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1─1─6

 その後の準決勝。隼人の対戦相手は、黒眼鏡をかけた小太りの大学生だった。典型的なオタクの風貌だ。


 隼人は彼の持つレアなクリスタルの性能に苦戦するも、接戦の末勝利。


 そして決勝戦。隼人の前に立ったのは──


「よろしくお願いします」


 ──渡辺真梨だった。


 準決勝の時、隣のテーブルで対戦していたのをチラリと確認したが、どうやら勝利したらしい。


「こ、こちらこそ」


 内心の驚きを隠しながら返答する。


 それに対し真顔で会釈する真梨。顔立ちが整っている人の無表情は怖い。


 また、接点のないクラスメイトとはいえあまりに他人行儀な態度である。隼人は苦笑いを浮かべた。


 やはり、知り合い──という表現は適切か定かではないが──に見られるのは嫌なのだろうか?


 じゃんけんの結果、隼人の先攻になった。


 真梨が水平回転をかけダイスを放つ。《スピンシュート》だ。クリスタルはライトブルーの円を描いてフィールドを走る。


 ここまで勝ち進んできただけあり、基本スキルはばっちり習得済みらしい。


 真梨は一体どんなクリスタルを使っているのだろう?


 偶然にも、これまで一度も真梨の試合をしっかりと見ることのできなかった隼人は、フィールドを駆け巡る青き光を注視する。


 回転が徐々に収まりその姿が露わになった。


 ──龍だ。


 頭と尾、(かぎ)(つめ)が、並々ならぬ硬度を持っていると想起させる鋼鉄。


 翼は退化し、面影を残すのみとなっているが、代わりとして十分以上に発達している四肢。


 全身赤茶色で、鉄部と極端なコントラスト。それにより放たれる凶悪な覇気。


「──っ!」


 隼人は思わず息を吞んだ。


 自分はこの龍を知っている。


 ──『(ガイア・)(ドラゴン)』。


 この前の夢で、怪鳥──『ガァルーダ』と激闘を繰り広げていた龍だ。


「なんで⋯⋯君がこれを?」


 そして、この龍は──幻の『属性(エレメント・)(ドラゴン)』シリーズの一体でもあるのだ。


「⋯⋯? 他の対戦相手の一人からも同じ質問を受けたわ。そんなに珍しいかしら?」


 真梨はきょとんと小首を傾げた。その動作に隼人は唖然とする。


 まさか、自分の使っているクリスタルの価値を知らないのだろうか?


 そうこうしているうちに、『(ガイア・)(ドラゴン)』はフィールド内ギリギリの位置に静止した。出た目10。フィールドボーナス×2。ファーストディフェンスボーナスも加わり得点は23。


 ──いきなりこの点数はまずい。


 隼人は即座に頭を切り替え、『ドラゴニル』をフィールド外に横倒しに設置する。


 《ピンショット》。力の限りのデコピンでドラゴニルを発射。『(ガイア・)(ドラゴン)』のクリスタルを狙い撃つ。


 二つのクリスタルは共に場外へ飛び出た。


 お互いの獲得ポイントは0。


 『(ガイア・)(ドラゴン)』のフィギュアは頭と尾、鉤爪が金属部品でできている。そのため『ドラゴニル』のクリスタルよりも若干重い。


 確実に場外にするため、『ドラゴニル』がフィールド内に残れるかを考えず全力でぶつけたのだ。


「⋯⋯やるわね」


 真梨はスイッチが入ったかのように、凛然とした微笑を浮かべて呟く。


「そっちこそ」


 質問を追求するタイミングを逃してしまった隼人は、疑問を頭の片隅に押し込めることにした。


 相手は決勝まで勝ち進んだ実力者。全力でぶつからなければ勝てない。


 隼人は額の冷や汗を手で拭い、落ち着くために深い呼吸をする。


「お返しだ!」


 『ガァルーダ』に水平回転──《スピンシュート》をかけフィールドへ。


 近くに『(ガイア・)(ドラゴン)』の気配を感じ取っているからか、『ガァルーダ』は平生よりも荒ぶるように闘技場を飛び回る。


 フィールド最外部に着陸し、16点を叩き出す。


「⋯⋯⋯⋯」


 真梨はそれを意に介さず、水平回転の『(ガイア・)(ドラゴン)』を発射。再び《スピンシュート》だ。


 『(ガイア・)(ドラゴン)』も宿敵『ガァルーダ』を視界に捉え、猛々しい咆哮を上げる。強靭な四本の足が大地を震わす。


 クリスタルは円軌道を通って停止。得た点数は20点。これにより隼人は計16点、真梨は計20点となった。


 3rdラウンドへ突入する。真梨が使うのは今回も『(ガイア・)(ドラゴン)』。


スピンのかかった『(ガイア・)(ドラゴン)』が弧を描いてフィールドを駆け巡る。大地を思うがまま踏み荒らしたのち、そのクリスタルが止まる。


 『Ⅹ』というローマ数字が表。場所は前回と変わらずフィールド最外部だ。


 得点は10×2で20点。


「どうするか⋯⋯」


 隼人のオフェンス。現在24点差。


 1stラウンドの時のように、『ドラゴニル』で《ピンショット》を用い、相討ち覚悟で迎撃すべきだろうか?


 だが、それでは差を4点に抑えられるが、埋められない、追いつけない──追い越せない。


 勝負は全部で五ラウンド。そして今3rdラウンドの後半に突入している。ちょうど折り返し地点だ。


 『グリフォン』の《スピンシュート》で二回連続22点を出せば、次のラウンドで相手が20点出したとしても、計算上追いつける。


 しかし、連続で22点出せる確率は、八面ダイス──クリスタルの目だけを考えても二十五パーセント。


 相手のアタックや自身のミスを加味するとさらに下がる。


 現状維持ではじりじりと不利になっていくだけだろう。ここは相手のクリスタル、『(ガイア・)(ドラゴン)』だけを場外にするしかない。


 隼人は『ドラゴニル』を《ピンショット》を用いて慎重に『(ガイア・)(ドラゴン)』へ衝突させた。


 しかし──


「しまった⋯⋯!」


 ──それは思わず呻き声が出てしまう程の痛恨のミス。


 『(ガイア・)(ドラゴン)』は動きはした。


 しかし、場外には出なかった。メタルパーツの重さを甘く見ていた──否、想像以上に重かったのだ。


 絶対的な『(ガイア・)(ドラゴン)』が、その鋭利な(かぎ)(つめ)を持つ豪腕で、突貫してきた(ドラ)(ゴニル)を頭から地面に押さえつけている様が脳裏に浮かぶ。


 『ドラゴニル』もフィールドボーナスが×2の場所で止まる。だが、得られた得点は10。


 26対40。点数差をなくすどころか開いてしまった。


「くっ⋯⋯」


 4thラウンド。苦し紛れに『ガァルーダ』に平行回転を掛けて投げる。


 たとえ相手がどんなに上手くても、どんなに強いクリスタルを使っていても、好きなゲーム──DBTで負けたくない。


 劣勢に立たされても勇ましく天空を舞う怪鳥。その美しき舞が女神の目に止まったのか、幸い得られた点数は22。


 続いて真梨も『(ガイア・)(ドラゴン)』を《スピンシュート》で放つ。


 またもや円を描きながら大地を蹂躙する『(ガイア・)(ドラゴン)』。


 20点を入手。10の目が出る確率は、《スピンシュート》使用時でも二分の一のはず。真梨も天を味方につけているらしい。


 48対60。僅かに点差は縮まったものの依然として大きい。

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