2 早速一人目の候補が見つかる?
「あの……さっきの、男性アイドルライバーの話なんですけど。僕、心当たりがあるんです。歌って踊れる人。アイドルやれると思います。紹介できます」
「お前、それ本当か」
「はい。えっと、本人は実は俳優としてデビュー済みなんですけど、ちょっと事情があって今は表に出ていなくて」
「訳ありか?ライバーの身の上は秘匿するが、万が一外部に漏れたときに事務所とか他のライバーにまで悪影響が出るような事情持ちだったらお断りだぞ」
「いえ、そういうスキャンダルとかじゃないんです。ただ、僕と妹のせいで表に出られなくなったというか……」
「訳がわからんな。具体的にきかないと判断できないが」
でも、ききたくない気持ちもある。一度きいたら何かに巻き込まれるんじゃないかという予感だ。
俺が逡巡するのと同様に、鈴木も迷う様子を見せていた。
「そうですよね。具体的に話さないと用心しますよね。でも、あまり広めたくない話で」
「広めたくはないが、スキャンダルでもないのか?」
「はい。あの……他言無用でお願いしたいんですが」
俺は頷いた。どうも妙な話にきこえるが、興味がわいた。
「ありがとうございます。あの、僕が紹介したいのは、周防章という人なんです。ご存じですか」
正直なところ、なかった。俺の最初の仕事はマスコミ関係だったが、もともとが芸能人にあまり興味がないタチで、当時から芸能人について何も知らないと呆れられたりしかられたりしていた。あの業界を出てからはその傾向に拍車がかかり、今の仕事柄、音楽シーンはチェックしているので歌手とか歌い手については最低限把握しているが、俳優は守備範囲外だ。
俺はすぐにネットでその名前を検索した。すると、情報とともに、何枚もの写真が検索エンジンに引っかかった。大スターとまでは言わないが、映画、ドラマ、舞台、ミュージカルにと売れてはいるらしい。甘いマスクに長身でスタイルがいい。一見しただけで華がある。
「検索した限りでは人気のある人のようだな。でも最近活動がない……?仕事の自主降板が続いていて、実質引退状態……?」
検索エンジンに引っかかった記事を読んでみる。芸能活動をしていない期間は一年ほどか。所属事務所との契約も解除と書かれていた。
「どれほど親しいか知らんが、こういうリアルで一線でやれてた人気者がVのガワを被ってデビューとか承知するかな。それに、仕事を入れても断られるようじゃな。所属事務所との契約も解除してるし、もう芸能活動はやらないつもりなんじゃないか」
「でも、どんな形ででもエンターテイメントをやるべき人なんです」
鈴木の言葉に、俺はそのとき検索エンジンの画面に上がっていた、周防がミュージカルで歌っている場面の動画をクリックしてみた。すぐさま豊かな歌声が部屋に広がった。別な動画をクリックすると、歌いながら色気のあるダンスを披露していた。
これはいける、と俺は思った。この歌声もダンスも凄い。
「鈴木、この周防さん自身の意向はどうなんだ。ライバーとしてVのガワを被ってデビューすることについて同意してくれそうなのか」
「いえ、その、それはわかりません。デビューしてくれたらって僕が勝手に思ってるだけで、話してみないとわからないです。すみません」
「わかった。それでもいいから、一度会ってみたい。紹介できると言っていたな。セッティングできるか」
「はい。ええっと、周防さん、実はうちの離れに住んでいるんです」
「何だって?」
全く予想していなかった話に、俺は聞き返した。
「どういうことだ、そりゃ。もしかして、親戚だったりするのか」
「違います。うちの離れはもとはじいちゃんばあちゃんが住んでいたんですけど、ちょうど空いてて、そこに入ってもらったんです」
「何でそんなことに」
「周防さんは一人暮らししてるんですけど、芸能の仕事に出られなくなって家賃を払えなくなったら困るだろうから、安く貸すことにしたんです。本当はタダでも良かったんだけど、それは向こうに断られて。とにかく、周防さんには連絡とれるんで。今日早速どうですか?」
「それは構わんが」
「わかりました。今すぐ電話しますね」
鈴木はその場で周防に電話をかけた。そして向こうもすぐに電話に出た。
こんにちは、周防さん、と本当に気安い様子で鈴木は話し始めたので、親しいのは事実らしい。
「それで、仕事の関係で周防さんに会ってほしい人がいて。周防さん、今日は何時に帰ってきます?……え、今日から明後日までロケですか?ドラマですか?」
そう言う鈴木の声は最初は喜びで跳ねていたが、それが段々と落ちてくる。
「そんなの、周防さんの仕事じゃないですよ。……わかってますけど、でも、周防さんには勿体ないです。仕事なら、僕、当てがあるんです。周防さんの特技を生かせる仕事ですよ!……いやまあ、それも周防さんの特技を生かした仕事には違いないですけど。わかりました、帰ってきてから話しましょう。僕の上司に会えることになったんで」
話の結果、周防には事務所で三日後に会うことになった。
電話を切った後、すみません、と鈴木は落ち込んでいた。鈴木としては、今日にでも面接をセッティングするつもりだったらしい。
俺は肩をすくめて見せた。
「別に責めることじゃない。仕事があるのなら良いことじゃないか」
「でも、周防さんには役不足です」
「ロケなんだろう?だったら芸能関係なんじゃないか」
「それはそうなんですけど、表に出る仕事じゃないんです。あの、最近よくあるじゃないですか、心霊スポットを巡る番組。あれに同行していて」
「同行?出演者じゃない?」
「はい。今、周防さんテレビカメラとか映像に映る仕事は受けられないんです。障りがあって」
「障り?」
鈴木は少し迷ってから、声を潜めた。
「心霊スポットのロケで、呪われたんです」
俺は思わず顔をしかめた。
「……は?」
「今、周防さんが写真とか動画に映ると、顔に黒い影がかかるんです」




