1─1─3
爽やかに微笑まれ隼人は一瞬怯むが、負けじと笑顔を返す。
先攻後攻を決めるため、じゃんけんする。
隼人はパー。イケメンはグー。隼人の先攻だ。
「じゃあ行くよ!」
DBTでは、『オフェンス』と『ディフェンス』があり、じゃんけんの勝者が先攻──つまりオフェンスを最初にする。
クリスタルを投げる順番は、ディフェンスが先、オフェンスが後だ。
そのため、後攻であるイケメンがクリスタルを投げた。
イケメンが放ったクリスタルは『フレイムキャット』。
内部のフィギュアが正立した場合の上半分を『上面』、下半分を『下面』とすると、上面の目は4、4、7、5、下面は5、5、6、9だ。
クリスタルはフィールド内を転がり、中央で静止した。出た目は4、フィールドボーナスは×1。
「まあまあかな」
『ファーストディフェンスボーナス』で3点が加わり、7点となる。
「俺の番ですね」
隼人がバックから取り出したクリスタルは『ガァルーダ』。
上面11、11、8、5、 下面3、2、3、2。雄々しい翼と鋭い目を持つ怪鳥のクリスタル。
隼人は八面ダイスを下面の頂点を軸に、水平方向に回転をかけながら放った。
DBTにおけるテクニックの一つ、《スピンシュート》だ。
こうすることで原則上面の11、11、8、5のいずれかしか出ない。
一般的なダイスゲームでは当然イカサマ。不正だ。
だが、DBTでは認められている。むしろ基本スキルといってもいい。
それゆえ普通にダイスを転がしたイケメンは初心者なのだろう。
『ガァルーダ』は、まるで上空から獲物を狙うかのように旋回──弧を描いてフィールド内を移動する。
そして中心からやや離れたところで止まった。
出た目は11。フィールドボーナスは+2。
フィールドボーナスは円形フィールドの中心から離れるほど良いものとなる。その分場外に出る可能性が高くなるからだ。
隼人は13点獲得した。
「すごいな⋯⋯!」
「ありがとうございます」
イケメンが感嘆の声を漏らした。
基本スキルに感心されてむず痒いが、表には出さずに笑顔を浮かべる。お互いに自分のクリスタルを盤上から回収。以上のやりとりで一ラウンド終了する。
「2ndラウンド。俺がディフェンスですね!」
「うん。僕がオフェンスだ」
隼人は内心のむず痒さを誤魔化すためにやや大きな声を出す。
イケメンは気にすることなく同意した。
「では、行きます!」
隼人は持って来ているもう一つのクリスタル『ドラゴニル』を手に取った。
上面8、5、5、7 下面4、7、 6、6。西洋風ドラゴンに若干トカゲ要素が入っているデザインだ。
『ドラゴニル』のクリスタルは『ガァルーダ』よりも重い。
──正確には『ガァルーダ』のフィギュアが軽量プラスチック性のため、一般的なクリスタルより軽いのだが。
そのため『ドラゴニル』の方がディフェンス向きだ。弾かれにくいのである。
上面を軸にして平行回転をかけ、《スピンシュート》で放つ。
翼を持たない陸龍が、フィールドを軽やかに駆け巡る。
『ドラゴニル』は中央からやや離れた場所に停止。出た目は7。フィールドボーナス+2。計9点。
「さすがに序盤から引き離されるのはまずいな⋯⋯」
イケメンはフィールド内の『ドラゴニル』を凝視した。
『ドラゴニル』めがけて『フレイムキャット』を放つ。
『フレイムキャット』のクリスタルが『ドラゴニル』のクリスタルと衝突する。
それはさながら炎を身体に纏った『フレイムキャット』が、『ドラゴニル』へ捨て身の突貫を行ったかのよう。
『ドラゴニル』のクリスタルはその力に押され、内側へと弾かれた。
出た目は変わらず7のまま。
しかし、中心へと移動してしまったことにより、フィールドボーナスが+2から×1へと変化する。
隼人の得点は9から7へと減少した。
一方『フレイムキャット』。
先程『ドラゴニル』がいた位置に静止する。出た目は6。フィールドボーナス+2。イケメンは8点を入手。
「さあ、3rdラウンドだ」
お互いにクリスタルを回収した後、アタックが上手くいったからかイケメンが得意そうにラウンド宣言をする。
ここまでで隼人は13+7で20点。イケメンは7+8で15点だ。
攻守交代し、隼人がオフェンス、イケメンがディフェンスとなる。
イケメンは新たなクリスタルを使用した。『マリンドッグ』。
「お兄さん、もしかしてDBTを始めたばかりですか?」
「よくわかったね」
隼人は疑問を口にした。それに対しイケメンは、クリスタルを投げる動作を中断して肯定する。
「『フレイムキャット』も『マリンドッグ』もスターターセットのクリスタルですから」
