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男性Vtuber四人の担当になったが、全員普通ではなかった話  作者: 弓園千尋
第1章 社長、無茶振りをする。
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5 不思議な配信

アカウント名は「tsukasa&takumi」。入力すると、多数の動画が出てきた。ほとんど毎日、FPSの動画を上げている。登録者数は四桁に届いている。俺もFPSはするが、このチャンネルは知らなかった。

「こんなチャンネルがあったのか。知らなかった。何が人気なんだ。ゲームがうまいのか。もしかしてプロか?」

「違います。ゲームはうまいですよ、プロが入っている試合でも結構いい結果を残しています。でもそれだけじゃこんな登録数にはならないですよ。まあ、とりあえず見てみてください」

 昨日上がっていた動画をとりあえず見てみる。見慣れたFPSのゲームの画面になる。そして、特徴のある心地よい男性の声が流れ始めたが。

「……これ、何語だ?英語じゃないよな?」

「違います。何語でもありません。彼らだけが使う言葉、というか」

「彼ら?」

 俺が訊き返したとき、もう一人、男性の声が聞こえた。最初に聞こえた声がふんわりとした余韻のある中性的な声だったのに対し、こちらは聞いている者の脳に直接切り込んでくるような、はっきりとした印象の声だ。ハスキーなかすれもあるが、印象としては少年漫画の主人公みたいな声だった。

 二人目の男性も、一人目の男性と同じ言葉を話していた。淀みなく二人は話し、意思の疎通もできている様子だ。

「最初の人が司さんで、このチャンネルをやっている人です。二人目が巧さんで、こちらはtakumi&tsukasaっていうチャンネルを持っています。いつも二人でコラボしてFPSの試合に参加して、その様子を実況するというのが彼らの配信スタイルなんです」

「しかし、こんなわけのわからない言葉で喋られてもリスナーはついてこないんじゃないか」

「コメント欄を見る限り、何喋ってるかわからないのに声を聞きに来てる人が多いみたいですね。眠るときにBGM代わりに流しているリスナーもいるようです。あと、二人はゲームがうまいんで、画面を見ているだけで楽しめます。でも、このチャンネルの登録者数とか同接が多い一番の理由はそこじゃなくてですね、時々この二人、歌うんです」

「そういえばさっき、自然発生的に歌うとか言ってたな」

「ええ。ゲームしながら歌い出すんです。それを目当てに登録している人も多いんです。えっと……昨日はこの辺の時間帯で歌ってたはず」

 健吾は俺が再生していた動画のシークバーをクリックし、時間をかなり進めた。動画内の二人はゲームをしながら相変わらずわけのわからない言葉でお喋りをしている。

「もう少ししたら歌い出します」

 健吾の言う通り、やがて二人は歌い始めた。巧が歌い始め、司がそれに合わせる感じだ。相変わらず知らない言葉の歌だったが、シンプルな旋律に二人の声のハモリが決まり、きいているこちらの心が洗われるようだった。

 歌が終わり、二人はまた何事もなかったかのようにまたわけのわからない言語でお喋りを続けた。俺は呆然としながら健吾に訊いた。

「今のは何なんだ。二人のオリジナル曲か?ものすごい完成度……いや、曲自体はシンプルだが、何というか」

「今のがこのチャンネル最大の特徴です。ゲームがうまい配信者なんていくらでもいるし、自国語以外は言葉がわからないのは当たり前なので、そういう意味では知らない言葉で話しているチャンネルなんてのもザラです。でも、この歌声は唯一無二だ」

「わかる。この二人は他にどんな歌を歌うんだ。日本語の歌は歌っていないのか。というか、日本人っていうことでいいんだよな?日本語を喋れるんだよな?」

 動画の中で一言も日本語を話していないので、疑わしく思って訊ねた。

「はい。日本語も喋れますよ、勿論」

「そうか。是非話をしたい。二人は何歳だ、仕事は」

「二人とも二十一歳です。司さんは大学に通いながら、雇われで親戚が経営する喫茶店の店長をやっています。巧さんは……ちょっと説明が難しい……いや、難しくはないんだけど。あのですね、グラハムが何の仕事をしているかは知っていますよね」

「ああ。勿論」

「巧さんは、グラハムが日本でやっている会社の投資部門の相談役をやってます」

 俺は目を剥いて驚いた。それはかなりのエリートというか大物じゃないのか?

