3 人探し
「じゃあ、作曲したライバーに許諾を先にもらった方がアレンジャーを誰にするか決められるってのはどうだ」
巧の発言に、俺の脳は一瞬バグりかけた。字面だけなら至極まっとうな提案にきこえるが、巧の口調が気になる。何かいたずらを仕掛けられているように思う。そう感じるのは俺だけか?
周防が言った。
「いいですね。早い者勝ちですか」
「おうよ。今から探し始めて、桜田から曲を使うことの許諾をもらえた方の勝ちだ」
「僕は今、収録中なんですが」
「それはそっちの都合だろ。それに俺たちは地元じゃないんだから、それくらいハンデがあっても」
周防は黙る。そんなところに口をつっこんできたのは司だった。
「巧、肝心なことを忘れてるよ。僕ら、桜田さん本人の顔を知らないよ?探しようがないんじゃない?」
「それはツカズに来てもらったらいいんじゃないか。なあツカズ、出てこれるよな?」
「それは行けるが、それを言ったら周防さんも桜田の顔は知らないぞ」
「構いませんよ。僕は行道くんに頼みます。行道くんは知っていますよね?」
「知っているが、あいつ、お前さんのPVの責任者になってるからなあ。連れ出すのはプロダクト室の許可がいる」
そして室長は許可を出さないだろう。
周防は社長に言った。
「社長、バイトの鈴木行道くんを借りる許可をくれませんか。桜田さんは必ず見つけるので」
「その自信はどこから来るんだ」
社長は不思議そうに訊く。周防はにっこりと笑った。
「僕の家業はそういうこともやっているんで。よろしいですか?」
「それはお前の家の力を借りるということか?」
「いえ、そういうことではないです。ただ僕にノウハウがあるというだけで」
「わかった。許可を出そう。但し、お前の収録は絶対に今日終わらせるという条件でだ」
そして話は整った。周防は、桜田を見つけてから収録に戻る、と言い切り、すぐに鈴木と一緒に出ることに決めた。いや、だから何でそういう自信を持てるんだ。一日かけても見つからない可能性だってあるんだぞ。
しかし、プロダクト室からやってきた鈴木はにこにこしながら、周防さんだったら絶対に先に桜田さんを見つけられますよ、と言う。……さっき周防は家業がどうこう言っていたが、もしかして心霊現象の何かを利用するとか、そういうことなのか?いや、まさかな。
そしてそのすぐ後にわかったのが、和は鈴木の妹ということだった。和は鈴木に呼ばれて、にこにこしながら収録ブースから出てきた。
「上月ちゃんって、本人も美人なんだねー」
「お前、外で喋るなよ」
「言わないよ。そんなの当然じゃん?」
兄に釘を刺されて、和は少しだけ口を尖らせる。
俺は三人を見送った後、仕事をしながら迎えの車を待った。グラハムは事務所まで車をよこすと言ってきていた。三十分ほどで車は来た。車には巧と司が乗っていた。二人は巧の家にいたときのような全くの普段着だった。
てっきり健吾も一緒に来ると思ったのだが、
「健吾くんは残ってもらいました。昨日の夜、鴫沢レンのPVが出たばかりですし、もしファンにつかまったりしたら、対応に困るでしょう」
司が説明する。確かにそうだ。
巧はどういう方法でか桜田の居場所に見当をつけているようだった。運転手に指示を出していく。最初は車は普通に走っていたが、そのうちにおかしな感じになってきた。何度も同じ道を走り出したのだ。
巧が不機嫌そうに運転手に何度も指示をするが、運転手がそれに従わない。運転手自身は自分が巧の指示に従えていないという自覚はないようで、ぼんやりした様子で
「はい、はい、わかっていますよ」
と言うが、その手元は違う方へとハンドルを切っている。
痺れを切らし、巧は言った。
「もういい、わかった。ここで大丈夫だから、少し行ったところでおろしてくれ。あんたはこの近くを流しておいてくれ」
運転手は今度は指示通りに止まった。車を降り、三人で歩き出す。先頭は巧が行き、俺たちは後に続く。
歩きながら、司が訊いてきた。
「周防さんは僕たちが迎えに行くよりどれくらい先に事務所を出ましたか」
「三十分くらいだな」
「じゃあ、時間は十分あったということかな。ね、巧?」
司の問いかけに、巧は少し苛ついた様子で、
「そういうことだな。どれだけえげつないんだよ」
「それだけ本気ってことでしょ。どうする?諦める?」
司の問いに対し、巧の表情が切り替わる。少しふてくされたような表情から、目が生き生きと輝きだした。
「まさか。こんなの、この世界じゃ滅多にないシチュエーションじゃん?向こうが用意した仕掛けを踏み砕いて進むのとか」
「楽しそうだね」
「そりゃもちろん。行くぞ、ツカズ。相手はすぐそこだからな」
だから、その自信はどこからきているんだ。
十分ほど歩いたところで、巧は立ち止まり、勝ち誇った様子で俺に言ってきた。
「ほら、あそこだ」
巧が顎で示す先には、周防が歩道のガードパイプに腰を掛けてぐったりした様子で天を仰いでいた。傍には和がついていて、心配そうに周防を見ている。
まあ、いい男はどんなときでもいい男なんだというのはわかったが、周防の顔色が悪すぎる。さっき事務所で別れたときには普通だったのに、この短時間でそんなに調子が悪くなったのか。
周防は近づいてきた俺たちを目だけ動かして見た。
「まさかこんな風にやってくるとは思いませんでした。おかげでかなり消耗させられましたよ」
その言葉は巧に向けられていた。




