ダンジョン
父親との会話から1ヶ月。
太郎は冒険者としてダンジョンの中にいた。
冒険者になるに辺り、太郎は健康診断、運動能力テスト、各種講習を受けたが、その他の書類仕事は全て米倉が処理した。書類に関して、太郎はただ、サインや押印をしただけである。
個人で冒険者になろうとすればこの数倍の手間がかかるのだが、企業所属はこういった面で便利である。事務仕事を専門家に任せられるのは大きい。
「灯りが有るのはありがたいな」
ダンジョン内には、バッテリー式のランタンがいくつも置かれている。
深いところまでは手が回らないが、浅いところであればこういったフォローがされている。
モンスターがランタンを持ち去ったり壊したりする危険性があるけれど、その可能性は低く、それ以上にモンスター討伐の役に立つことが重要視されている。
と、言うのも。
「オラオラオラオラ! 死にさらせ!!」
「……ターゲット確認。駆逐する」
「水、ありますよー。冷たいお水はいかがですかー」
危険なダンジョンであっても、浅い場所には人が多く、モンスターが早期に駆逐されているからだ。モンスター以外、冒険者が壊してしまうこともあるが、それすら滅多に発生しない。冒険者はランタンを壊すと無駄な経費がかかるため、そうならないように立ち回る。
こういった浅い場所で稼ぐのは、ギフト目当ての冒険者と、企業に所属しないフリーの冒険者だ。彼らの懐具合はあまり良くないため、出費には厳しい判断をしている。講習で「ランタンを壊したら弁償」と習っていれば、新人以外が壊すわけなどないのだ。
中には悪意をもってそんなことをする者もいたが、冒険者の中には冒険風景を撮影している者が多くいるため、証拠を動画で提出されてすぐに真犯人が捕まるケースが何度も報道され大手掲示板に実名が載せられたりするので、今ではほとんど存在しない。
……それでもゼロにならないあたり、人間の悪意は根深い。
太郎は企業所属のバックパックを背負い、見た目だけは比較的軽装でダンジョンの浅い所を越えていった。
ギフト習得の時に散々歩き回った区画のため、3年ぶりでも見るべき所が少なかったからだ。体の錆を落とすにしても少し踏み込んだ方がいい。
特に、企業秘密の塊である太郎はできるだけ人目につかないところで戦わないといけないので、そういった事への配慮も求められている。
そこに窮屈さを感じてしまうが、それも含めて太郎が選択した話である。
太郎は記憶しているものより開発されたダンジョンを足早に進んでいった。




