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規則正しく並べた長机の上にプレイマットを敷いていた真梨が作業を中断し出迎えてくれた。隼人はこの台詞でいいのかと思いながらもそれを口にする。
それに続いて亮太と友也がこちらにやって来た。
「楽しかったか隼人?」
「⋯⋯このやろ」
亮太は相変わらずニヤニヤ笑い。
「お疲れぇ松川君。萩追、どうだった?」
友也は隼人を労い琴葉に結果を尋ねる。
「はじめてのお使いを見ているようで楽しかったです!」
「そうじゃねぇ! 導線はぁ?」
「うーん、最初の交差地点と二個目の交差地点で一回止まって確認してましたー! あと理学部一号館に入る前も! その二ヶ所に誘導看板かスタッフを置いて、あと一号館の入口にもポスターを貼って分かりやすくした方が良いと思います!」
「そうか、分かったぁ」
琴葉の真面目な分析を聞いて隼人は内心驚く。ふざけているように見えてしっかり仕事していたらしい。
「お姉ちゃん、やるときはやるわよ。⋯⋯本当に稀だけど」
顔に出ていたらしく、真梨が苦笑いで話しかけてきた。
「そうなのか⋯⋯。⋯⋯ちなみに渡辺さんが萩追さんの本気を最後に見たのはいつ?」
「大学の受験勉強の時だから⋯⋯今年の二月ね。それ以降はずっとてきとうなことばかり言ってるわ」
「ははは⋯⋯」
隼人は真梨の手厳しい意見に苦笑いする。
「真梨ちゃん聞こえてるよー! わたしもっとたくさん本気出してるからねー!」
隼人と真梨の会話を聞いていたのか、報告を終えた琴葉が非難してきた。
「はいはい。それよりお姉ちゃん手伝って? もうすぐプレイマットは敷き終わるから、あとはお菓子類ね。当日開けるんでしょ?」
真梨は長机の一つに置かれている袋を指差す。その中にはスナックやクッキーなどのお菓子が大量に詰まっていた。
「そうだよー! とりあえず放置かなー! だよね部長ー?」
現在ホワイトボードのある側を前とすると、前半分にホワイトボードと垂直に二つ一組で長机が並べられている。
逆に後ろ半分には、それらと少し間隔を空けたところでホワイトボードと平行に長机が置かれている。
前者には等間隔でDBTのプレイマットが敷かれているため対戦スペースと判断できるが、後者にはお菓子の詰まった袋が置かれているのみで判断がつかない。おそらく休憩スペースだとは思うのだが。
「お前が買ったんだろぉ! 袋パンパンだから潰れそうなやつは分けとけぇ!」
「はーい! ⋯⋯真梨ちゃんこの『スナイプスナック──からしマヨ味──』おすすめだよ? 食べてみる?」
友也の指示を受けた琴葉は教室後方に移動し、袋の中を漁って真梨にスナックを勧める。
「遠慮するわ。昔からお姉ちゃんの勧める遊びやお菓子はロクでもないのが多いもの」
「萩追ぃ! 分けろぉ! 今日食うなぁ!」
真梨はきっぱり断り、友也は鋭くツッコむ。
「やってますー! でも本当に美味しいよ? 先週見た瞬間わかったもん!」
「見た瞬間って⋯⋯。萩追先輩、食わなかったんすか?」
「うん!」
「お姉ちゃん⋯⋯」
琴葉の反論に思わず口を出す亮太。満面の笑みで首肯されて絶句する。
真梨は琴葉を呆れたように溜息を吐いた。
隼人も琴葉の主張の根拠のなさに驚く。
「⋯⋯先週って、あの時ですか?」
真梨とクリスタル選びにさいたま新都心のマユーンへ行った時、琴葉と遭遇した。
その時琴葉はパンパンに膨らんだトートバッグを携帯していた記憶がある。
「そうそうあの時!」
