4 周防の事情
周防は、ライバー活動について前向きな姿勢を見せた。一方で、おかしなことを言った。
「今回のお話は本当にライバー活動のお誘いということでいいんですかね?さっきの社長室の件があって、実は僕の家業の方の仕事の依頼なんだろうかって思ったりしているんですけど」
「それはどういう意味ですか」
健吾が訊ねる。周防は人好きのする笑みを浮かべながら、
「そのままの意味ですよ。さっきゲームをしていたあなたがたから、ちょっと妙な気配を感じたもので。それで、さっき一緒にゲームをしていた相手は大丈夫なのか確認できませんか」
「さっきツカズさんには言ったんですけど、一緒にゲームをしていた人たちは何もなかったですよ。さっきまで電話で話していたんで」
「どういう人たちなんですか。こちらの津和さんからは、オンラインでスカウト相手に会っていたのだけど、ゲームで戦うことでお互いに人となりがわかるだろうっていうことでゲームをすることになったとききましたが、スカウトというのはライバーとしてですか。それともスタッフとして?」
俺は口を開いた。
「ライバーとしてです。実は弊社は男性ライバーをアイドルとしてデビューさせようとしていまして。四人組のユニットとして売り出す予定なんです。そこに周防さんにも参加していただきたくて。さっきゲームをしていた二人もそこに誘っているんです」
ようやく面接の本筋に話を持っていける、と俺はここぞとばかりに言った。三ヶ月後にはデビューをさせたいと考えていること、絵師は鎔蘭になること、五年後には一万人の観客が入る会場でのライブをしたいことを。
周防は考えるような様子を見せながら、
「絵師、というのはよくわかりませんけど。三ヶ月後にはデビューですか」
「はい。周防さんには是非参加していただきたいんです。ただ、ライバーとしてデビューした場合、舞台みたいな時間をとられる仕事は難しくなると思います」
「それは構いません。今、事情があってそういうのはやっていないので。ただ、良いんですか。キャラクターの中のライバーの正体が僕だっていうのは、すぐにバレそうなんですが。もし氷上さんも四人組の一人としてデビューするというのだったら、氷上さんも同じ問題は出てきますけど」
それは社長や副社長、前島主任とも話している。
「構いません。氷上さんにお願いしたときにもそのことは検討しましたが、どうせネットに上がるのは憶測でしかないので、そこは問題にならないという結論になりました。それに、本当にバレたとしても、それで人気が落ちるとは限らない」
「ああ、アニメのキャラクターに声をあてている声優の顔がわかったからといって、キャラクターの人気が落ちるというわけではないのと同じ感じですか」
それとは少し違うのではないかと思いながらも、俺は周防の興をそぎたくなくて言った。
「まあそうなのかもしれません。ただ、スキャンダルは御法度です。致命的なダメージになる可能性がある」
「わかっています。スキャンダルのせいで、キャラクターに対してまで拒否反応がでるのでしょう。顔出しの役者でも同じですよ。スキャンダルのせいで役や作品に悪いイメージがつくのを避けるための降板とかよくある話です。でも、そうなると先に説明しておいた方がいいのかな」
「何です?」
周防の言いぶりにひっかかりを覚えて俺は訊ねた。周防は俺ではなく、健吾を見た。
「氷上さんは今回のアイドルユニットに参加する予定ですか。話を受けたらドラマとか映画とか拘束時間の長い仕事は難しくなるんじゃないですか」
「そうですね。でも、僕は今回の話を受けるつもりです。今僕はちょっと行き詰まっていて。年齢と見た目、雰囲気が合わなくて、事務所から回されるオーディションに悉く落ちているんです。それ以外にも理由はあるのかもしれないですけど、少なくとも事務所にはオーディション落選の理由はそうだときいています」
「確かに、氷上さんは僕より年上だとは思えないくらい若く見えますからね。でも、そのうち外見が年齢に追いついてくるのではないですか」
「わかっています。でもそれには少なくとも十年くらいは必要だと思っているんです。その間、ライバー活動をしながら模索しようかと。周防さんこそどうなんですか。事情があって芸能活動はしていないというようなことを言われていましたけど」
「それなんですけどね。行道くんは津和さんにどれくらい説明したの?」
訊ねられて鈴木は言った。
「全部説明しましたよ。周防さんは心霊番組のロケ中に僕と妹を庇って呪われて、そのときに障りが出て、写真とか映像に映ったときに顔に黒い影がかかるって」
健吾は訊ねる。
「それは本当のことなんですか」
「ええ。芸能界にも僕の噂、流れてるんじゃないですか」
「それはまあ。でも、荒唐無稽だと僕は思ってましたけど」
「呪いなんてあるわけない、ですか?それじゃ、試しに僕の写真、撮ってみます?」
周防が俺に向かって言ってきたので、俺はスマホを取り出し、写真を撮った。そして撮った写真を見て絶句する。
周防の顔の上からべったりと黒いスプレーが吹きかけられたように影が映っていた。これでは顔が全く見えない。
俺のスマホを横から覗きこんでいた健吾が周防に訊ねた。
「僕も撮ってみていいですか」
「どうぞ。何度やっても同じですよ」
健吾も周防を撮り、そして画面を見た。周防の顔の上の影は俺が撮ったときよりは薄く、周防の顔の輪郭が見えてはいたが、それでもやっぱり不自然な影が映っているのには変わりがなかった。
健吾は頷きながら、
「いつもこんな風にしか映らないとなると、芸能活動は難しいかもしれませんね」
「ええ。イベントでいくら写真撮影不可を謳っても、絶対に誰か撮影する人はいるでしょうから」
「だからライバー活動は周防さんにいいと思うんですよ!」
鈴木が勢いこんで言う。
「この事務所だと、ライブもしますし。来月、七周年のライブがあるんですよね」
鈴木に話を振られて、俺はここぞとばかりにセールストークを始める。
「そうです。九千人の会場を借りて、観客を入れてやります。今、準備しているところです。周防さんも、うちでデビューしたら、ユニットでのコンサートもですけれど、ソロでのコンサートだって可能ですよ。現に今、うちの稼ぎ頭のタレントは周年ライブの後、初のソロコンサートが予定されています」
「では、どのような絵柄のキャラクターになるのかを見てから判断してもいいですか。あと、一緒に組むのがどんな人なのかも教えてほしい。氷上さんはいいんですけど、あと二人いるんでしょう」
「はい。それがさっき一緒にゲームをしていた二人なんですけど。ちょっと話が途中になっているので、また面接をして話をしていかないとならなくてですね。それと、ライバーとして活動するときのガワについては、鎔先生が今から描くことになっているんです。ライバーが決まってから、本人の雰囲気を踏まえてデザインしたいと言われていて」
「ああ、鎔さんというのは先ほども言われていましたね。有名な方なんですか?」
「はい。とても人気のある漫画家で」
鎔蘭の代表作を挙げようとした俺のそばから、健吾がノートパソコンの画面を周防に見せた。
「鎔蘭先生はこういう絵を描く人ですよ」
「ああ、見たことがあります。なるほど、この絵で僕をイメージしたキャラクターを描いてもらえる、と。それは素晴らしいものになりそうだ」
「では、承知してもらえる、と」
「そうですね。この話を受けても、家業を続けて大丈夫ですか。前も、芸能活動をしながらやっていたので」
「それは大丈夫です。氷上さんも顔出しの仕事は続けるので」
これで話が決まるかと思いきや、周防は言った。
「そうですか。それでは、残り二人のメンバーが決まるまで、保留というわけにはいきませんか」




