1─1─4
「やっぱり厳しかったか⋯⋯」
「対戦ありがとうございました」
二人はフィールドから各々のクリスタルを回収し、握手をする。
「あっちはまだやっているみたいですね」
「そうだね。もし僕の友人が勝ったら君の次の対戦相手になるね。僕の仇を討ってもらうよ」
「俺の友達もなかなかやるんでわかりませんよ?」
隼人とイケメンは、亮太と大学生の試合を横目に見ながらテーブルより離れる。
「君の『ガァルーダ』だっけ? 凄く強かったよ」
「ブースターから出たスーパーレアクリスタルなんです」
「どおりで⋯⋯。スターターのクリスタルじゃ厳しいわけだ」
「第一弾のブースターを買うことをお勧めします。使いやすいクリスタルが揃っているので」
「ありがとう。参考にしてみるよ」
対戦スペースの傍へと移動しそのまま談笑。
しばらくすると亮太が戻ってきた。
「次の対戦相手は誰だろうなー?」
隼人はわざとらしく亮太から視線を逸らして声を出す。
「オレだよ」
亮太は隼人の視界に回り込んでニヤリと笑った。
「あちゃあ、アイツも負けちゃったか⋯⋯」
そのやりとりを見ていたイケメンは苦笑い。
「僕も友人と合流するよ。色々ありがとう。機会があればまた対戦しよう」
「こちらこそ。その時はよろしくお願いします!」
軽く手を振りその場を去っていった。隼人も軽い会釈で返す。
「めっちゃ爽やかだったな。誰?」
「俺の初戦の相手。亮太が対戦した大学生と友達らしい」
「なるほどな⋯⋯⋯⋯」
亮太は意味ありげな視線を隼人に向ける。
「な、なんだよ」
隼人は思わずたじろぐ。
「いや、隼人ってDBTやってる時だけコミュ力上がるよな」
「だけってなんだよだけって」
「クラスでの自分の立ち振る舞い思い返してみろよ」
「うぐっ⋯⋯。五十パーセント否定できない」
「いや百パー否定できねーから」
「全ての一回戦が終了いたしました! 勝ち上がった選手は二回戦を開始してください!」
二人がたわいもない話をしていると、店員が大声でアナウンスを始めた。
手書きのトーナメント表も赤マーカーで勝者に線が引かれている。
「次はオレと隼人の試合だな。お前を倒して優勝に一歩近づくぜ!」
「俺だって負けな────あ」
「どした?」
「渡辺さんの試合見忘れた」
「そこかよっ!」
試合の余韻に浸っていたため忘れていたが、思い返すと疑問がふつふつと湧いてくる。
真梨はなぜこの大会に参加しているのだろうか?
それ以前に、なぜDBTをしているのだろうか? あの優等生が。
二人は対戦スペースに足を踏み入れ、テーブル越しに相対した。
「じゃんけんぽいっ!」
「──っ!」
亮太が隼人の不意を突いてチョキを出す。
隼人が咄嗟に出したのはパー。亮太の先攻だ。
「ずるいぞ」
「集中してねー方が悪りぃんだよ」
隼人の不平を亮太がバッサリと切る。
──確かに対戦相手を前にして、他のことを考えるのは失礼だ。真剣に対峙するのが筋だろう。
「ごめん。いくよ!」
隼人は『ガァルーダ』のクリスタルを手に持ち、平行回転で放つテクニック、《スピンシュート》でフィールド端を狙い澄ます。
『ガァルーダ』のクリスタルがライトブルーの軌跡を描いて見事に目標地点に着陸した。
出た目にフィールドボーナスの×2が加味されて、22点となる。
さらにファーストディフェンスボーナスが加わり25点に。
「そうこなくちゃな!」
亮太はワインレッドの眼鏡の奥の瞳を挑戦的に煌めかせ、ライトブルーの八面ダイス──クリスタルを振るう。
『ドスカブト』。上面10、10、6、6。下面5、5、4、3。
漆黒の巨大カブトムシで、その三本角はあらゆるものを貫くという。隼人と何度も相対してきた亮太の相棒だ。
「虫が怪鳥に勝てると思うなよ!」
「DBTにそんな相性ねーよ! 蛙のクリスタルが蛇のクリスタルを押し出すことだってあるんだぜ?」
《スピンシュート》により放たれた『ドスカブト』のクリスタルは、同じく円軌道を描いて『ガァルーダ』のクリスタルに衝突する。
漆黒の三本角が怪鳥の首元へ突き刺さる。強烈な呻き声と共にもがき苦しむ怪鳥。
怪鳥のクリスタルはフィールド内側へ回転しながら弾き飛ばされる。
フィールドボーナスが×2から+2に、出目が11から3へと減少してしまう。
甲虫も衝突により《スピンシュート》の効果は失われ、下面の目である5が出た。
怪鳥と反対方向に飛ばされた甲虫はギリギリ場外にならない。
その強靭な六本足を大地に突き刺し、×2のゾーンで踏みとどまる。
これにより隼人の1stラウンドの得点は8、良太は10となる。
「こんな風にな」
「くそ⋯⋯!」
