7 周防の反応
「それでは、これでミーティングは終わりだが、何か気になっていることがあるか?」
と社長は一同に訊いた。俺は前島主任を見て、
「前島主任に一つ訊きたいことが。前に、健吾と周防章のバランスが悪い、と言っていましたが。あれはどういう意味ですか」
主任は苦笑した。
「あれは、二人のことをよく知らなかったから。パブリックイメージとしては、二人とも王子様系でしょう。華やかで主役を張るタイプの人。そんな人が二人も同じグループにいるのはバランスが悪いと思ったの。でも、今はそんなこと思ってないわ。さっき、鎔先生のデザインの下に描いてあったでしょう、周防さんはMagicianで氷上さんはPrince。確かに二人は同じタイプではないわ」
「つまり、王子は二人もいないということですな」
副社長が言った。
会議の後、俺は健吾と司と周防にメッセージとキャラクターデザインのデータを送った。巧については、司に連絡をとればそちらから伝わるということで、俺は巧の連絡先も知らない。
一番早く返信があったのは周防だった。さっき仕事が終わったところで、うちの事務所に今日の五時頃に来たいとのこと。ライバーとしての名前の相談をしないといけないので、来てもらえればちょうどいい。
夕方、五時前に、受付から俺に連絡が入った。周防章が俺を訪ねてきたという。予め、周防が来ることは伝えてあったのだが、受付対応した女性スタッフの声は上擦っている。
俺はパソコンを持って急いで受付へ降りていった。今日の周防はダークグレーのスーツに黒いシャツ、それに臙脂のネクタイを締めて、かなりキメた感じの服装だった。伊達なのか眼鏡をかけていたが、整った容姿は隠れていない。
「どうも、こんにちは」
受付の前に立っていた周防は、俺を見るなり声を掛けてきた。容姿と同様、華やかな響きのある声である。
「こんにちは。部屋をとってあるから、そちらへ」
俺はすぐと周防を会議室に案内した。周防は会議室の椅子に座るなり、ネクタイを緩めた。
「すみません、今日はちょっと気が張る仕事で、本当にしんどくて」
「ああ、仕事帰りだったんでしたか。どちらまで?」
何気なく訊いて、周防の仕事が何だったか思い至り、俺は固まった。心霊調査、だよな?そんなのの仕事の中身を話したりしないよな?
周防は俺を見て小さく笑った。
「大丈夫ですよ、話しはしません。こちらに妙なものを連れてきてはいけないので。それで、ユニットメンバーの件ですけど。氷上さんが参加するのは聞きましたが、残りの二人はどうなりましたか」
「巧くんと司くんは承諾しました」
「わかりました。それにしても、僕が使うアバターのデザイン、送ってもらったデータを見ましたけど凄いですね。ものすごく僕の雰囲気が出ている」
「それじゃ、このデザインで大丈夫ですか?本当は鎔先生と直接会ってもらって、その上でデザインをする予定だったんですが、先生は周防さんの写真とかDVDを見て描いてしまったんです。もし先生に会えるのを楽しみにしていたのだったら申し訳ない」
「それは構いませんけど、他の人のもできたんですか?」
「ええ。本人たちのチェック待ちですが」
「僕も見せてもらいたいんですけど。四人のバランスを見たいので」
俺は求められた通りに見せた。まずは、巧と司の分だ。
周防は上機嫌そうに小さく笑った。
「なるほど、これがあの二人ですか。Twitchの配信を見ましたけど、あの歌声は凄いですね。ただ、日本語の歌で同じように歌えるか疑問ですけど。それと、さっき僕のにも書いてあったんですが、これは何ですか」
周防は中世ヨーロッパ風の衣装デザインの立ち絵の下に書かれていた英単語を指さす。
「社長の話だと、それぞれのキーワードらしいです。何でも、本人たちを見て閃いたとか」
「そうですか。もしかして、鎔先生はあの二人には直接会った?」
「はあ、まあ」
「別にいいですよ、そんな恐縮しなくても。僕は満足のいくデザインのものができあがれば、別に鎔先生に直接会うことにこだわりはないんで。でも興味深いですね、実際に二人に会った先生がこういう単語をキーワードに選ぶなんて。氷上さんにもあるんですか、キーワード」
俺は健吾のガワのデザインを見せた。周防はそれを見て呟く。
「Prince、ですか。まあ、確かに彼は王子様っぽいですよね。物腰とか品がいい」
「実際は熱くて泥臭いところもあるんですが」
「知っていますよ。彼はひたむきに戦う感じがある。でも、そういう面のある王子様だっているでしょう。で、僕はMagician、と」
「すみません、気を悪くしたら」
「いいえ、寧ろ逆です。面白い。いつか鎔先生にお会いしたいですね。こういう直感を持つ人と話をしてみたい」
「それは機会があれば。そうだ、周防さん、今月末の七周年ライブに来られませんか。鎔先生も招待されているんです」
「折角のお話ですが、遠慮します。行道くんからきいたのですが、チケットは完売したんだそうじゃないですか。それだけ多い人たちがいる会場に行って、もしも写真を撮られたりしたら困ります。間違いなく心霊写真ができあがってしまうので」
俺は、以前に周防の写真を撮らせてもらったときのことを思い出した。
「すみません、気が付かなくて」
「いえ、こちらこそ折角誘ってもらったのに、申し訳ない。勿論、オンラインで拝見させていただきます。3Dモデルでどこまで表現できるのか、今の技術を見たいので。……実は、3Dの技術については、巧くんと同じ意見なんですよね。彼が言っていたように、技術の向上は是非お願いしたい。ライブでダンスを披露しても、3Dモデルでうまく表現できないのでは意味がない」
「わかっています。そこは上とも話をしています」
「ありがとうございます。あと、津和さんがスポークスマンとしてライバーデビューする話はどうなりましたか」
「あー、はい……。その役目は引き受けることになりました」
「そうですか。それは良かった。僕もそういう人がいてくれると安心できます」
「いや、その。まあ、頑張ります。そうだ、周防さんに一つ相談したいことがあるのですが。VTuberとしての名前はどうしますか」
「別に、周防章でいいですよ。だって、どうせこのアバターの中身が僕だというのはすぐにわかるじゃないですか。だったらそのままの名前でいるのが一番ですよ。もしかして、氷上さんは何か凝った名前を付けようとしているんですか。彼も多分正体がすぐにバレるでしょうから、そういう前提で考えた方がいいと思いますよ」
そういう話は前島主任とはしていた。今までうちの事務所にいたタレントたちは身バレしないように神経を使ってきたが、今度はもう中の人がバレる可能性が高いものとして対応するべきではないかと。少なくとも、健吾と周防については。その点について副社長と話し合おうということになっていたのだが、
「そんなにあっさりとわかりますかね」
「話しているだけなら僕はわかりにくいかもしれません。でも、歌ったらすぐにわかるんじゃないかな。というか、逆に、わかってほしいと思うんですけど」
「健吾もすぐにバレるということでしたけど、そうなりますかね。あいつは最近はモデルの仕事が主で」
いい声をしているのは確かだが。周防は微笑しながら、
「ナイトレイヴンの鴫沢レンは根強い人気がありますから、気付く人は出てくると思いますよ。というか、人のことよりも津和さんは自分のことを心配した方がいい。津和さんこそ声バレしますから」




