1─1─5
隼人も前ラウンドの亮太同様、フィールド外にクリスタルを置き、力の限りを込めて《ピンショット》を打つ。
自身のクリスタルさえもフィールドに残ることを考慮しない、ありったけのエネルギーを吸収した『ドラゴニル』。
その捨て身の突貫で、漆黒の甲虫を自身もろとも、西洋の闘技場を模したフィールド外に押し出した。
これによりこのラウンドでの得点はお互いに0。点差は変わらず6で、隼人の優勢である。
そして最終ラウンドとなる。
隼人は『ドラゴニル』のクリスタルを《スピンシュート》。一番外のゾーンで停止し、得点は12。点差は18。
「そうでもねーだろ。『ドラゴニル』を押し出せばこのラウンドでの隼人の点は0。7点取ればオレの勝ちだぜ」
「『ドラゴ二ル』をフィールド外に出せればね」
「『ドラゴニル』は一番外側のゾーンにあんだぜ? それくらいよゆーで──」
亮太の言葉が突然途切れる。直後、亮太が息を呑む音がした。
「⋯⋯⋯⋯『ドスカブト』じゃ厳しいってことか⋯⋯⋯⋯」
亮太が悔しさや思考途中であることを匂わせる声音で呟いた。
「そのとおり」
隼人は勝利を確信し笑みを浮かべる。
『ドスカブト』のクリスタルは『ガァルーダ』のクリスタル同様、大きな目が上面に偏っている代わりに軽量である。
より重い『ドラゴニル』を落とす場合、かなりの力が必要になる。
その際要求される力の大きさはシビアで、大きすぎると『ドラゴニル』もろとも落ちてしまうし、小さすぎると落とせない。
『ドスカブト』で『ドラゴニル』を倒すのは現実的ではないだろう。
「だったら、素直に18点以上取って⋯⋯」
亮太はすぐに代案を思い浮かべるが、すぐに首を横に振って自ら否定する。
『ドラゴニル』のクリスタルは現在×2のゾーンに在中している。
亮太が18点以上取るためには、×2のゾーン上で、『ドスカブト』の10の目を出すしかない。
《スピンシュート》で放てば10の目が出る確率は二分の一で、勝機は十分にある。
しかし、その軌道上に『ドラゴニル』のクリスタルがあるのだ。
ぶつかった瞬間の効果は消え去り、10の出る確率は四分の一に低下、敗色濃厚となってしまう。
「『バレットプス』なら『ドスカブト』より力加減がしやすいと思うけど、それでもなかなかの難易度だろうし、仮にできたとして、俺に勝てる目が出る確率は八分の三。四十パーセントいかないよ」
隼人が追い打ちをかけるように他の選択肢を潰す。
「だったら⋯⋯こいつに勝負を託すぜ!」
亮太は最後の希望を『ドスカブト』に託し、願いを《スピンシュート》に込める。
「勝つのは俺だ!」
『ドスカブト』の軌道上に『ドラゴニル』が立ちはだかる。
龍と甲虫の一騎打ち。鋭利な三本角と強靭な尾が交錯する。
激しい衝撃波が土煙を巻き起こす。
煙が収まったとき、両者共大地を踏みしめ立ってはいたが────。
「オレの、負けか⋯⋯」
『ドスカブト』の出した目は6。亮太の得た点数は12だった。
《スピンシュート》の恩恵が失われたのが大きかったのだろう。
「良い勝負だったな」
「くそー、今回は勝つつもりだったんになー!」
「痛い痛い!」
勝負が終わり隼人は亮太に手を差し出す。
亮太は悔しそうに笑いながら、その手を取り握手──と見せかけて、握り潰そうと力を加えた。
「こーなったら今回も優勝しろよ、隼人!」
「もちろん! ──だから痛い痛いって!」
亮太は隼人の片手を締め付けながらエールを送る。
隼人は手の痛みとともにそれを受け取る。
「⋯⋯さて、とりま終わったし、一回ここから離れるか」
「⋯⋯そうだな」
パッと隼人の手を解放した亮太は続行中の試合の邪魔にならないよう、対戦スペースから少し距離をとった。
隼人は手の痛みを気にしつつ、他者の対戦を横目に見ながら亮太の後を追う。
──真梨の試合はもう終わってしまったらしい。
少なくとも真梨の姿は対戦スペース内には見受けられない。
「まーた気にしてんのか?」
隼人の彷徨う視線から思考を読み取ったのか、亮太が呆れた表情をした。
「い、いや、別に⋯⋯」
「そんなに気になんなら話かけりゃいーじゃん」
「まあ、それはそうなんだけど⋯⋯⋯⋯」
普段話さないクラスメイト、しかも異性に声をかけるのは勇気がいる。どんな反応が返ってくるか恐ろしい。
「学校関連じゃホントコミュ力低いよな⋯⋯」
口ごもる隼人に亮太が溜息をついた。
「ま、まあ、それはさておき、亮太は渡辺さんが参加した動機はなんだと思う?」
亮太の指摘は的確で心が痛むため、隼人は話題をすり替える。
「さぁ? 純粋にDBTが好き──ってのだとそれで議論が終わっちまうかんな。⋯⋯人脈作り、とかか?」
幸い亮太に追従する気はないようで、素直に乗っかってきた。
「でもさ、それなら部活に入るんじゃない? わざわざここに来る必要ないよな⋯⋯」
「確かにな。それにここで生まれる人脈ってのもな⋯⋯正直役立ちそーにないし」
「ボードゲームの大会に参加するって、女子的にはどうなのかな? やっぱり知られたくはないのか⋯⋯?」
「まあ、知られて嬉しくはねーんじゃないの? そーゆーリスクを負ってでも参加したんだよな⋯⋯」
そこで何かを思いついたのか、亮太はニヤリと笑った。
「男漁りか?」
「ええ⁉」
「学校では真面目な優等生。しかし裏では見知らぬ男を食い漁っていた⋯⋯みてーな?」
「んなっ、そんな訳──」
「じょーだんだよ。それなら参加者に色々話しかけてんだろ。そんな感じじゃねーし。どーよーし過ぎ」
「⋯⋯⋯⋯」
悪戯が成功したかのようにニヤつく亮太を隼人は無言で睨んだ。
結局、いくら話し合っても正解が出てくるわけではない。
本人に聞く以外ないだろうと隼人は憂鬱な気分になるのだった。




