1─1─7
「勝負あり、かしら?」
「⋯⋯⋯⋯」
真梨の凛とした声が響いた。隼人は打開策を見つけようと押し黙り、思考を巡らせながら盤上のクリスタルを回収する。
次は5thラウンド。最後のラウンドだ。ここで逆転しなくてはならない。
埋めるのは12点。
この大差を埋めるには、やはり『地龍』場外にするほかないだろう。
だが、『地龍』は重く、中途半端にぶつけても動かない。
しかし、思い切りぶつけたら、自身のクリスタルも共に場外へ出てしまうだろう。
どうすればいい?
今までの攻防を思い出すのだ。そこに勝利の鍵があるはず。
そもそもなぜ自分は劣勢に立たされているのだ?
──『地龍』を出しきれない痛恨のミスがあったから。
違う。
そもそも「『地龍』を押し出さなければならない」状況に陥ったのは、純粋に真梨が高得点を重ねてくるからだ。
常に『地龍』を《スピンシュート》で放つ。『地龍』は一定の円軌道を描いてフィールド最外部で静止。
これを四ラウンドともやられている。毎回だ。そう、毎回────
「────!」
真梨が手に持ったクリスタルを構える。──今回も『地龍』だ。
そして水平回転をかけ、放った。──今回も《スピンシュート》だ。
『地龍』のクリスタルが真梨の手を離れ、フィールドへと降り立つ──
「──今だ!」
『地龍』がフィールドに触れた瞬間、隼人は『ドラゴニル』を発射した。
DBTのルールでは、オフェンスはディフェンス側のクリスタルがフィールドに触れた瞬間からクリスタルを投げることができる。
もっとも、相手のダイスが停止してからダイスを放つプレーヤーが多いが。
しかし、隼人は今回、オフェンスがクリスタルを投げることが可能になった瞬間放った。
今までどおり円軌道を描く『地龍』。背後から『ドラゴニル』が襲う。
陸龍は痛恨の敗戦の復讐を渇望したかのごとく、大地の龍を手にかける。
見事にヒットし、『地龍』は場外へ、『ドラゴニル』はギリギリでとどまる。
出た目は7。フィールドボーナス×2。14点獲得。
62対60。──隼人の勝利である。
「まさか⋯⋯⋯⋯!」
真梨は信じられないものを見たかのように、大きな目を見開いている。
「君のコントロールは抜群だった。だから俺は勝てた」
「どういうこと⋯⋯?」
隼人のざっくりとした説明に真梨は首を傾ける。それを見て隼人は説明を付け加える。
「『地龍』のクリスタルは常に同じ投げ方で、同じ軌道をだどっていた」
「──! それで動きを読まれたわけね。でも、どうしてわざわざ動いているダイスを狙ったの?」
流石は優等生というべきか、たったそれだけの追加説明だけで、真梨は隼人の言わんとすることを理解し、さらなる質問をぶつける。
「小さな力で場外に出す必要があったからさ」
隼人は得意げに解説する。
大きな力だと、自身のクリスタルも共に落ちる可能性が高い。そうならないよう、小さな力でぶつける必要があった。
だが、止まっている状態の『地龍』に小さな力でぶつけても、3rdラウンドの時のように場外に出しきれない。
そのため運動時を狙った。運動時ならば静止時より摩擦が少なく、小さな力でも十分に移動させられるのだ。
「⋯⋯なるほどね。負けたわ。ありがとう」
真梨はまたもやそれだけで理解し、小さな蕾が花開くように微笑する。
「こ、こちらこそ対戦ありがとう」
その笑顔に魅せられ、隼人はまごつく。
「なーに赤くなってんだよ」
「な、なってない!」
そんな隼人の元に、亮太が寄ってきてからかう。
「まー普段真顔の美少女が笑ったんだ。しょーがねーわな」
「だからなってないって!」
隼人が必死に否定するも、亮太はニヤニヤ笑いを収めない。
とりあえず亮太のおちょくりから脱出しようと頭を巡らす。
──真梨に話しかけるのはどうだろうか?
亮太から逃げられるし、ちょうど聞きたいことがいくつもある。また、平然と話しかければ、意識して赤くなっているなんてことも否定できる。一石三鳥だ。
隼人は亮太から、テーブルの向かい側へと視線を移すが、
「あれ⋯⋯?」
しかし真梨の姿はもうなかった。
「全試合が終了しましたので表彰を行います! 上位四名の方はこちらにお願いします!」
そんな折、元気のいい店員のアナウンスが入る。
ホビキンの大会ではささやかながら賞品が出るのだ。
店員はその賞品──割引券やポイント券──を取りに行っていたのだろう。決勝戦終了から少し遅れてアナウンスがあったのはそのためだ。
「隼人、行ってこい」
「ああ」
隼人は亮太に背中を押され、店員の指示する方向へ向かった。
黒眼鏡のぽっちゃり大学生──隼人の準決勝の対戦相手と、真梨の対戦相手と思われる青年もやってくる。
表彰式に参加、というか周りに集まっているのはざっと七、八人。参加者の約半数といったところだ。
初戦で隼人と当たったイケメンやその友人はいない。参加は義務ではないため不思議ではだろう。
参加しようと思うのならば負けたにも関わらず、ずっと対戦スペース近くにいなければならない。
「あとは準優勝の方ー。いらっしゃいませんかー!」
再び店員のアナウンス。
しかしそれに応える者──真梨の姿はなかった。
「えー、では仕方ありませんね。まずは優勝した方、おめでとうございます!」
こういった状況に慣れているのだろう、店員はすぐに切り替え表彰を始めた。隼人に近寄りそう言った後、勢いよく拍手をする。
つられて会場で拍手が起こった。
「優勝賞品と、準優勝者不在のため、こちらも差し上げます」
「あ、ありがとうございます」
隼人は真梨の分の賞品も一緒に受け取る。
そして拍手に応え、お約束として賞品を両手で高く上げた。
こうして大会は終了した。
──隼人の真梨に対する数多くの疑問を残して。




