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1─4─4

 隼人の頭に疑問がよぎった。『レオ』はバランスタイプで元々安定性が高く、偏重のため不安定な『フェニックス』とは異なり、そもそも《スラントプレス》を使う必要はないのではないか?


 使用すれば精度がさらに高まることは確実なので1stラウンドでの発動はまだ理解できる。


 だが、1stラウンドで《アンチプレス》により打破された今もなお、固執して使う必要はあるのだろうか?


 ──コントロールを高めるのとは別の目的がある?


 隼人は疑わしげな目を友也に向ける。それを感じた友也はニッと得意げに笑った。


 やはり何かあるようだ。


 フィールドに視線を落とす。そこでは変わらず躍動している『レオ』と『ガァルーダ』。


──二体がぶつかった。


 それにより『ガァルーダ』にかけられていた《スピンシュート》の効力が失われる。


 そして二体はそれぞれ停止。フィールドボーナスを加算して得られた点数は『レオ』が8、『ガァルーダ』は5。──『ガァルーダ』の点数が低いのはまたしても下面の目が出てしまったからだ。


「⋯⋯そういうことか」


 意図に気づいた隼人は唸る。


 友也は隼人に《アンチプレス》を使わせるためにわざと《スラントプレス》を用いたのだ。


 このラウンドは隼人のオフェンス、つまり隼人が後からクリスタルを投げられる。


 ──もし仮に『レオ』が完全に静止するまで待てていたら?


 『レオ』に衝突しないよう軌道を考えながら『ガァルーダ』を放てていただろう。そうすれば《スピンシュート》の力はなくならず、上面の数字の大きい目を出せたはずだ。


 しかし現実はそうではない。隼人は《スラントプレス》を防ぐことだけを優先してしまい軌道を深く考えずに投げた結果、『ガァルーダ』を移動中の『レオ』と衝突させてしまった。


 そのせいでこちらは低得点、相手はバランスタイプのため出目に大きな差はなく、堅実に得点している。


「気づいたみたいだなぁ」


「はい⋯⋯悔しいです」


 隼人は無理に作った好戦的な笑みで返した後、こっそりと下唇を噛む。


──まんまと嵌められた!


テクニックを自分のクリスタルのコントロールにだけでなく、相手の手を間接的に潰すことにも利用してくるとは流石琴葉の所属するサークルの長といったところか。悔しい反面、勉強にもなる。


 友也の策により現在の点数は隼人が11、友也は21だ。大きく差が開き厳しい状況だ。


「どっちも高校生がピンチかー!」


「まだまだやれるぞ!」


 見学しているサークル員の声援が聞こえてきた。


 隣を見ると亮太が盤面とにらめっこしていた。彼も苦戦しているようだ。だが口元は笑っている。諦めていない。


 ──自分も負けていられない。


 隼人は大きく深呼吸。一度頭を冷やして冷静にならなければならない。二度と策に嵌らないように。


 4thラウンド。点差は10点。『ガァルーダ』で一発逆転できる。だが隼人のディフェンス、先に放つ番だ。高得点を出したとしても弾かれて出目を変更されてしまうだろう。


 ──ならば、勝負はラストの5thラウンド。このラウンドはなんとしてでもかじりついてみせる。


「⋯⋯これだ!」


 隼人は『ドラゴニル』を《スナップショット》で×2のゾーンへと転がす。出目は7で得点は14だ。


「うーん、またもや難しい状況だなぁ」


 友也は眉間に指を当てる。悩ましい状況だろう。


 『レオ』で『ドラゴニル』のみを場外にするのがベストだが、共にバランスタイプ同士。重さは拮抗している。一緒に出てしまうリスクも高い。


 ブレイクタイプの『トレンティア』を使うという手もあるだろうが、前回の『ガァルーダ』よりも重さがあるため難度は上がる。


「⋯⋯こうするかぁ」


 友也は『レオ』のクリスタルを使った。特にテクニックを用いずに普通に転がす。


 気高い純白の獅子がコロシアムを悠然と闊歩した。


 狙った場所は『ドラゴニル』と反対側の×2ゾーン。問題なくそこで停止した。


 8の目が出て16点獲得する。これで点差は12点。


 友也は純粋に『レオ』の性能が『ドラゴニル』に優っているため、単純な出目の大きさ勝負に出たのだ。これなら落ちる・落ちないの心配はない。そしてスペック差がそのまま点数差となったのだ。


 勝負のラストラウンド。今回も友也は『レオ』を投げる。白き獅子が雄叫びを上げてコロシアムの空気を震わす。


 クリスタルは+2のゾーンで静止──最外部だと弾き出されると踏んで内側にしたのだろう──した。


 出目は──8。


 隼人は『ガァルーダ』に《スピンシュート》を使って放つ。獅子を見下ろし天空を駆ける怪鳥。獅子を威嚇するように鋭く滑空し、×2ゾーンへと着陸した。


 出目は────11。


「⋯⋯これはぁ⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯引き、分け?」


 二人で呆然とフィールドを見つめる。隼人は脳内で再計算を始めた。


 5thラウンド開始時点での点差は12。友也は10点を獲得したので22点。一方の隼人も×2ゾーンで11の目を出したため22点だ。


「──引き分けですね」


 隼人は改めて友也に告げる。勝負のラストラウンドだったが友也の点数を追い抜くことはできなかった。


 だが、


「いい試合だったなぁ、松川君!」


「はい!」


 切迫した熱い試合だった。友也の握手に笑顔で応じる。


「やるな高校生!」


「燃えたぜ!」


「ありがとうございます!」


 見学していた二人に称賛されお礼を言う隼人。


「あーくそー!」


「オレの勝ちっすね!」


 隣から三木と呼ばれた大学生の悔しがる声と亮太の得意げな声が聞こえてきた。


「亮太、勝ったのか。おめでとう!」


「さんきゅー。そっちは?」


「引き分け」


「珍しーなそれ!」


 隼人の報告に亮太は目を白黒させる。DBTで同点は滅多にないことだからだ。


「三木情けねーぞ!」


「いやいや普通に強かったって!」


「友也も引き分けだったし高校生レベル高いな!」


「楽しかったぞぉ!」


 友也たちも集まってわいわい試合後の感想を言い合っているようだった。その姿は子供時代に戻ったかのようでとても楽しそうである。


「⋯⋯じゃあおれは運営に戻るぅ。篠崎君も機会があったら対戦しよぅ!」


「その時はよろしくっす!」


 そう言い残して友也は戻っていった。教室内を見渡すとちょこちょこと参加者が増えてきている。


「もーアタシが対応したんですからねー」


「すまん、ありがとぅ!」


 バイ子が友也不在の間頑張っていたらしい。それを受けて見学していたサークルメンバーたちも動き出していく。


「オレらも他の参加者と対戦すっか」


「そうだな」


 隼人たちもまた動き出すのだった。

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