューすることが決まってから、周防は二人のTwitchの配信をきいてみたのだが、確かに今までにきいたことのない言葉で二人は話していて、しかしそれは全く出鱈目にただ音を発しているだけだろうと周防は思っていたので、あの配信で使われているものをまともな言語として扱おうという考えが全くなかった。

 が、訊かれて、巧と司はすぐに、二人揃って、

「メルザイオス」

 と言った。それは、実在している言語の単語を答えるのと何も変わらない口ぶりだったという。

 俺は、自分のアイデアが生かされていることに安堵したというか、単純に喜びを覚えた。うん、良かった。悩んで。社長に託して。

 周防は俺の表情をじっと見ていたが、津和さん、と俺に訊いてきた。

「津和さんは、Break a legのアレンジャーを誰にするかで桜田さんを探しに行ったときのこと、どう思っていますか」

「どう、とは?」

「いえ。桜田さんを僕や巧くんたちが簡単に見つけられたことについて、ですよ。友人である上月さんはそれまで散々探していたらしいですけど、見つけられなかったそうです。それを、僕や巧くんたちは一時間足らずで見つけた」

「あー、そのことか?うーん、お前さんは家業のノウハウが、とか言ってたし、心霊関係のそういうのでどうにかしたのかなって。占いとか」

「なるほど。じゃあ、巧くんたちは?」

「巧たちか。それは、もしかしたら最初から桜田の居場所を知ってたのかもしれないと思ったな。桜田の情報漏洩の証拠は、巧たちの知り合いが調査して集めてきたものだったし、その調査の過程でわかっていたんじゃないかって」

 というのは、俺が立てた仮説のうちの一つだ。実のところは、巧や司が魔法を使えるというのを知っているので、俺としては、巧たちは魔法で調べたのではないかと思っているのだが、そんなことは周防には言えない。

 周防は納得した風で、

「そうですか。なるほど。ちなみに、桜田さんがいた店にたどり着くまでに何か不思議なことはありませんでしたか」

「不思議なこと?ああ、それはあったな。運転手が何度も道を間違えてな。それで結構時間を喰った」

「そのことについて、あの二人は何か言っていましたか?」

「んー……何か言っていた気はするが、よく思い出せないな」

 これは正直なところだ。二人だけが分かり合っている何かがあったような気はする。というか、その後、桜田がいる店の前で周防と合流したときも、周防と巧と司の三人だけで分かり合っていたような会話がされていたような。

 周防は俺の表情を観察するように見つめていたが、やがてふっと息を吐き、

「わかりました。じゃあ、津和さんには一つこれをお渡ししておきます」

 周防は俺に小さなお守りを渡してきた。紫紺の生地に波紋のようなデザインの銀のシンプルなステッチが入っている。そして中には何か小さな固いものが入っている感触があった。

「うちの分家が作っているものです。超常のモノからの執着から身を守るためのまじないが込められています」

「うん?俺に何でそんなものを」

「今の津和さんは持っていた方がいいと思うからですよ。どういうことか詳しく説明してもいいですけど、そうしましょうか?」

「いや、えっとだな。じゃあ、俺は呪われてたりとかそういうことがあるってことか」

「呪われている、とまでは言いませんよ。そこまで強いものでも悪いものでもない。でも、何かの気配はある。今後、それに引っ張られて厄介なことになるかもしれない」

「これを持っていないと死ぬ、みたいなことまでの心配はいらないっていうことでいいか」

「ええ。でも、それは持っていた方がいいでしょうね。確実に何かはあるので。あと、巧くんと司くんの二人にも気を付けた方がいい。特に巧くん」

「巧?」

「ええ。どう考えても普通の人間じゃない」

「このお守りを持たないといけないのは、巧に関係があるのか」

「いいえ。多分、彼はそれとは無関係です。でも、彼は普通じゃない。あなたはきっとその片鱗を何度も見ていると思うんですが。氷上さんも。氷上さんはあの二人と付き合いが長いんでしょう?」

「らしいな。といっても、行方不明から戻ってきて後のつきあいと思うが」

 健吾が行方不明になったとき、巧と司は小学校低学年くらいだろう。東京でタレントをしていた男子高校生と山陰地方の町で暮らしていた小学生との間にどんな接点がある。

 というか、俺、もしかしなくても、健吾と巧たちの付き合いの詳しいところを知らないんじゃないのか。

 今更ながらに気づいた事実に、俺は愕然とした。周防は俺の内心の動揺などは気づかない様子で、

「とにかく、あの二人には気を付けてください」

「えっとだな。お前さんが何を言っているのかわからないが、仲良くやってくれないか。同じユニットのメンバーなんだし」

 すると周防はにっこりと微笑んで、

「勿論ですよ。仲良くはやっていくつもりです。あの二人は芸能活動の同僚としてはとても強力なので」

 その日の夜、巧と司がゲストとして鴫沢レンの配信に出演した。今日は二人は巧の自宅からの出演ときいている。

 巧も司も、配信慣れしているというか、なめらかに話を進めていった。レンも楽しそうだ。

 コメントも概ね良い反応で、巧の声とビジュアルとで、この人かっこよ!と盛り上がるリスナーもいれば、司の声とビジュアルに、声が優しくて安心できる、綺麗、推せる、と早くも熱烈なファンになりそうなリスナーもいたり。そして、巧と司の阿吽の呼吸の会話や、巧がレンをからかったときの司のフォローなど、三人のバランスの良さに、この関係性が好きだとコメントしているリスナーも多数いた。

 最後に、金曜日にユニット全体のPVが公開されること、日曜日にはユニット全員参加の配信があることにさらりと触れ、そして配信は終わった。

 俺は健吾と司に、おめでとう、とメッセージを送った。配信をきいた、良かったぞ、と。

 そして、安堵で心の中が一杯になりながら、眠りについた。何となく、山場を一つ終えたような気持ちになっていった。



 ここから、鴫沢レン、周防章、巧、司、という、特撮キャラとリアルの芸能人とゲーム配信者の四名で構成された男性ライバーユニット、メルザイオスは快進撃を始める。

 勿論、その裏ではいろいろあったが、それはまた別の機会に。


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