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ゴールデンウィーク初日、土曜日の朝、隼人は亮太と二人でバスの中で揺られていた。空は快晴で見ているだけで爽やかな気持ちになってくる。
「まさか初っ端からこーなるとはな」
片手で手摺りに捕まる亮太が呟く。
「萩追さんだからしょうがないな」
隼人は苦笑いで返した。
今朝、南与野駅へと向かう電車の中で隼人に真梨から一本の連絡が来た。
その内容は琴葉に家まで来られたため先に行くというもの。
そのため当初の予定とは異なり隼人と亮太の二人で彩大に向かっているのだった。
バスは混んではいないが座席は優先席を除きすべて埋まっている、そんな状態だった。
「そーいやさ、結局分かったん?」
「何が?」
亮太が不意に口を開いた。隼人は顔だけ亮太に向ける。
「渡辺がDBTやってるりゆーだよ。ずっと気になってたんだろ?」
「ああ⋯⋯」
ホビキンで開催された大会で真梨を見つけた隼人はその理由が気になったこともあり、共に買い物へ行った。
その時に始めたきっかけを聞けたのだが⋯⋯。
「萩追さんに勧められたから、だと思う⋯⋯」
「だと思うって⋯⋯、聞いたんじゃねーの?」
視線を下げて自信なさげな隼人に亮太は呆れたように問いかける。
「うん。渡辺さんはそう言っていたけど⋯⋯違和感があるんだ。萩追さんに勧められたからってやるかな?」
例えば友達に自分が全く興味のないゲームや漫画を勧められたとして、それを素直に買い、手に取るだろうか? 少なくとも隼人は遠慮するだろう。
ましてあの真面目な真梨なのだ。不自然である。
「幼馴染の先輩なんだろ? 断わんないんじゃねーか?」
「いや、昨日お菓子を勧められていた時はあっさり断ってた」
亮太の意見に隼人はすぐに首を横に振る。
あの時真梨は『琴葉の勧める遊びやお菓子はロクでもないものが多い』とも言っていた。なのになぜDBTはあのお菓子のようにすげなく断らなかったのだろう?
それを見た亮太はややげんなりとして、
「お前⋯⋯よく見てんな」
「いや、たまたま聞こえただけだ」
隼人は否定する。
「まーなんでもいいだろ」
「亮太から聞いてきたんだろ⋯⋯」
亮太は面倒くさくなったらしく、てきとうに話を切った。隼人は文句を言うがそれ以上は話さない。
「今日はどれくらい来んだろーな」
「さあ、どうだろう⋯⋯」
亮太がバス内を見回すのを受けて、隼人も同じ動作をする。お年寄りや子ども連れの女性も乗ってはいるが、大学生らしき若者が一番多いように思われた。
その全員が今回のイベントに参加するわけではないだろうが、もしかしたら幾人かは参加者かもしれない。
「なんかドキドキするな」
「オレらも一応準備したかんなー。半当事者って感じだな」
バスが彩大前で停車した。大学生たちが次々に下車していく。隼人と亮太はそれに続いてバスを降りた。
「昨日ぶりだな。隼人は目を瞑ってでも教室にたどり着けるんじゃねーか?」
「お陰でさまでな」
タオルを縛るポーズをして笑みを浮かべる亮太に隼人は皮肉を言う。
先に降りた大学生が彩大の敷地内に入ったため、二人は必然的にその後を追う形となった。
そのうちのいくらかはスマホの画面と敷地を交互に見比べながら歩いている。
「参加者かもな。ちょっと付いて行ってみないか?」
「いーぜ」
隼人は彼らを観察した。
まだ参加者だと確定はしていないが、少しとはいえ運営側として動いたのだ。もし参加者だとすると感慨深いものがある。
それは亮太も同じだったらしく、隼人の提案に素直に乗ってきた。
二人は歩くスピードを落として一定の距離を保ちつつ歩く。
「あ⋯⋯」
「看板だな」
前の大学生が立ち止まったことでその存在に気づく。昨日友也が作ると言っていた案内板だ。
迷いやすいポイントに設置して、参加者がスムーズに目的地にたどり着けるようにする。
案内板を見た大学生は、スマホをポケットにしまって歩き始めた。その足取りは先程と比べて軽やかになっている。
隼人と亮太は早足で案内板に近づいた。そこには簡潔かつ分かりやすい説明と大きな赤矢印が記載されていた。
確かにこれを一目見れば、スマホで学内の地図を開く必要もなくなるだろう。
その後も二人は大学生──この案内板を見て止まったということは間違いなく参加者だろう──の後に続いた。
昨日隼人が不安になり地図を開いた場所その二、その三にも同じく案内板が配置されていて、大学生はスムーズに教室にたどり着いていた。
「すげーな。数枚の看板で初めて彩大に来る参加者をしっかり誘導できてる」
「誘導、か⋯⋯⋯⋯」
亮太の感嘆混じりの呟きに、隼人は思考した。
案内板は正確に大学生を誘導していた。──昨日隼人が動線確認として通ったルートの上をぴったりと。
こんなにも効果があるのかと隼人は驚く。
「さーオレらも入ろうぜ」
「そうだな」
亮太が教室のドアをスライドした。二人は入室する。




