6 面接終了
とりあえず俺はそれぞれの条件について答えられる部分は答えることにした。
「ガワの制作は鎔蘭先生にお願いしています。鎔先生は美形キャラクターを描くのにとても定評のある方で」
「きいた。だけど、そのことと俺のアバターの外見がどうなるかは別のことだろ」
何と言えば良いかわからず唇を噛む俺の側で、健吾が言った。
「巧さん、鎔先生は、ライバー自身を見てキャラクターをデザインするそうですよ」
「つまり、俺たちに実際に会ってデザインするってことか?」
「ええ。だから、巧さんが鎔先生に直接会ってみればいいんじゃないですか」
「わかった。じゃあ、キャラクターのデザインの件はその鎔ってのに会ってから考える」
これは困った、と俺は思った。デビューを承諾してもらわないままに話を進ませるのはまずい。もし後で断られたら、いろいろなことが無駄になる。
でも、おかまいなしに健吾が巧に訊く。
「それで、二つ目の条件ですけど。確かにグラハムの関連会社でトラッキング技術を手がけているところはありますけど、日本のエンタメ業界とは関わりがないですよね」
「ああ。でも、日本のコンテンツに興味を持ってる開発者はいるからな。そいつと話をすればいい」
「わかりました。それで、三つ目なんですけど。ライバーを守るためのキャラを作るって何ですか」
「そのままの話だ。ライバーとリスナーの間にスポークスマンを置くということだな。リスナーからの質問とか批判とかをタレント自身が受けて対応するのが、タレントが疲弊する大きな原因だろ。俺も司も、そういうのの無視の仕方は慣れてるけど、健吾は配信活動なんて初めてだから、そういうのがいた方がいいと思うぞ」
「それは僕も賛成ですね」
周防が真面目な表情で言った。
「僕は今まで自分で配信をしたことがないので、直接リスナーに対処するとなるとやっぱり大変だと思います。それを助けてくれる人がいるといい」
俺は唸りながら考え込んだ。巧の提案内容は意味のあることに思う。そういう存在を置くことによって、助かるライバーはいるだろう。だが、難しい役目だ。誰に任せられるか。立ち回りをそつなくこなせて、メンタルが強くて、会社の立場をよく理解していて。
巧が唐突に俺に言った。
「お前がやればいいだろ」
「は?」
俺は何を言われたのかわからず、訊き返した。
「だから、お前がその役をやればいい。俺たちのマネージャーをやりながらアバターを使ってスポークスマンをする。その声だ、リスナーもすぐに覚えられるだろ」
俺は固まった。ここで声のことを言われるとは思わなかった。
俺は子どもの頃から自分の声に悩んできた。声変わり前は何も感じなかったが、小学校五年のときに声変わりをすると、それはもう悩み以外の何者でもなくなった。
声は太く低く、よく響くが、その太さ低さと響きはそんじょそこらの大人の男でも出せるものではなく、小学生の声とは到底思えないものだった。
そうなって以降、家族も含めた周囲の俺への反応がおかしくなった。同級生は俺の声を気持ち悪がったりからかったりしたが、それはまだましだった。きつかったのは、両親の反応だった。それまでも俺は出来がいい兄貴と比べて軽い扱いしかされていなかったが、声がこうなったことであらかさまに嫌悪感を示され、無視されるようになった。高校までは行かせてもらえたが、それは家族に中卒がいるのは避けたいという親の見栄の結果だった。
高校を出て就職をしてからは、俺は一度も家に帰っていない。盆正月に葬式法事、これらは全て不参加だ。兄の結婚式にも呼ばれなかった。気持ち悪い声の人間が家族にいると知られたくない、というのが両親及び兄の意向だった。なので、俺は兄の奥さんや子どもに会ったこともない。
とはいえ、最近はあまり声のことは言われなくなっていた。最近、というのが、この会社に移ってからということなのだが。前の会社では時々声のことで陰口を言われているのはきいたし、その前にいた制作会社ではあからさまに俺のことを「変な声の奴」と呼ぶ人もいた。
まあ、それは過去のことだ。それはもうどうでもいい。問題は今だ。俺の声が普通とは違っているのは間違いない。それがライバーとしてネット上で喋るとか、有り得ないだろう。
が、そこで鈴木が反応した。
「それ、素敵です!主任の声、本当にいいですから。俺、初めて聞いたとき、声優かと思ったんです」
「揶揄っても面白くないぞ」
「そんなじゃないです、本心です!」
「前から思ってたけど、ツカズさんって、自分の声、好きじゃないんですか」
健吾が不思議そうに俺に訊く。
「僕は、特徴的でいい声だって思ってましたけど」
「特徴があるのは認める。でも、それがいいかどうかは別だろう」
すると、周防が言った。
「もしかして、声を気持ち悪がられたことでもありますか」
「周防さん!」
鈴木が抗議するように小さく声を上げる。周防は困ったような様子で、
「いや、最初に津和さんの声をきいたとき、僕もちょっと衝撃を受けたから。多分、見た目と声のギャップが大きいから、それで相手はそういう反応になったのではないですか」
俺はどう反応していいのかわからなかった。俺は男性としてはどちらかというと背が低く、四角い置物のような見た目だ。顔だって、相手に不快感を催さないくらいかなという程度だ。そんな見た目から俺のこの声が聞こえることで、気持ち悪がられるほどのギャップを感じるということなのか。
巧は俺の葛藤など鼻でわらってのけた。
「見た目と声のギャップなんぞ、アバターのデザインで何とでもなるだろ。その鎔とかいう漫画家にうまいことやってもらえ」
「いや、鎔先生にはユニット四人分のデザインしかお願いしていなくて」
「じゃあ、追加発注すればいいだろ」
「しかし、予定外のライバーデビューは社長が何というか」
いや、まあ、俺のデビューは社長は折り込み済みだが、それはここでは伏せておく。
巧は俺の言葉など構わず、
「社長に話してみろ。それが俺の条件だと言って」
「私からもお願いします。津和さんが表だってサポートについてくれるのなら、これほど心強いことはない」
周防は胡散臭そうな笑顔で言った。
こんなの絶対に認めんぞと思いながらも、最終的には俺のライバーデビューについて社長の意向を確認してからまた巧たちとはオンラインで会うことにした。そのときには周防も参加したいと言った。




