表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/31

1 フレンドリーファイアのどうかしている使い方

「巧ぃー!」

 音声が割れるほどの若い女性の怒号がイヤホンから聞こえてきた。俺は思わずVRゴーグルを外したくなったが、大声の第二波はなく、代わりに声の主と思われる健吾の連れがまっすぐ巧まで走ってくると、持っていた銃で巧のアバターを、


 殴った。


 俺は思わず二度見した。いや、銃なんだから撃てよ。何で殴るんだ。というか、このゲームで銃で殴るとかできたのか。

 銃で打撃をくらわすというこの手のゲームでは考えられないムーブをかました相手チームのプレイヤーは三歩ほど後ろに跳びすさると、銃を鈍器を扱うように構えながら、巧へ高速で口撃を繰り出した。

「何考えてるんですか、瑠璃さんをVRのFPSに参加させるなんて!FPSなら他にも種類があるんだから、そっちにしとけば良かったでしょう!」

「でも、ちょうどプログラムの改修が終わったところだったし。ていうか、銃を鈍器として使ってくるとか、あり得ないだろ」

 どうやら巧も俺と同じことを思ったらしい。

 しかし、相手プレイヤーは言い放った。

「何であり得ないんですか。銃底で殴るとか、普通でしょ」

「いや、このゲームの仕様だと、銃で殴ってもダメージ判定されないんだが」

「それは良いことをききました。打撃がダメージにならないんだったら、逆に思う存分殴っていいってことですよね。氷上健吾、あんたも何か言いなさいよ。ていうか、銃で撃っても構わないですよ、こいつの動きは私が止めておくんで」

「おいおい、何言って……おっと」

 巧の言葉の途中で、健吾は何も言わずに銃を撃った。が、それを巧はひらりとかわす。

「おお、怖え。わかった、悪かったよ。あいつを巻き込んだのは、その何だ、お前らが会えてないってきいてたからさ。あいつをゲームに誘ったらお前らが一緒に遊べていいかなって」

「それはつまり、僕のせいだと?」

 健吾の声には怒りが滲んでいる。

「僕が今回のデビューの件を持ってこなければゲームで対戦しようってことにならなくて、瑠璃ちゃんがあなたの思いつきに巻き込まれることもなかったということなんですか。なるほど」

「いやー、えっと。司?司?」

 巧は虚空に話しかけている。恐らくチーム内で通信をしているのだろう。後から来たチームメンバーも我に返ったように、

「そうだ、司さん!司さんは?どうせ一緒なんでしょ?」

 そのとき、穏やかな声がボイスチャットで聞こえてきた。

「どうせ、っていうのはご挨拶だなあ。ところで何で真田さんがここにいるの?」

 司だった。近接ボイスチャットのエリア内まで来ているらしい。

 巧が言う。

「いや、なんか健吾がすっげえ怒っててさ。でもって真田を引き連れてきた」

「私がここにいるのは瑠璃さんの代わりですよ。瑠璃さん、VR酔いでぐったりしていて、今はゴーグルを外して横になってます」

「あー、そうなんだ?弱いとはきいてたけど、本当に弱いんだねえ」

「何呑気なこと言ってるんですか。ていうか、こうなるの、司さんには予想できていていたんじゃないですか。何で巧を止めてくれなかったんですか」

「止めるって言っても、巧は思いついたら即行動、だからね。今回もそうだったし。で、試合はどうするの。社長さんは巧が落としたんでしょ」

「おお、そうだ。もう一人はあと少しで落とせる」

 言いながら、巧は無造作に銃を上げると俺に向けて引き金を引いた。が、咄嗟に真田は銃を投げて巧の手に当て、銃撃を阻む。いや、何だその投擲技術。有り得んだろ。

 俺は内心でそう思いながら、さっき隠れた藁の山の後ろに入り込んだ。が。

「はい、チェックメイト」

 司がそこで待ちかまえていて、素早く俺の銃を撃ち落とした。俺は動けなかった。司はにこやかに言う。

「武装を解除してくれれば、とりあえずは殺しはしませんよ。僕らはもともと面接のために会うことになってたんだし、このままゲーム内で話を続けましょう」

 俺は少し考えて言われた通りにした。武装を解除しなければただ撃たれて終わるだけだ。それよりは、元々の目的を果たせた方がいい。

 俺は全ての武器を放棄し、両手を上げた。そして後ろから司に銃をつきつけられた形で藁の山の後ろから出た。

「ツカズさん?」

 健吾が驚いたように言う。司がにこやかに、

「ちょっと話ができるようにと思って、投降してもらいました。巧、別にいいでしょ。試合は十分楽しめたんじゃないかな」

「あー、そうだな。社長サンは強かったな。そいつとのタッグの錬度もなかなかだった。うん、まあ良かったんじゃないか」

「そう。良かった、楽しめて。じゃあ、津和さんの話をきこうか」

 言うなり、司は真田を撃った。ヘッドショットを二発。即座に真田はキルされ、アバターは消滅した。俺は驚きで固まった。

「なっ……!」

「だって、彼女は部外者でしょ。そして今回のデビューの話は矢鱈な耳がない方がいい」

「いや、それはそうだが」

 理屈ではわからなくはない。が、感情が追いつかない。ゲームだからといって、仮にもチームメンバーをあっさりと撃つとか。

 司は穏やかに、

「このゲームがフレンドリーファイアが有効でよかったですね。そうでなかったら、あなたたちに彼女を排除してもらわないとならなかった。彼女、好奇心旺盛ですからね。面白そうな話が始まると思ったら、スッポンが食いつくみたいにしてつきまとってゲームからログアウトしなかったでしょうよ」

 健吾が呆れた様子で、

「それはそうだろうけど、いったん僕らもゲームからログアウトして、またオンラインで会えば良かったのでは?」

「確かにそういう方法もあるけど、こっちの方が手っ取り早いでしょ。ね、巧?」

「ああ。俺としては今のこの状況で話ができた方がいいっていうのはあるな」

 巧は指をパチンと鳴らした。

 その瞬間、空が変わった。VEM特有の灰色味の強い水色の空から、ピンクの空に薄紫の雲がたなびく空へ。

 そして俺の服装も替わっていた。さっきまで、VRゴーグルを通じて見えていたのはゲームのアバターの戦闘服だったのに、今は自分の今日の服装をしている。これは俺だけではなく、健吾も巧も司も同様だ。

 俺たちは、茨の生け垣の前に立っていた。生け垣の中には小さな家が五軒建っているのが見えた。

 巧は生け垣の中に入ると、一番手前にあった家に入っていった。眉間に皺を寄せながら健吾が後に続いた。

 ついていくことに躊躇していた俺に、司が言った。

「どうぞ。あそこで話をしましょう」

「わかった」

 俺は軽く司に背を押されるような感じで巧たちが入っていった家に足を踏み入れた。

 とそのとき、俺は強烈な目眩を感じた。脳味噌と脊髄が反対方向にそれぞれ強烈に揺さぶられる感覚に、俺は身動きがとれなくなった。視界が霞み、暗くなり、耳にすさまじい雑音が流れ、そしてそれらがクリアになったとき、俺はどこかに寝かされていて、俺の視界いっぱいに誰かの手のひらが見えていた。その手のひらが遠ざかると、俺の傍に膝をついていた若い男が、俺の顔を軽くのぞきこんできた。

「もう大丈夫かな」

 周防章だった。俺は社長室の床に寝かされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