「ああ⋯⋯お姉ちゃん夢と希望が云々って言ってたじゃない⋯⋯」
「えーそうだっけ? でも間違いじゃないでしょ?」
隼人と琴葉の会話で真梨も思い出したのか、当時の琴葉のてきとうな説明を引っ張り出す。琴葉は知らん顔で流した。
それを見ていた亮太がニヤニヤしだす。
「永井さん、あとやる事ってありますか?」
隼人はデートだなんだとからかわれそうな予感を感じて話を切り替えた。
「そうだなぁ⋯⋯。会場準備が終わって動線も確認し終えて⋯⋯案内板は後でおれがやるとして⋯⋯菓子類も大丈夫⋯⋯特にないな」
友也は暫しの思考の後、仕事がないことを告げる。
「そうですか。そしたら俺たちは帰っちゃっても?」
「えー? 帰っちゃうのー?」
「黙れ萩追ぃ! あぁ、助かったぁ。本当にありがとぅ!」
友也は隼人の言葉に反応する琴葉を押し込めて高校生三人──隼人、亮太、真梨にお礼を言った。
「まーオレも楽しかったんで全然いいっす!」
「亮太⋯⋯」
爽やかに笑う亮太を隼人は軽く睨む。亮太の楽しみのためにこちらは目隠しをするはめになったのだ。
「終わる目処が立って何よりです。明日参加者として伺うのでよろしくお願いします」
「おぅ! ぜひ楽しんでくれぇ!」
真梨は微笑を、友也は人良さそうな笑みを浮かべる。
「俺も明日お邪魔します!」
「待ってるよー!」
隼人の言葉に琴葉が応えた。隼人は明日イベントで琴葉に挑み、勝利するつもりだ。気合いを入れ直す。
「そしたらオレも参加したいっす。大丈夫すか?」
「もちろん! 待ってるぜぇ!」
隼人と真梨の参加を聞き、亮太も行くことにしたようだ。これで今日のお手伝い三人は全員参加となる。
「では、お先に失礼します。お姉ちゃん、しっかりね」
「だいじょーぶだよー!」
「お疲れ様です」
「また明日っす」
それぞれ挨拶を済ませ、三人で外に出ると、日は落ちてもうすっかり暗くなっていた。
「⋯⋯二人とも、今日はお姉ちゃんに付き合ってくれてありがとう。でも、新テクニックは⋯⋯」
真梨はそう言って目を伏せる。
「いやいや、あのまま教室で考えていてもできなかったと思うし、渡辺さんが気にすることじゃないよ」
「そーだぜ? 大体隼人の要求がキツすぎなんだよ。ふつーに無理だって」
「うぐっ⋯⋯」
亮太の言葉はもっともなので言い返せない。
「まあでも《アンチプレス》は使えるようになったわけだし、やれるだけやってみるよ」
そう言って隼人は笑った。
確かに完璧な対策ができたとはいえないが、進歩がゼロではない。前回と全く同じ展開にはならないだろう。否、するつもりはない。
「⋯⋯そう。頑張って」
真梨が静かな笑顔を見せる。隼人は言葉を続ける。
「ああ、そうだ。明日三人で一緒に行かない?」
「そうね⋯⋯主催者側的にはばらばらに来られるよりは楽でしょうし⋯⋯そうしましょ」
「オレも別にいーぜ」
隼人の提案に二人とも同意した。自分より年上が多い環境にまた行くのだ。人数は少しでも多い方が心強い。
「ありがとう。十時からイベント開始だったよな?」
「そうね。サークルのHPにはそう書いてあったわ」
「じゃー九時半ごろ南与野駅にしゅーごーか? バスの時間を考えるとちょーどいい感じに着くだろ」
「ちょっと待って。⋯⋯そうね、バスが九時三十七分に出るから妥当だと思うわ」
「別にぴったり十時に着かなくてもいーだろ⋯⋯」
「ははは⋯⋯」
真梨がスマホで時刻表を検索し二人に見せる。亮太はうんざり気味に言葉を零し、そんな様子を見た隼人は苦笑い。
こうして三人は帰路に着いたのだった。




