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1─3─5

 机を並び終え、友也含めた男三人で一息ついていると、琴葉と真梨がやって来た。


「部長ー! 終わりましたー! 休憩したーいー!」


「他にお手伝いできることはありますか?」


 対照的な台詞を言う二人。友也は琴葉を軽く睨む。


「サンキュー。⋯⋯次は導線確認をしたいなぁ」


「導線確認、っすか?」


 友也の呟きに亮太が反応した。隼人も気になり友也の方に振り向く。


「あぁ。明日のイベントは外部からも人が来るからなぁ。迷わずここに来れるようにしなきゃならないんだぁ」


「『この教室です!』ってのは表にポスター貼ったから分かるんだけどねー! 途中途中迷いそうなポイントに案内版を設置するんだ!」


「なるほど⋯⋯」


 友也と琴葉の説明受け、隼人は納得する。


 琴葉の案内があったからすんなりと来れたものの、それがなく、メールで場所だけ教えられていた場合はどうだっただろうか?


 真梨がどのくらい彩大を把握しているかは謎だが、熟知はしていないだろう。おそらく何度か学内案内図を確認しなければたどり着けない。


 初めて来る人はなおさらそうだろう。


「実際にシュミレーションできればいいんだがなぁ⋯⋯」


「だったら高校生にやって貰えばいいんですよ! 二人とも彩大は初めて?」


 友也が眉間に指を当て考えるのを受けて、琴葉が妙案だとばかりに勢いよく手を上げ隼人と亮太を見る。


「は、はい。少なくとも俺はここに来るのは初めてですけど⋯⋯」


 その勢いに押され隼人はどもりながら答える。『少なくとも』とは言ったがおそらく亮太も初めてだろう。


 それを聞き満足そうに頷いた琴葉。隼人は直後に正直に言ってしまったことを後悔する。


「じゃあちゃんと答えてくれた隼人くん! もう一回入口からここまで来てよ! 部長が同伴して迷うポイント確認するから!」


 琴葉はしれっと面倒くさいことを言ってのけた。机の移動で体力を消耗していた隼人と友也は即座に反発する。


「待て萩追ぃ。言い出しっぺのお前が同伴しろぉ!」


「入口に戻るまでで道覚えてしまうので初めて来る人のシュミレーションはできないと思います!」


 隼人の言葉に亮太はニヤリと笑った。


「だいじょーぶだ隼人。これ使え」


 亮太は隼人にタオルを差し出す。


「え⋯⋯?」


「目隠しだ」


 困惑する隼人に亮太はニカリといい笑顔で親指を上げる。


「嫌だ! ていうか亮太も初めてだろ!」


「オレはそんなこと言ってないぜ」


 隼人は必死に反論するが亮太は取り合わない。そうこうしていると、隣から不満げな声が聞こえてきた。


「うー。部長命令なんてずるいー!」


 どうやら友也に言いくるめられ、琴葉がチェック係になったらしい。


 元々の言い出しっぺは琴葉だ。やる気の低い今進言すればシュミレーションしなくて済むのでは?


 そう考え琴葉に話しかけるより前に、亮太が口を開いた。


「まーまー萩追先輩。隼人が目隠ししてまで協力してくれるみたいっすから」


「あっ、おい!」


 亮太の口を塞ごうとするが既に遅く、『目隠し』という単語を聞いて琴葉は面白さを感じたのか、


「うーんそこまで言われたらしょうがないねー! 頑張っちゃう!」


 先程までとは態度を一変させニコニコと笑った。隣で亮太が同じくらいニヤニヤと笑う。


「わ、渡辺さん⋯⋯」


 隼人は最後の希望を持ってこれまで静観していた真梨に話しかけるが、


「⋯⋯まあ、目隠しは少し危ないけれど、お姉ちゃんも流石に安全には気を使うだろうし、導線確認は大切だから⋯⋯頑張って」


 微笑とも苦笑いともとれる笑顔と共にエールを送られ、隼人はがっくりと肩を落とした。


「つけるぞ」


 その仕草で隼人が観念したと判断した亮太はすぐさまタオルを巻きつける。隼人は三白眼で亮太を睨みながらも甘んじて受け入れた。


「行って来まーす!」


 琴葉の上機嫌な声とともに左腕が掴まれる感触がした。


「隼人、行ってこい」


「松川君、よろしく頼むぅ」


 視界を塞がれても亮太がニヤニヤ笑いを浮かべているのが容易に想像できる。精一杯の渋面を作ろうとしたが、友也の真っ直ぐな声が聞こえたので会釈で済ませた。


 ガラリとドアが開く音がする。


「お姉ちゃんしっかりね。松川君、気をつけて」


 教室からの出際、真梨の声が聞こえた。隼人はしっかりと地面を踏みしめ歩き始めた。


「隼人くん、こっちねー!」


「はい」


 腕の引かれた方向へ慎重に歩を進める。直後に再びガラリという音。教室の外に出たらしい。


 隼人は琴葉の先導で、行きの記憶を引っ張り出しながら廊下を歩く。


「なーんか変なプレイしてるみたいだねー!」


 琴葉は上機嫌で鼻歌交じりにそんなことを言ってきた。


 目隠しされた男子高校生を美人女子大生が引っ張っている。側から見ればそう捉えられてもおかしくはない。イケナイことをしているような気がしてくる。


「てきとう言わないでください」


 隼人は己の中に生まれた邪な感情を打ち消すように、すげない返事をした。だが琴葉はそんな隼人はお構いなし。


「そうだねー! 真梨ちゃんには秘密だぞー!」


 隼人の左腕を掴んでいた手を下にスライドし、手を握ってきた。恋人繋ぎである。


「ちょっ⋯⋯⋯⋯⁉」


 照れや驚きの感情や、「からかわないで欲しい」や「真梨とそういった関係ではない」などの言葉が同時に頭を支配し、言語化できずにどもってしまう。


 その反応に琴葉は満足したのか、手の力を緩めまた元の位置に戻した。


「⋯⋯⋯⋯俺と渡辺さんをくっつけるネタ使いすぎじゃありません?」


 からかわれた羞恥を誤魔化すために隼人は質問する。


「そうかもねー! ⋯⋯嬉しかったから」


 答える琴葉の声音は、いつもの陽気で軽いものではなく、しみじみとした感情がこもっていた。


 ──それってどういうことですか?


