4 周防章に関する噂
鈴木行道は俺に言った。
周防章はとあるテレビ番組で心霊スポットのロケに行ったとき、その場に見物に行っていた鈴木とその妹を庇って呪われ、その結果、彼が写真や動画に映るとその顔に黒い影がかかるようになり、芸能活動を続けることができなくなった、と。
氷上健吾は俺に言った。
周防章はとあるテレビ番組で心霊スポットのロケに行き、そこで心霊現象に巻き込まれた結果、呪われ、彼が写真や動画に映るとその顔に黒い影がかかるようになり、芸能活動を続けることができなくなった、と。
俺は唸りながら健吾に訊いた。
「お前は、そういう相手と一緒に活動するのは平気か」
「僕は別に構いませんよ。……いや、グラハムが気にしますね。まあ、そういうのが見える知り合いがいるので、その人に一度会わせて大丈夫か調べてもらえば、グラハムも納得すると思いますけど」
「グラハムさんはそういうのを信じているのか」
意外に思った。二度ほどしか会ったことはなく、主に健吾の話でその人となりを知っているだけだが、機を見るのに優れたビジネスパーソンという印象だ。そんな人物と迷信のような非現実的なものとの相性は良くないように思える。
健吾は微笑んだ。
「グラハムは結構迷信深いんですよ。まあ、周防さんがこの話を受けてくれたら、とりあえずそういうのが見える僕の知り合いに会ってもらうようお願いします。その人が見てみて、周防さんに憑いているものがどんなものかはっきりしたら、グラハムも安心するしょうから。……いや、会わせない方がいいのかな」
健吾は迷った様子を見せた。気になって俺は訊ねた。
「何だ、会わせない方がいいってのは。もし本当に呪われてるっていうことになったら困るっていうことか」
「いえ、そうじゃなくて。もし本当に呪われてるっていうことになったら、その人、それを解こうとしてしまいそうで」
「それの何が問題なんだ」
「だって、もし呪いが解けたら、周防さんはきっと表舞台の活動に戻りますよ。ライバー活動をする理由がなくなる」
俺はまた唸った。確かに。
「ま、まあ、悪い話じゃないだろ。呪いなんて、放っておいたらもっと悪いことを呼ぶかもしれないし、呪いがなくなったからといってライバー活動をしないとは限らないし。それで、お前の言う、そういうのが見える知り合いってのはどういう人なんだ。やっぱり芸能界の関係で知りあったのか」
「いえ、全く関係ありません。別なところで知り合ったんですけど……あ、そっか」
健吾はそう呟いた後、何か考え込んでいた。
「何だ、どうした」
「いや、今の話の流れで思いついたことがあって。今回、ライバーは四人必要なんですよね。周防さんも承知したとして、残り二人の当てはあるんですか」
「いや、ない。まさか、お前に当てがあるのか」
「引き受けてもらえるかはわからないですけど、うってつけの人が二人います。Twitchでの配信実績があって、登録者数も同接数も結構な数字を持っているんですが」
「凄いじゃないか。お前、本当に顔が広いな。芸能関係の知り合いか?」
「違います。芸能活動とは全く関係ないところで知り合ったんです。でも、あの二人が活動を承知したら、周防さんの呪いはやっぱり解かれるんだろうなあ」
「うん……?お前がさっき言ってた、そういうのがよく見える知り合いってのは、そのTwitchで配信している二人とは別人なんだろう?」
「ええ。僕が最初に言った、そういうのが見える知り合いっていうのは女性です。僕が言うTwitchをやっている二人組は当然男性ですけど、そのうちの一人は、呪いなんかに出くわしたら自然体で消滅させられるような人なんです。だから、その人と周防さんが会ったら、多分、顔を合わせただけで呪いは消えて、周防さんは表舞台に復帰できるようになるんじゃないかな」
俺は頭の中が混乱してきた。
「お前の交友関係はどうなってるんだ。会っただけで呪いを解くことができる、とか。そんな人間いないだろ。あり得ん前提で余計な心配はするな。そもそもそのTwitchをやってる二人が受けてくれるかわからないし。それで、そいつらは配信してるっていうが、何の配信してるんだ」
「ゲーム配信ですね」
「歌とかダンスとかはできそうか」
「歌は配信の中で時々歌ってますよ。自然発生的にですけど。そうだ、今から二人の配信のアーカイブを見てみますか」
確かに、実際に見てみるのが一番早い。
俺は持ってきていたノートパソコンからTwitchを開くと、健吾に教えてもらったアカウント名を検索窓に入力した。