亮太の自慢げな視線を隼人は好戦的な笑みで打ち返す。
2ndラウンドとなり、亮太が再び『ドスカブト』を《スピンシュート》で放つ。
それはフィールド──中世のコロシアムのような意匠が施されている──を力強く飛び回り、+3の位置へ降り立った。ローマ数字で彫られた『Ⅹ』が照明の光を受けてキラリと光る。
「『ガァルーダ』もやられっぱなしじゃないってこと見せてやる!」
「また角で返り討ちにしてやるよ!」
亮太は現在23点。対して隼人は8点。
『ガァルーダ』の上面11、11、8、5のうち、5以外が×2のゾーンで出れば逆転できる。
隼人はダーツの的のように区分けされているゾーン、外から二番目のエリアにいる『ドスカブト』に接触しないよう注意を払いながら、《スピンシュート》で『ガァルーダ』を飛翔させた。
『ガァルーダ』は天空を悠々と泳ぐように大きな円を作り飛ぶ。
ライトブルーの水晶は狙いどおりの場所で動きを止めた。──出目は11。
「よし!」
会心の出来に隼人は思わず拳を握る。
「『ドスカブト』とのぶつかりにビビったのか?」
「まさか? こっちの方がより良いと判断したんだよ!」
これにより優劣は逆転。隼人は30点、良太は23点だ。
3rdラウンドへと突入する。隼人は『ドラゴニル』のクリスタルに持ち替えた。
『ドラゴニル』のクリスタルの方が『ガァルーダ』のクリスタルよりも重量があり、目の差が激しくないため、堅実な一手が取れるのだ。
隼人は透明な薄青の八面ダイス──クリスタルを親指と薬指で固定し、手首のスナップだけで打ち出すテクニック、《スナップショット》で発射した。
これにより力がクリスタルの移動やスピードよりも回転に多く使われる。
相手を弾くのが目的ではなく、自身のクリスタルを狙った座標に放ちたいときに有効なテクニックだ。
場外に弾き出される可能性を考え、フィールド中心と最外殻の中間点、+2のゾーンへ『ドラゴニル』を降り立たせる。
隼人は9点確保する。
「む⋯⋯⋯⋯!」
亮太が難しい顔で額の汗を拭った。
隼人と亮太の点差は16。亮太が逆転するためには『ドスカブト』で10の目を×2のゾーンで出すしかない。
10が出る確率は《スピンシュート》を用いたとしても二分の一。
さらに×2のゾーンはフィールドの一番外側。少しのミスで場外になってしまう可能性がある。
そうなれば0点。勝負が決まってしまうだろう。
隼人はこの状況を生み出し、亮太にプレッシャーをかけるために、安定性のある『ドラゴニル』を選択したのだ。
「さすがにキチィか⋯⋯」
亮太はそう呟き、もう一つのクリスタル、『バレットプス』を取り出した。
目は上面2、1、7、2、下面2、4、4、2。
これで両者とも一試合二体のクリスタルまで使用可能というルールをフルに活用したことになる。
『バレットプス』は『ドラゴニル』同様、爆発力よりも安定感のあるタイプ。
目の数字は控えめだが、内部のフィギュアにメタルパーツが使われていて重量があり、弾かれにくい。
どうやらこのラウンドでの逆転は諦め、確実に点差を縮める作戦らしい。
亮太はプレイマットのフィールド外の場所に『バレットプス』のクリスタルを置き、『ドラゴニル』目掛けてデコピンで打ち出した。
──《ピンショット》である。
DBTでは、フィールドに入る時に、クリスタルが回転してさえいればその方法は問われない。
極論、三十メートル離れた場所から投げ入れてもルール上違反にはならないのだ。そうすることが実用的かはさておき。
ただし、最初からフィールド内に置いてそこから打ち出すのはNGだ。
迷彩色の草食恐竜が鋼の肉体を光らせながら、弾丸のように陸龍を襲う。
出目コントロールを無視し、威力と命中を重視した《ピンショット》。
その力は強大で、『ドラゴニル』のクリスタルをフィールド中央、ボーナスが×1の場所まで吹き飛ばした。
『バレットプス』はその反動を受け、幸運にも+3のゾーンへ。4の目が出たことにより、7点入手する。
一方で『ドラゴニル』は弾かれた影響で目が7から6になってしまう。
これにより3rdラウンド終了時点で点差は6となった。
「このラウンドで逆転だ!」
4thラウンド。攻守が入れ替わり、続けて亮太がクリスタルを投げる。
平行スピンが徐々に収まり、薄青の光だったクリスタルが正八面体としての姿を取り戻す。
コロシアムに現れたのは、三本角の巨大甲虫──『ドスカブト』だ。
出目とフィールドボーナスを計算し、算出された数は13。
「どーだ! まだ勝負はこっからだぜ!」
赤眼鏡の少年はそう言い放つが──
「──残念だけど亮太、一ラウンド遅いよ」




