3 身内からの応援
松島寿は、五期生で結成されたグループ「五光」のセンターを張る。センターだけあって、メンバーの中でダントツの人気を誇る。使うガワは大きな巻き毛が特徴的なお嬢様タイプのキャラクターだが、本人もお嬢様然とした雰囲気をしている。実際にいいとこのお嬢様で、バレエを幼い頃から習っており、優雅な雰囲気のダンスが得意だ。
松島は目をきらきらさせ、頬を上気させて俺を見ていた。どう見ても興奮している。そしてその表情のまま、俺のところまでつかつかと歩いてくると、椅子に座っていた俺の両肩をバンバンと両手で叩いてきた。
「やっと!やっとですか!わかりましたわ、わたくし、主任のこと、最大限応援させてもらうので!」
「いや、その、気持ちだけもらっておくよ」
「いいえ、是非!応援させてください!とりあえず、今回の男性ユニットのPVっていつ完成するんですか?できあがったらすぐにわたくしのチャンネルでも紹介をさせてもらいます。きっと他のメンバーも協力してくれますから、大船に乗ったつもりでいてください」
「松島ちゃん、ちょっと先走り過ぎだよ?」
苦笑気味にレイヤが言う。
「というか、さっき、桜田ちゃんと上月ちゃんが、男性ライバーをデビューさせるのは反対だって言いにきたばっかりなんだけど」
「どうしてですの?主任のデビューなんて、おめでたいこと以外の何者でもないじゃないですか」
「今回デビューするのは主任だけじゃないから。上月ちゃんは男性が苦手でしょ」
「確かに、彼女は事務所にそういう人が所属するのを嫌がるかもしれませんわね。でも、桜田さんはどうして?」
「今回デビューするのは四人でしょ。その残り三人のうちの一人は、氷上健吾っていうタレントなんだけど、彼について腹を立ててるの。顔出しで売れてる人がこっちに来るなって。桜田ちゃんは地下アイドルやってて、芽が出なかったからどうにかできないかってライバーになった人でしょ」
「ああ……。でも、それは桜田さんは自分を卑下しすぎというか。今は十分成功してるじゃないですか。それに対して、氷上健吾さんって、言っては悪いですけど、今どんなお仕事をしているのか、すぐには思い浮かばないような方でしょう。そういう方をそんな風に嫌がることはないと思いますけど」
「まあねー、私もあの人、芸能人としては落ち目と思ってるもんねー。これでバズったら、うちの事務所、芸能人再生工場って呼ばれるようになるかもしれない」
それに対して俺は曖昧に笑った。デビューする四人のうち、あと一人、周防章という元は芸能界で華々しく活躍していた人がいると知ったら、レイヤはどんな顔をするだろうかと思いながら。
松島は真剣な表情で、
「それで主任、わたくしに何かできることはありませんの?わたくし、主任のデビューをお手伝いしたいですわ」
気持ちだけで十分だ、と俺が言おうとするより前に、レイヤがこちらも真剣な表情で言った。
「松島ちゃん、本当に私たちが主任のデビューの手伝いをしていいか、考えた方がいいかもよ?」
「どういう意味です?そんなの、手伝ってはいけない理由なんてないでしょう?」
「いや、冷静になってよ。私たちのリスナーって男性がほとんどじゃない?その男性リスナーたちが、私たちが男性アイドルユニットのデビューを応援してるってきいたらどう思うか」
「それは……確かに。でも、主任のお手伝いはしたいですわ。今回社内報が出たのは、そのためではないんですの?」
「いや、今回、社内報を出したのは、心の準備をしてほしいというか、今まで女性タレントばかりだった事務所に男性タレントが入ってくるということにショックを受ける人が出るかもしれないと思ったからなんだ」
「それでは、今回の男性ライバーの件、知っていればいいということなんですね?」
「そうだな。PVが公開されるまでは、心の内にとどめておいてほしい」
「わかりました。でも主任、本当に何かやってほしいことがあったら、おっしゃってくださいね」
松島は上機嫌にマネジメント室を出て行った。俺は何故だか疲れてぐったりしてしまった。
レイヤが苦笑しながら言う。
「ほんと、うちのタレントってみんな、主任のこと大好きですよね」
「そうなのか?知らなかった」
「またまたー。藍堂ちゃんとか柳沢ちゃんほどじゃなくても、みんな主任のこと好きっていうか、信頼してるんですよ。私もそうですけど。癒し枠っていうか。あー、でもそっかー、主任がデビューしたら、主任という存在が世間に知られることになるのかー。なんか嫌だなー」
「お前何言ってるんだ」
俺は呆れてレイヤを見た。レイヤはくすりと笑った。
「冗談ですよ。うまくいくといいですね、今回の件」
だが、その翌日以降、うちの事務所はネットで炎上した。
うちの事務所から男性ライバーがデビューするらしいという情報がネットに流れたことが原因だった。