「ああ、なるほどね。⋯⋯実は友達についこの間勧められてね。ルールを覚えて間もない内にこうして大会に連れられたのさ」
イケメンは苦笑いしながらもう一つのテーブルの、手前で試合をしている男性に視線を向けた。
「高校生っぽい人と試合している大学生いるだろ? 彼がその友人」
隼人も視線を辿る。そこでは確かに大学生らしい人物と高校生──亮太が戦っていた。
「ははは」
何とも言えない偶然に、隼人は思わず笑ってしまう。
「どうしたんだい?」
「いえ、すいません。あなたの友達の対戦相手は俺の友達なんです」
「そうなのか⋯⋯! 面白い偶然だね!」
亮太と大学生の試合を遠目に見る。
ここからでは詳しい状況は分からない。だが、亮太の真剣な表情を見るに、随分白熱しているようだ。
「あっちは盛り上がっているみたいだね。僕らも楽しもう!」
「はい!」
イケメンがクリスタルを構え、フィールドへと放つ。
何のテクニックも使われずに放たれたクリスタルは、無秩序に移動する。
まるで『マリンドッグ』が水かきのついたしなやかで強靭な足をフルに使って走り回るように。
出た目は6。場外になるギリギリの場所で静止する。フィールドボーナスは×2だ。よって12点。
「よし!」
イケメンは高得点が出て嬉しそうにガッツポーズをする。
「そうはさせませんよ!」
隼人は『マリンドッグ』の位置を確認。
フィールドの内側からぶつかるように『ガァルーダ』のクリスタルを放つ。
『ガァルーダ』は上空から翼を畳んで急降下。獲物である『マリンドッグ』へと先鋭な嘴を突き立てようとする。その姿は電光石火の槍のよう。
見事命中。『マリンドッグ』はフィールド外へ弾き出される。
「うっ⋯⋯」
イケメンが呻き声をあげる。場外に出たため0点となってしまったのだ。
対する『ガァルーダ』。ぶつかった反動で内側へと移動する。出た目は8。フィールドボーナス+1。隼人は9点獲得した。
これで29対15だ。
「厳しいな⋯⋯。でも勝負はこれからだ!」
4thラウンド。イケメンが険しい顔で再び『マリンドッグ』を放つ。
主人の劣勢を感じ取ったのか──といっても実際にクリスタル内のフィギュアに命はないのだが──、『マリンドッグ』は自身の持つ最大の目、8を叩き出した。フィールドのやや中央から離れた場所に止まり、ボーナス3点を得る。
イケメンの顔が僅かに綻ぶが、これは真剣勝負。隼人は容赦をするつもりはない。
『ドラゴニル』を手に取り、『マリンドッグ』へと狙いを定める。
場外に出すには微妙な位置にある。
下手に外へ出そうとして、×2のゾーンで踏みとどまれたら面倒だ。
隼人はフィールドの中央に押し込むつもりで『ドラゴニル』のクリスタルを射出する。
『ドラゴニル』が風を引き裂き『マリンドッグ』へ肉薄し、尻尾の一撃を加えた。
『マリンドッグ』は必死にその場に食い止まろうとするも、フィールドの中央方向へと押しやられてしまった。
フィールドボーナスが+3から+1へと減少する。
さらにクリスタルが転がってしまい、出た目が8から4に変わってしまう。
「容赦ないな⋯⋯」
「勝負ですから」
『ドラゴニル』は+3の位置で制止する。出た目は6。
これにより隼人は計38点、イケメンは20点だ。
5thラウンド、つまり最終ラウンドへと突入する。
隼人が最後に選んだのは『ガァルーダ』。《スピンシュート》を使ってフィールドへと投げる。
その出目コントロールテクニックにより、上面の11を出した。フィールドボーナスにより12点となる。
「勝つには⋯⋯弾き出して18点か⋯⋯厳しいな」
イケメンは小声で呟きながら、フィールドと睨めっこしている。
そして、何かに気づいたようにハッとして、隼人を見た。
「もしかして、このために中央付近に?」
「そのとおりです」
隼人はニコリと首を縦に振る。
『ガァルーダ』はフィールドボーナスが+1のゾーン、つまりフィールドの中央部からそう離れていない位置に止まっている。
点差が離れていることを加味して、隼人はフィールド端の大きなボーナスによる高得点よりも、フィールド中央の安全性を取ったのだ。
「それでも、やるしかないか⋯⋯」
イケメンは『フレイムキャット』を取り出し、祈るように手の中で転がしてから『ガァルーダ』の元へと送り出した。
『フレイムキャット』のクリスタルはフィールド内側から『ガァルーダ』のクリスタルへ衝突する。
劣勢にある『フレイムキャット』の最後の一撃。『ガァルーダ』は大きくバランスを崩し、端へと吹き飛ばされるも、場外に出ることはなかった。
『フレイムキャット』の最大の目は9。よってこの時点で隼人の勝利が決定する。




