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「あ、隼人くんたちだ! おっはよー!」
「二人とも、よく来たなぁ! 歓迎するぞぉ!」
二人に気付いた琴葉と友也が笑顔を向けてくる。隼人と亮太もそれぞれ挨拶を返した。
「二人ともおはよう。朝からごめんなさい⋯⋯」
遅れて真梨がこちらにやって来て申し訳なさそうに謝る。その顔はどこか疲れているように思えた。
「気にしなくていいよ。突然呼び出されたんでしょ?」
「そうだよー! 真梨ちゃんが気にすることないよ!」
「お姉ちゃんは気にして!」
隼人のフォローに陽気な声で琴葉が乗っかる。真梨は琴葉に鋭い視線を向けた。
「でもなんで朝突然渡辺ん家に押しかけたんすか?」
「いやー昔みたいに『まりちゃんいっしょにあーそーぼ!』って言いたくなったんだよねー!」
「⋯⋯それだけっすか?」
「そうだよ!」
亮太の疑問に琴葉はニコニコ笑う。亮太は真梨を憐れむように見た。
「まだ準備もままならないうちに急かされて⋯⋯大変だったわ」
「⋯⋯お疲れ様」
真梨が遠い目をして溜息を吐く。隼人も同情した。
「さぁ挨拶も済んだことだし萩追ぃ、仕事するぞぉ」
「私は奥に行ってるわ」
真梨は隼人と亮太にそう告げて背を向ける。気合いを入れて姿勢を正した友也の胸元がキラリと光った。
「⋯⋯ピンバッチ、ですか?」
「そのとおりだぁ。GameLovoのメンバーは全員付けているからなぁ、分からないことがあったらピンバッチを付けている人に声かけてくれぇ!」
小さな金属製のピンバッチ。黒をベースにしたお洒落なデザインが描かれている。
「サークルのオリジナルっすか⋯⋯?」
「そうだぁ」
「凄いですね⋯⋯!」
亮太の質問に友也は得意げだ。オリジナルデザインなのにカッコいい。無理もないだろう。
「はーい! じゃあ二人とも説明するね! 今日のイベントではゲーム──主にDBTを通じて交友を深めてもらいます! DBT経験者は教室奥で自由に対戦、初心者は手前でわたしがレクチャーします! 二人はどっちかな?」
ピンバッチに関する話が途切れたタイミングで琴葉は隼人と亮太──二人も立派な参加者だ──に説明を始め、茶目っ気のある質問とウィンクで締めくくる。
どうやら隼人と亮太は奥に移動する必要があるらしい。
そちらを見やると先程の大学生が同じく大学生らしき男性から説明を受けていた。
「あの人はサークルの?」
「そう! 五限まで授業があって来れなかった先輩! あと今真梨ちゃんと話してるのはバイトで来れなかった子だよー! あの子はわたしと同じ一年だよ、わたしと同じ!」
「分かってますって」
昨日のやり取りを思い出したのか、自分も一年生であることを強調する琴葉に隼人は苦笑する。
「これからどんくらい来るんすか?」
亮太が琴葉に質問した。
現在教室に居るのは隼人たち高校生三人と琴葉に友也、そして大学生が五、六人だ。
そのうちの数名はサークルのメンバーだとすると、参加者は二、三人と推測できる。
このまま増えないのであれば個人的には拍子抜けといった印象だ。
「さあー? でも二十人くらいは来る予定だよー。ツブヤイッターで連絡あったから!」
「けっこー来るっすね」
「凄いでしょ!」
「そーっすね。DBT初心者も興味を持って来てくれるみたいっすし」
得意げに胸を張る琴葉。その際大きな胸部が強調されて眩しい。亮太が同意する。
DBTメインのイベントで、初心者を歓迎する体制を作ったとはいえ、初心者も来てくれるというのは凄いと思う。
気軽に参加できる雰囲気の作成や、宣伝など、かなりの努力をしたのではないか。
「⋯⋯あれ? 初心者の指導って萩追さんがするんですか?」
「そうだよ?」
「どういった人選でですか?」
「わたしが可愛いからー!」
隼人の疑問に琴葉は笑顔で返答する。
隼人はまたてきとうな発言かと溜息を吐こうとして思い留まる。
上品な茶髪に瑞々しい肌、そして豊満な胸。実際琴葉は美人だ。外部の人が来るイベントでは、見目麗しい方がインストラクターに適しているのかもしれない。
しかし、だとすると──
「──俺との対戦は⋯⋯?」
「うーん、いつ来るか分からないし⋯⋯今は厳しい?」
唇に手を当て首を傾げる琴葉に隼人は肩を落とした。
初心者指導をするのであれば暇はないだろうし、第一琴葉なのだ。初めて対戦した店──マイアイランドでの約束もそこまで真面目に捉えていないのだろう。
「ごめんって! 時間ができれば対戦するから! 絶対!」
「絶対ですよ⋯⋯」
隼人の様子を見かねた琴葉が両手を合わせる。隼人は念押しして教室奥へと向かった。
奥に行くと先程まで大学生に説明をしていた女性──琴葉曰く『バイトで来れなかった子』が真梨との会話を終えて対戦していた。
ちなみに先程の大学生も遅くまで授業があって来られなかった琴葉の先輩と対戦中だ。
「やってんな」
「見に行こう」
亮太も興味を持ったらしい。二人で対戦テーブルへ近づく。
『バイトで来れなかった子』──バイ子がクリスタルを放った。基本テクニック、《スピンシュート》がかけられている。
