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週末、隼人と亮太は大宮駅・豆の木前へと集合していた。
大きくユニークなデザインの豆の木。集合場所にはうってつけだ。二人以外にもここで落ち合う人は多く、賑わっている。
隼人は白のYシャツに九分丈の黒スキニー、亮太は灰色のパーカーにジーンズを着ている。
二人の肩にはそれぞれ灰色と茶色の小さなボディバッグ。
「おす隼人。今日はどんなクリスタル使うんだ?」
「おはよう。秘密だよ。対戦するかもしれないのに教えるわけないだろ?」
「じゃーさ、オレも今日使うクリスタルの片方を見せっから、いっせーのせで隼人も見せてくれよ」
「前回そう言って見せなかっただろ! 同じ手は食わないぞ」
「ちっ、バレてたか」
「おい」
二人はたわいもない話をしながら大宮駅内を歩く。
目まぐるしい人の流れを躱しながら西口を出ると、春の暖かな陽射しが二人を照らした。
「天気良ーな」
「ああ。楽しくなりそうだ」
駅から続くロータリーを二人は小気味好いテンポで降りる。
歩くこと約十分、二人は行きつけのゲームショップ『ホビーキングダム』略してホビコンに到着した。
店舗である二階建ての建物には、黒で縁取りされた黄色の文字で店舗名が書かれた、大きな緑の看板が取り付けられている。
お世辞にもかっこいいデザインとは言えないが、逆にそれが目立ち、集客力を高めているのではないかと思う。
二人が店の前に立つとウイーンと自動ドアが開き、店内へ招く。冷房が効いていて外よりやや涼しい。
「とりまエントリーすっか」
「そうだな」
二人は入り口のすぐ側にあるレジへ直行し受け付けをする。
大会に参加する旨を伝え、番号の入ったカードを受け取った。
「隼人、何番だった?」
「俺は10。亮太は?」
「9。ってことはもう八人はエントリーしてるってことか」
「前回と一緒のシステムならね」
店内の時計の針は十時四十三分あたりを指している。大会開始は十一時。暫し時間の猶予がある。
二人は時間潰しのために店内を見て回ることにした。大会を開催する影響か、そこそこ賑わっている。
二人はやや窮屈な階段を登り、二階、ボードゲームコーナーへ向かった。その一角にDBTの商品が置かれているのだ。
二人は他のボードゲームの品物をざっと見渡しながらDBTのスペースへと移動する。
そこでは壁と平行に立つ網状の金属板から伸びた、ステンレス製の棒に、商品が引っ掛けられている。
「おっ、最新弾売ってんじゃん! 隼人も見てみろよ!」
亮太は小学生が片手で掴めるくらいの大きさの紙箱を手にした。
DBTのブースターだ。中にクリスタルがランダムに一個封入されている。
クリスタルの大きさはゴルフボールくらい。箱にぴったりと収まっている。
「『レオ』が目玉だよな! あと、『ファルコン』も手に入れたい⋯⋯!」
「どっちもスーパーレアだかんなー⋯⋯」
隼人が亮太の持つブースターを凝視しながら呻く。亮太もブースターを見つめるが、軽く溜息をついて棚に戻した。
続いて二人は同じく二階にある、カードゲームの対戦スペースへと足を運んだ。
八畳程度の空間に横長のテーブルが四つ置かれている。
また、普段はテーブル近くに背もたれのない椅子が置いてあるのだが、今はスペースの端にまとめて積み重ねられている。
これはDBTを立ってするプレイヤーが多いことに対する配慮だろう。肘がテーブルより下にあるとクリスタルが投げづらいのだ。
DBTの大会はこの対戦スペースで、テーブルの上にDBTのフィールドを敷いて行われる。
二人は会場の下調べ──と言っても何回もここを利用したことがあるのだが──に来たというわけだ。
「今回の参加者も大体十五人前後か? 前回と同じくらいだな」
隼人は自身の番号・10を見ながら、自分たちがエントリーした時刻を思い出し、それからどの位参加者が増えたかを概算する。
「ぽいな。もーすぐ時間だし、これ以上エントリーは増えねーだろ」
亮太も同意した。隼人は辺りを見回す。
