5 ガワができる
伊東は健吾の答えに満足しない様子で、額に手のひらを押しつけてぐりぐりやっていたが、
「ああ、なんかがっかりだ」
と吐き捨てるように言った。
突然のその言葉に、健吾も俺も固まった。伊東は俺たちの反応に気づいて我に返ったようで、手をぱっと下ろし、
「いえ、その、すみません、その」
そのとき、部屋のドアがノックされた。
「お待たせしました」
副社長だった。磯山と鳴瀬もいる。
鳴瀬は伊東に、
「こっちは終わった。帰ろうか。……どうかしたか?」
「いえ、その」
伊東は歯切れ悪くしていたが、健吾がにこやかに、
「何もないです。ね、ツカズさん」
俺は頷いた。
そして記者二人は帰っていった。二人を見送り、また元の会議室に戻ると、待っていた磯山が俺に深々と頭を下げてきた。
「このたびは、うちの氷上に良いお話を持ってきてくださって、ありがとうございます」
まさか健吾のマネージャーにそう言われるとは思わず、俺は面食らった。健吾をライバーとしてスカウトし、こちらの事務所に移籍させるということは、現在健吾のマネジメントをしている側からすると横やりが入ったように感じられて、悪く思われているのではないかと俺は思っていたのだが。
「いや、その。すみません、おたくのタレントに勝手に話を持っていって」
「確かにルール違反ですけど、でも、こうでもなければ、氷上は芽が出ないまま苦しい時間が続いたと思います。本人は頑張っているんですけど、でも、年齢にそぐわない容姿が災いして。これが女性だったら加点ポイントなんですけど、男性はそうはいかなくて」
健吾からきいていた通りだ。実際のところ、健吾は行方不明になっていた十年間、歳をとっていなかったので、戸籍上の年齢よりも若く見えて当然なのだが、そんなことは他人にはわからないことで。というか、異世界のことはマネージャーも知らないのか。巧の家で、健吾が実は異世界に行っていたという話をきいたとき、今まで誰にも明かしていないような様子ではあったが。
俺は言った。
「ライバーとして活動すれば、外見と年齢のギャップは消えますけど、絶対に売れるという保証はないです。今までとは違ったファンを開拓できるというメリットはあるし、事務所としても最大限バックアップしますが」
「勿論です。絶対に売れるという方法があるのなら、芸能界、誰も苦労しません。健吾くん、津和さんや皆さんにお世話してよかった、って思ってもらえるようになるのよ」
目尻に笑い皺を滲ませながら、磯山は健吾に言った。健吾は真面目な表情で頷く。なんだか、祖母と孫みたいに見える。
今後のことについて大まかに話した後、事務所の閉鎖までにまた連絡を取り合うことにして、打ち合わせは終わった。俺は健吾と磯山を見送ると、自分のデスクに戻った。
俺が戻るなり、前島主任が言った。
「お客さんは帰られましたか。でしたら、社長室で打ち合わせましょう」
有無を言わさず、前島主任は副社長にも連絡を入れる。副社長はすぐにマネジメント室に姿を現した。手にはタブレットを持っている。
副社長が社長室のドアをノックすると、社長は部屋の白い壁にプロジェクタをセットしているところだった。
俺たち三人が部屋に入り、前島主任がドアを閉じると、社長は腰を両手に当て、仁王立ちになりながら言った。
「よし、揃ったな。それでは、男性ライバーアイドルユニットデビューについて打ち合わせを始めるぞ。まずは報告だ。氷上健吾、周防章、巧と司の四人分のガワが鎔から上がった。津和の分は申し訳ないが、後回しになっている。すまんな」
「別に構わないですけど」
「そうか。まあ、安心しろ。鎔はかなり気合いを入れてるから。それで、できあがった分についてだが」
俺たち三人がそれぞれ椅子に座るなり、社長はプロジェクタに一人目のキャラクタの立ち絵を映し出した。巧だ。やんちゃな感じの、しかしシャープで格好のいい美形に仕上がっている。髪は白、目は赤。肌も服も白でまとめてあって、白と赤の取り合わせが、妙に目に焼き付いた。