クリスタルは薄青の円を描いて静止。
『タピラエイ』だ。バランスタイプで上面7、5、4、7、下面5、6、4、7。身体がキャタピラーでできているエイで戦車のように大砲を装備していてその威力は強大だ。
『Ⅶ』の面が表になっている。最外部一歩手前、フィールドボーナスが加算され10点だ。
真梨はフィールド外にクリスタルを置いた。《ピンショット》を使うつもりらしい。『地龍』かと思いクリスタルを眺めると、そうではなく『ベルバール』だった。
「使ってくれたのか⋯⋯」
買った以上使うのは当然かもしれないが、自分が選ぶのを手伝った経緯があり、軽い感動を覚える。
《ピンショット》の力を十二分に受けて『ベルバール』は飛翔した。リンリンと頭に被った金色のベルを鳴らしながら鵯は天を舞い、『タピラエイ』へ肉薄する。
リーン! と一際大きな音が鳴った後、『タピラエイ』が場外に出ているのが確認できた。
『ベルバール』はぶつかった衝撃からか頭をくらくらさせている。それでもしっかりと場内に留まっていた。
5の目が出て、フィールドボーナスと合わさり8点が真梨に与えられる。
「あちゃあ負けちゃったかー」
「ありがとうございました」
今のが最終ラウンドだったらしく、バイ子は頭に手を当て天を仰いだ。真梨は微笑を浮かべる。
「おめでとう。どうだった、使い心地は?」
「大分慣れたわ。お陰で戦術の幅も広がったし」
隼人は盤上の『ベルバール』を視界の中心に入れる。真梨はそれを手に取りながら微笑んだ。
「おー、キミたちが昨日手伝ってくれたっていう高校生? ありがとね」
「あ、はい、そうです。こちらこそイベントに参加させて頂いてありがとうございます」
「どーもっす」
バイ子はにこやかに隼人と亮太にお礼を言う。隼人はテンパりながらかしこまった返答を、亮太はあっさり一言会釈をした。
「なになに、昨日の高校生が来てくれたって?」
「マジで? お礼させてくれよー」
バイ子の声を聞きつけたのか、二人の青年が歩いて来た。彼らの胸元にもピンバッチ。サークル員だ。
「手伝ってくれてありがとう」と爽やかに握手を求めてくる。隼人は「どうも」とぎこちない笑みを浮かべながら青年の手を握った。
隣で亮太はもう一人に手を握られ、ブンブン振られている。
「真梨ちゃんもありがとねー」
「渡辺ちゃん助かったぜ」
「マジ助かったわ!」
「お役に立てて良かったです」
三人は真梨にも礼を言った。フランクな話しかけ方からするに面識があるらしい。
そんなことを考えていると教室のドアが開いた。また参加者が来場したようだ。友也がそれに応対しに行く。
「いやー良い試合だったー!」
「おーどうだった?」
「もち勝利よ」
「やるー! ⋯⋯そこのアナタ、次はアタシとやりませんか?」
先程まで対戦していたサークルメンバーが肩を回しながらこちらへ来た。入れ替わるようにバイ子が抜けて行く。
「きみらが昨日助けてくれたのか。さんきゅな」
「なんかお礼したいよな」
「それな!」
「いえ、そんな⋯⋯」
「気にしなくてだいじょーぶっす」
残った男子大学生三人が考え始めるので隼人と亮太は遠慮する。だが大学生は聞く耳持たず、
「やっぱ飯だろ、夕食奢ろうぜ」
「それもアリだけど二人はDBTやってるみたいだからな⋯⋯やっぱ対戦だろ」
「それお前がしたいだけじゃね?」
「んなことねえし」
と勝手に会話を進めてしまう。「あのー」と隼人が横槍を入れる前に「友也ー!」と大声で呼び寄せる。
「どうしたぁ?」
「お礼といえばやっぱ対戦、ってことで代表してサークル長、二人の相手してくれ!」
「悪いが運営がなぁ⋯⋯」
友也は渋い顔をする。責任ある立場として身勝手な行動はできないのだろう。だがサークル員三人はめげない。
「まだ全然来てねえから大丈夫だし! ヤバくなったら俺が行くし!」
「それそれ! 二連戦な!」
「⋯⋯⋯⋯わかったぁ。だが二連戦は離れる時間が長過ぎるぅ。三木ぃ、お前も対戦しろぉ! 高校生、大学生それぞれでじゃんけんをして勝ったもの同士、負けたもの同士が対戦だぁ! 二人もそれでいいかぁ?」
友也はしばらく眉間に指をあてて沈黙していたが、三人の意見を承諾した。そして高校生二人を真っ直ぐに見つめる。
隼人と亮太は顔を見合わせる。突然の展開だが、相手は琴葉の所属するサークルの一員。どんなクリスタルやテクニックを使うのか興味がある。
「それで大丈夫です!」
「よろしくっす」
二人は快諾した。隼人はさっそくじゃんけんしようとするが、
「じゃんけんぽいっ!」
「──っ‼」
隼人がそう告げるより先に亮太が早口でチョキを出す。隼人は咄嗟にパーを出してしまい敗北。
「亮太、また⋯⋯」
「なんのことだ?」
ホビキンでの大会と同じ手を使われて、顔をしかめる隼人だが、亮太はニヤリと笑って取り合わない。
──今回は勝とうが負けようがただのグループ分けなので問題ないのだが。
そう思って隼人は渋々不満の矛を収めた。
「勝ったほうは俺とだ。どっちだ?」
「オレっす。よろしくっす」
友也に三木と呼ばれた大学生が手を挙げた。亮太は彼の方に向かって行く。
「と、なるとぉ、おれの相手は松川君かぁ」