開始約五分前。二階の周辺にいる人はほぼ大会参加者と見て間違いないだろう。そわそわして落ち着きがない者が多い。
それに当てられ隼人も表面上落ち着いてはいるが、気持ちが高まるのを感じた。
今日はとんな相手と対戦できるのだろう? 緊張する。ワクワクする。──負けたくない。
一番多いのは男の大学生と思われる面々だ。全体の五割を占めている。見るからにオタクという人が多い。だが中にはウェイ勢らしき人もいる。
それに続いて多いのは隼人たちを含む男子高校生。全体の三割といったところだ。
残る二割は中学生やおじさんその他。
これも前回とそう変わりないなと、周りを見るのをやめにしようとした瞬間。隼人の視線はある人物に釘付けになった。
しっとりと白い肌に艶やかな黒髪、そして意思の強そうな瞳。
その姿はこの場にそぐわない程美しかった。
──隼人と亮太のクラスメイト、渡辺真梨である。
「なあ、亮太、あれ」
「どーした? ──ってあれは⋯⋯渡辺? なんでここに」
「分からない」
二人は呆然と真梨を見つめた。
渡辺真梨といえば才色兼備のスーパー真面目優等生である。
ゲームショップで見かけるのは不自然極まりなかった。
おまけに彼女は片手に受付で配られたカードを持っている。どうやら大会にも参加予定らしい。
「⋯⋯⋯⋯!」
二人の視線に気づいたのか、真梨がこちらを見てきた。
亮太を視界にとらえ、隼人に視線を移す。
そして興味なさげにふいと明後日の方向を向いた。
「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」
その間沈黙を貫いた男二人。
「まー、アレだな。今は大会に集中だな」
先に我に帰ったのは亮太だった。
「ああ、そうだな」
隼人は固まった頭でなんとかそう答えた。
『十一時となりました。DBTの大会に参加する方は、二階のカードゲーム対戦スペースへとお越しください』
スピーカーから店内放送が流れる。
隼人はそれを聞き大会が始まるのだと我に帰った。
ピポパポーンとアナウンスが止んだ直後、若い男の店員が現れた。
「大会に参加していただきありがとうございます。本日の参加は十六名でした。皆さまには受付順に番号の入ったカードをお配りしたかと思います。こちらのトーナメント表に記載された番号と対応しておりますので、よろしくお願いいたします」
店員は黒マジックで手書きのトーナメント表が書かれた模造紙を掲げた。そしてそのまま壁にテープで貼り付ける。
「10は⋯⋯っと」
隼人は目を皿にして番号を探す。
トーナメント表、左から三番目のところに見つけた。どうやら最初から試合をすることになるらしい。
対戦相手の番号は6。少なくとも亮太でないのは確かだ。
隼人は真梨の番号が気になったが、彼女は遠くから表を一瞥すると対戦スペースから離れてしまった。それを見て少なくとも第一試合ではないのだろうとアタリをつける。
対戦スペースの広さの関係上、一度に行われるのは四試合だ。テーブルは全部で四つ置かれているので一つのテーブルで一試合行われる。
クリスタルが弾かれたり、ミスによって他の対戦フィールドに入り、邪魔になるのを防ぐためだ。
ホビーキングダムが大会を開催するようになった最初の頃は一テーブルで二試合同時にしていたようだが、実際にそういうことが起きたため今のようになったらしい。
参加人数が増加すれば一テーブルで数試合一度に行なうだろうが、二十人未満くらいでは一テーブル一試合だろう。
隼人の試合は最初の四試合のうちの一つ。横長テーブルの前に向かう。
テーブルの縦の長さはおよそ六十センチメートル、横の長さはその約三倍。
上には五十センチメートル四方のプレイマットが敷かれている。マットに描かれているのは円形のフィールド。正方形マットの内接円だ。
円の内部は線でいくつにも分けられており、各場所に『フィールドボーナス』──そのゾーンに乗ると得られる効果──が書かれている。
この中へクリスタルを転がすのだ。
「君が対戦相手だね。よろしく!」
「はい! よろしくお願いします!」
少し待つと対戦相手がやってきた。茶髪のイケメンだ。見たところ大学生。




