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1 逃げていた問題に詰められる

 とりあえず、社長から無茶振りされた男性ライバー四人のアイドルグループデビューのために必要なメンバーは集まった。その翌日、鎔先生とともに東京に戻り、空港から二人で直接事務所に行く。

 事務所に着いたのは午後四時過ぎだった。

 社長は事務所にいた。鎔先生が社長の旧友というのは社員の多くが知っているので、鎔先生はフリーパスで社長室に通された。まあ、俺も一緒だし、入れて当然ではあるのだが。

 先生は目をきらきらとさせながら、スケッチブックを片手に、巧と司がいかに素敵な青年だったか、そして二人のキャラクターデザインをするのにどんなに筆が走ったか、早口で喋り続けた。その話しぶりは止まりそうな気配がなく、社長が苦笑気味に、

「津和、お前は仕事に戻れ。蘭子の話は私がきくから」

 と言ったので、ありがたく社長室を退室した。

 そして自分の席に着き、パソコンを社内ネットワークに繋いで仕事を始めた。スタッフからの相談事にいろいろ対応していたとき、マネジメント室の入り口で高く澄んだ声がした。

「津和主任、いらっしゃいますよね」

 ライバーの藍堂鈴華だった。そして何故か後ろに柳沢梨雨もいる。

 俺は、二人からのメッセージに返事をしていなかったことを思い出した。俺は気まずさを感じながら、部屋の入り口まで出て行った。

「あー、その。今日は事務所に来てたのか」

「はい。収録で。それで主任、お時間いただきたいんですけど」

 俺は黙って頷いた。これは避けられないだろう。放置していた俺が悪い。頼みの綱の前島主任は不在だし。

 俺は、空いていた会議室をおさえ、そこで二人と面談を始めた。

 藍堂鈴華は一期生で、うちの事務所の看板だ。バーチャルで使っているガワは大きな目と長い睫が特徴的な黒髪ストレートのグラマーな美少女だが、ライバー本人の見た目はぽっちゃり体型で髪はベリーショート、ガワとの共通点はバストのサイズくらいだ。しかし常にメイクもネイルもばっちり決めており、本人の女子力は高い。頭の回転の速さから繰り出されるざっくばらんだが安定して面白いトークと、5オクターブにも渡る音域をカバーする声で歌い上げる歌でとにかく人気がある。特に歌は、オペラ歌手もかくやという声量があり、オペラの名曲の歌ってみた動画もアップしていて、その再生数も凄い。

 もう一人の柳沢梨雨は、五期生で結成したグループ「五光」のメンバーで、グループの中でも一、二を争う人気がある。ガワの見た目は薄水色の髪のショートボブに気弱そうな表情を浮かべた美少女で、声も澄んでいる中にか細さを感じさせ、そういうのが好きな男性ファンが大量についている。SNSでのストーカーとか脅迫とかがうちのタレントの中では格段に多い。本人自身もバーチャルで使っているガワと同様、細身でショートボブで気弱そうな表情をしている。髪は勿論水色ではないが、あの柳沢梨雨のライバーだと言われれば誰もが納得するだろう。

 姉御肌の藍堂が一期生として後輩たちの世話を焼くのはよくあることなのだが、柳沢がとにかく一人で抱え込むタイプなので、こうして二人で相談に来るのは珍しい。

 とりあえず、俺はつき合いの長い藍堂に言った。

「メッセージの返事が遅くなって悪かった。周年ライブの件だったかな」

「それは大丈夫です。鳳ちゃんにきいていろいろ解決しましたから。それより、深刻な話があって」

 藍堂は心配そうに柳沢を見た。柳沢は泣きそうな表情で言った。

「あの、ストーカーっていうか、ここをずっと見張ってる人がいるんです」

「この事務所をか?」

「はい。先週から私、スタジオの収録が続いていて、よく通ってきているんですけど、この建物をずっと見ている人がいて」

 事務所は社長が親戚から相続した古いビルにある。古いが頑丈にできていて、耐震性はばっちりなのだと社長は言っていた。以前は雑居ビルとして一部を貸していたが、事務所の事業が拡大していくにつれテナントには出て行ってもらい、今はうちの事務所だけで使っている。この建物を見ている、ということはうちの事務所を見ているというので間違いはないだろう。

「前から見ている人がいたのはいたんですけど、向かいのカフェの常連の人かもしれないし、気のせいかなって思っていたんです。でも、先週辺りから、間違いなくここを見張っているって感じの人がいて」

「声を掛けられたりは?」

「それはないです。声を掛けたそうにはしてましたけど、結局何も言われませんでした」

「追いかけてこられたりもなかった?」

「はい。それもないですけど、気味が悪くて」

「その人、私も見たんです。というか、話しかけられたこともあって」

 藍堂が言う。

「先週、ここの入り口で、このビルは何があるんだ、って訊かれて。どういう人かわからなかったから、私、無視して中に入ったんですけど、さっきも同じ人を見かけて。それで、スタジオで柳沢ちゃんと一緒になったときに話したら、柳沢ちゃんも見たって。でも、きっと帰るときにはいなくなってるよね、って言ってたんですけど、さっき帰ろうとしたらまだいて」

 さっき、というのはどれくらい前かと訊くとたったたった今さっきだと言う。俺はすぐに対処するからと二人に言って、ビルの監視カメラを見られるモニター室に行った。事情を説明し、ビルの外側についているカメラの映像を確認する。

 確かに、一人の中年男性がビルの周りをうろついているのが何度も映っていた。藍堂と柳沢を呼んで確認させると、確かにこの男だという。

 このビルの周りの映像は一週間は残すようになっているので、残っている映像を確認するよう、スタッフに指示する。

 そんなやりとりをしているところに、副社長がやってきた。

「聞きました、不審者がこのビルの周りをうろついている、と」

「はい。この男なんですが」

 映像を見せると、副社長は、ああ、と頷いて、

「この人は知っています。芸能記者です」

 と言った。


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