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1─2─1

 翌週の月曜日。隼人は朝早く登校していた。いつもはホームルームの十分前くらいに着くのだが、今日は一時間前。


土曜日の大会で、隼人は才色兼備の優等生、渡辺真梨と対戦した。


 なぜ真梨が、学校でのイメージとかけ離れたDBTをやっている──おまけに大会にまで参加しているのだろうか?


 また、なぜ非常に希少な『(ガイア・)(ドラゴン)』のクリスタルを所持しているのか?


 そんな疑問が頭に残り、隼人を学校へ急がせたのだ。


 ちなみに『(ガイア・)(ドラゴン)』だが、大会終了後気になった隼人がインターネットで調べたところ、DBTのプレ販売が行われたイベントで限定販売された『属性(エレメント)ブースター(全六種)』の中に封入されていたものの一つらしい。


 最終的なゲームバランス調整をし終える前に先行販売されたため、正規のブースター産のスーパーレアクリスタルよりもやや高いスペックとなっているようだ。


 『貴重で強いクリスタル』程度の認識しかなかった隼人はますます驚いた。


「別に早く来たからって話せるわけじゃないんだけどな⋯⋯」


 誰もいない教室で一人呟く。


 真梨とは同じクラスというだけ。話しかけるには相当の勇気が必要だ。


 四月の中旬。朝はまだ涼しいとはいえ、日中気温はぽかぽか陽気──というには少々暑い位になっている。


 教室は密閉されていて、どんよりした空気がこもっていた。


 隼人は窓を開けた。朝の爽やかで新鮮な空気が欲しかった。屋外から風が入って来て、隼人の黒髪をなびく。


 隼人は自分の席に座った。教室の一番左の最後尾。教師の目が届かないベストポジションだ。


 とはいえ特段することはない。スマホで時間を潰そうと、制服のポケットに手を入れる。


 不意に教室のドアが開いた。


 こんなに早い時間に、自分以外にも来る人がいるのか。


 隼人はポケットから手を出し、入口に視線を移して、固まる。


 ──渡辺真梨だった。


「⋯⋯おはよう」


「あ、ああ。おはよう」


 無表情──否、少々面食らった表情の真梨が隼人に挨拶した。


 隼人は戸惑いつつも、ぎこちないながら笑顔を作る。


 前のドアから教室に入った真梨は、すぐに席に座った。一番右の最前列。教師の目に入りやすい場所だ。隼人にとってはかなりの悪地である。


 挨拶以降会話は無く、教室に沈黙が訪れる。


 ──今は話しかける絶好のタイミングなのではないか?


 クラスメイトが大勢いる中話しかけるのは無理だ。真梨に話しかける男子というだけで好奇の的にされる。


 また、仮に話しかけられたとして、教室でDBTの話題を出されて真梨は喜ぶだろうか?


 もしDBTをしていることを友達に隠していた場合、いい迷惑だろう。


 だが、二人きりの今なら好奇の目はないし、誰かに真梨がDBTプレイヤーだと露見もしない。 


 隼人は真梨をこっそり盗み見た。


 真梨はノートと教科書を机に広げ、ペンを走らせている。どうやら勉強しているらしい。


 真梨の席は対角線上、最も遠い位置にある。何の科目かまではわからない。


 隼人もスマホの上で指を走らせながら、話しかけるタイミングを見計らう。当然サイトの記事は全く頭に入ってこない。


 真梨の手の動きが緩慢になった瞬間を狙って、隼人は口火を切った。


「⋯⋯いつも朝早く来てるのか?」


 ペンの音がぴたりと止まる。


「ええ。早く来て予習してるの」


「そうか。さすが成績いいだけあるな」


 真梨はノートを見たまま答えた。


 無視される可能性を考えていた隼人は、返事があってほっとする。


「あなたは普段もっと遅いわよね。どういう風の吹き回し?」


「えっ⁉ いやまあ、なんとなく?」


 真梨は顔を上げ、意思の強そうな大きい瞳に隼人を映す。


 隼人は視線を彷徨わせた。真梨が気になり早く来てしまったとはとても言えない。


「⋯⋯そう」


 真梨は訝しげな目でこちらを見てきたが、すぐに真顔に戻った。


 しかし、その表情はどこか硬い──緊張だろうか?


 少なくとも先週の大会で対戦していた時のほうが生き生きしていたように感じる。


 特段親しい訳ではないので、ただの思い違いという線も十分考えられるが。


「渡辺さん」


 隼人が本命の質問──なぜDBTをしているのか──をぶつけようとする。


「⋯⋯何かしら」


 それに対する真梨の反応はややぎこちないように思えた。


「──ごめん、やっぱりなんでもない」


「? そう」


 会話が途切れる。隼人は再びスマホをいじり始めた。


 もし仮に真梨が緊張していたとして、その原因はなんだろうか?


 もしかすると極力先週の大会関係には触れて欲しくないからかもしれない。


 地雷を踏むのを恐れた隼人は質問できなかったのだ。


 真梨もすぐに勉強に戻るだろう。


 そう思ったがペンの走る音が聞こえてこない。不思議に思い、隼人はそっと顔をあげた。


「────、────」


 真梨は緊張を振り払うかのように、深呼吸していた。


「⋯⋯⋯⋯?」


 隼人は真梨を凝視する。真梨は何度か深呼吸を繰り返したあと、すっくと椅子から立ち上がった。


 隼人の視線が真梨の視線とかち合った。真梨が隼人を見てきたのだ。その瞳からは大きな覚悟が伺える。


 真梨はゆっくり、ゆっくりと歩を進め──隼人の前へとやって来た。


「ど、どうしたの?」


 椅子に座ったまま、隼人は真梨を見上げる。


「⋯⋯その、あなたにお願いがあるの」


 真梨は躊躇いながらも口を開いた。両手を制服のスカートの前で一つにし、持て余している。


「お願い?」


 隼人は状況が飲み込めず、おうむ返ししてしまう。


「────私と一緒に、クリスタルを選んで欲しいの」

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