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4 鳳

「情報漏洩の犯人は私じゃありません」

 鳳は切り口上で言った。その表情には思い詰めた様子があった。鳳は理知的な性格でいつも冷静なのだが、それがこんな風に言ってくるとは何があった。

「待て待て、誰も鳳を疑ってなんかないのに、何でそんな話をしだすんだ。誰かがお前が犯人だと言っているのか。とにかく、ちょっと落ち着いて。また後で話そう。今はお客さんがいて」

「氷上さんは今はもううちのタレントですよね。情報漏洩の被害者だし、無関係じゃありません。とにかく私、急いでこの話を主任にしなくちゃいけなくて」

 鳳が話しているところへ、ぱたぱたと廊下を走ってくる音がきこえた。見ると、柳沢が駆け込んでくるところだった。

「桐香ちゃん、待って、大丈夫だから。誰も桐香ちゃんのこと疑ってないから。……あ、主任。えっと、すみません、あの」

「今、鳳から話をきいてたところだ。誰かが鳳が情報漏洩の犯人だと言っているのか」

「あの……はい。柏宅さんと藍堂さんが」

「何でそういう話になってるんだ」

 俺の問いに、鳳が説明する。

「今、七人で集まってこの前のライブの感想を話す動画の収録をしてるんですけど、休憩時間中に、柏宅さんが、犯人は五光のなかにいるって言い出して。柏宅さんの古参のリスナーで切り抜きの制作を任されてる人がいて、その人が柏宅さんに昨日送ってきた切り抜き動画の納品のメールに書いてあったんだそうです。五光のどの子かわからないけど、親しい男性リスナーにいろいろ情報を漏らしているようだ、って」

「それはただの噂で、真に受けなくていいものなんじゃないのか」

「でも、そのリスナーさんは自分でいろいろ調べたらしいんです。そのリスナーさんは、もともといろんなコミュニティを巡回して噂を集めていて、その中に、五光のメンバーと何回もデートしてるっていう人の書き込みがあったそうで。で、同じ人が、今回の男性ライバーデビューの話とか、氷上健吾さんのデビューの話とかを五光のメンバーから直接話をきいたって得意げに書き込んでいたんだそうです」

「それはしかし、五光の誰かということであって、鳳と決まったわけではないだろう。勿論、五光のメンバーからきいたと言い切っている段階で既に問題だが」

 それこそ開示請求ものだ。鳳は不安そうな様子で、

「わかってます。でも、柏宅さんのリスナーさんが、五光の誰からきいたんだってその書き込みをしていた人に訊いたら、最初ははぐらかしていたけど、繰り返し訊いているうちに、自分は鳳桐香とつきあっていて、リアルでデートしてるって答えたそうで。それで、それを知った柏宅さんが、私に直接言ってきたんです。社内限りの情報を外に出すのは契約違反じゃないのか、って。それに藍堂さんも同調して。でも、私じゃありません。自分のリスナーと直接会うとか、そんなことそもそもしていません」

「大丈夫だよ、桐香ちゃん。柏宅さんも藍堂ちゃんも、言い過ぎだったって反省してるから」

「それって、私が犯人じゃないって考えを変えたっていうわけじゃないでしょう」

「それは」

 柳沢が言い淀む。鳳は唇を噛み、俯く。休憩中に抜けてきたということは収録が残っているんだろうが、こんな状態で戻って収録を続けられるかどうか。 

 俺は健吾を振り返った。

「すまんが、ちょっと二人を収録室に戻してくる。俺も話し合いに入った方がいいかもしれないから、お前さんたちだけで食事をしていてくれないか。向かいのカフェにサンドイッチの出前を頼むから。食事ができるような部屋はすぐに押さえる」

「そういうことなら、食事に出ていよう。私の車を待機させてあるから」

 グラハムが言った。それだと収録の時間に間に合わないかもしれないと思ったが、グラハムは俺の心配を予想してか、時間までには必ず健吾たちを連れて戻る、と言った。それが可能かわからないが、とりあえず送り出すことにする。

 健吾に続いて他の三人も部屋を出ていった。健吾にグラハムが続き、その後に巧が続く。が、部屋を出る直前、巧は俺の服の袖を指で掴み、くいくいと引いてきた。

「お前、まだグラハムの周りのあれ、見えてるよな?」

「ああ、まあ」

「じゃあ、幾つかお前についていかせるから、そいつらの反応を見てみろ。ヒントになる」

 そう言って、巧は愉快そうに出ていった。最後に出てきたのは司で、小さく笑みながら、

「結果はまた教えてくださいね」

 と言い残して、三人について行った。

 巧の言ったとおり、俺の周りに幾つか光の玉が浮かんでいたが、それは気にしないことにする。

 鳳が察したように訊いてきた。

「主任、さっきの人たちってもしかして。あの、白い髪の人と和装の人が」

「え、じゃあ、あの人たちが今度デビューするあと残り二人なんですか」

 そこで柳沢も察したらしい。俺は小さく頷いて、

「うん、まあ。今日、この後収録がある予定でな。でも、騒ぎになると困るから、黙っていてくれないか。あの二人は芸能人じゃないから」

「わかりました。絶対に言いません。ね、柳沢ちゃん」

「はい。絶対に言いません。一般人だったら、なおのこと顔バレは嫌ですもんね」

 柳沢が力強く言う。

 そして俺は二人と一緒に収録室に向かった。そこに、今、うちの女性タレントの残り全員がいるという。そして、情報漏洩の犯人がその中にいるかもしれない。

 収録室には、鳳と柳沢以外の女性タレント五人全員がいた。藍堂、柏宅、松島、桜田、上月。

 そして、巧が言っていたとおり、俺にくっついてきていた光の玉がとあるタレントの傍でそれまでとは違った風に明滅しはじめた。

 こいつが、情報漏洩の出元なのか、と、俺は腑に落ちた。

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