 俺の反応を見て、健吾が慌てた様子で、

「大丈夫です、そんな大層な人じゃないんで。忙しくないし。寧ろ暇してるっていうか」

「しかし相談役なんだろう?グラハムさんの会社でそのポジションっていったらかなりじゃないか」

「大丈夫です。とにかく大丈夫です。グラハムの会社の社員は確かにものすごく多忙ですけど、巧さんは例外も例外なんです。まあ、文句のつけようがない成果を上げているんで、問題はないんですけど」

「そうか……?それで、二人はどこに住んでいるんだ。都内か」

「違います。二人とも鹿鳴にいます」

 鹿鳴市は山陰地方の都市だ。俺は思わず訊き返す。

「鹿鳴?だって、グラハムさんの会社は東京だろ。少なくとも巧っていう奴の方は東京にいないと無理だろ」

「今はネットで何でもできますから。それと、グラハムの会社が所有している屋敷が鹿鳴にあって、そこの管理の名目であちらにいるんです」

「そうか……。わかった。まずはオンラインででも会いたいんだが」

「そうですね。ちょっと僕から司さんに話してみます」

 健吾は軽く言ったが、俺は心配になって訊いてみた。

「話すって、どう話すつもりだ」

「それはもう、ありのままに?大丈夫ですよ、口外しないように言いますから」

 健吾は、司にコンタクトをとった結果をまた連絡する、と約束して帰っていった。

 そしてその連絡はその日の夜には入ってきた。とりあえず司は、明後日にオンラインで会ってくれることになった。働いている喫茶店がちょうど休みらしい。

 明後日は三時に周防に会うことになっていた。なので、司とは午後一時に会うことにする。それなら周防との面談までに終わらせることができるだろう。

 司にライバー活動の話をした感触を健吾に訊ねると、巧がやるのならやってもいい、と司は言っていたということだった。

 それをきいて、俺は思わず唸った。巧というのは 結構な社会的地位のある人物だ。健吾は、暇にしている、と言っていたが、それは健吾が実際を知らないからではないか。きっと忙しいに違いない。

「そいつはなかなかハードな条件だな」

「そうですね。巧さんは気分屋だから」

 健吾は苦笑している。うん?忙しいから無理とかそういうんじゃないのか?

「本当は巧さんとも会えれば良いんですけどね。実際に会って話したら、ツカズさんのこと、気に入ると思うんですけど」

「巧が俺をか?何でだ?」

 しかし健吾は、根拠については何も言わなかった。俺ははっきり言って顔もスタイルも良くない。四角い置物のような見た目だ。それが会って話したからといって、相手を引きつけるものがあるとは思えなが。

「まあ、もしかしたら、明後日は巧さんにも会えるかもしれません。司さんから話してみると言っていたので」

 健吾とはそれで通話を終えた。

 とりあえず勝負は明後日だ。明日は明日でやることが山のようにある。来月に控えている事務所の七周年ライブの関係とか、いろいろ。社長から昨日、突如として降ってきた男性アイドルライバーデビュープロジェクトの話は、明日はとりあえずお休みだ。

 


 と、思っていたときもありました、昨日は。

 一晩あけて出勤した俺は、昨日の自分の考えが浅はかだったことを思い知った。いつもの出勤時間に俺の職場であるマネジメント室に入ると、細面に眦をつり上げたお局さま……いや、スカウト担当グループの前島主任が腕を組んで俺を待ちかまえていたのだった。

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