 普段とは違う様子に隼人は琴葉に顔を向けて目で──塞がれてはいるが──問いかける。


「なんでもなーい! 階段下りるよ、気をつけて!」


 しかし返ってきたのはいつもどおりの元気な声。詳しく話してくれる気はないらしい。


 琴葉の誘導に従い慎重に階段を一段一段踏んでいく。無事一階に降りた隼人は追求を諦め別の話題を振る。


「そういえばなんで俺たちの手が必要なほど準備が遅れたんですか?」


 候補として『真梨は以前ここに来たことがあるのか』があったが、真梨の名前を使ってからかわれた直後だったため除外した。


 真梨の名前を出して「ホントに彼氏になりたいのー?」などど言われたらたまらない。


 まあ、真梨の態度からするに十中八九来たことがあるだろうし、亮太もそう推論している。わざわざ聞く必要もないだろう。


「あーそれはねー⋯⋯」


 この質問はOKらしく、琴葉はすんなり口を開いた。


「まずわたしたちのサークルはね、決まった活動場所がなくて、その日その日の空いている教室の使用申請をして使っているの!」


「はい」


「それで今回のイベントをするにあたって事前に申し込みをしてて、その教室での導線や配置なんかを準備してたんだけど⋯⋯急に昨日変更になっちゃって」


「へっ? なんでですか?」


「さあ? 授業とか他サークルとの兼ね合いとか? だから今使っている教室って当初予定してたのじゃないんだよねー!」


「ああ、だから⋯⋯」


 教室が異なれば、そこにある備品も異なり違った配置を考えなければならないし、場所が違うため事前に考えていた誘導経路やそれを示すポスターなども全て作り直しになってしまうだろう。


「二人だけのサークルじゃ大変ですもんね⋯⋯」


「へっ? わたしと部長以外にもメンバーはちゃんといるよ?」


 準備をしていたのが二人だけだったため隼人はそう判断したのだが、どうやら違うらしい。


「そうなんですか? その人たちは⋯⋯?」


「授業が五限まであったり、バイトが入ってたりで来れないんだよねー。元々今日は仕上げだけで二人でも余裕だったから」


「なるほど⋯⋯。サークルってフランクな感じなんですね」


 隼人の在学する高校の部活動は正当な理由がなければ原則休んではいけないと聞く。隼人は帰宅部なので詳しくは知らないが。それと比べるとずいぶん自由に感じられた。


 隼人の黒髪が風でなびく。建物の外に出たらしい。


「そうそう! わたしも大学入ったばっかの時はびっくりしたよー! って言っても入ったのこないだなんだけど」


「こないだ? 一年生なんですか?」


「違うよー! 二年生。大学のシステムを利用して三つ飛び級したの。だから同い年だよー!」


「ええっ⁉ 嘘ですよね?」


「うん嘘。ピッカピカの一年生!」


「⋯⋯⋯⋯」


 琴葉の冗談にげっそりする隼人。友也と親しく話していたところを見るに、入学したての一年生とも思えないのだが⋯⋯。


「もういいよー!」


 その後しばらく歩いたのち、そんな声とともに目隠しタオルが剥がされた。その際香ったいい匂いのどぎまぎするも、すぐさま胡乱な目で琴葉を見る。あなた本当に一年生ですか? という疑念を乗せて。


 琴葉は目をぱちくりさせるも、隼人の意味することを理解したようで、


「ホントにホントに一年生だよー!」


 財布から学生証を取り出し渡してきた。確かにそこには琴葉が一年生であることが示してある。


「本当なんですね」


「そうだよ隼人くんひどーい!」


 納得する隼人によよよと泣き真似をする琴葉。


「紛らわしい嘘つくからですよ」


「だよねー。さ、スタート地点だよ。始めよー!」


 琴葉はけろりと元に戻り元気よく宣言した。なんだかんだ導線確認はしっかりとするつもりらしい。


 隼人は辺りを見回す。視界に入るのはバス停にコンビニ。先ほどの地点に戻されたのだと改めて感じる。


「これツブヤイッターやサークルのHP(ホームページ)に書かれてる教室の情報ね。LIMEで送るね!」


 ピロリンという電子音とともにデータが送られてくる。『理学部一号館二階・1423教室』。イベント参加者はこの文章をもとに会場へと向かうのだ。


「えっと⋯⋯」


 まず『理学部一号館』がどこだか分からない。仕方がないので彩大のホームページにアクセス、学内案内図を開く。


「じーっ⋯⋯」


 案内図によると、理学部一号館は正門から繋がる大きな道を直進し、二つ目の交差地点で左に曲がった先にあるらしい。


 隼人はスマホと正面を交互に見ながら歩く。一つ目の交差地点で立ち止まり、周囲を確認。


「じじーっ⋯⋯」


 再び歩き出し、二つ目の交差地点へ。左に曲がるも大きな建物が左右に立ち並び圧迫感がある。またその分視界が狭く感じる。スマホとにらめっこしながら慎重に歩く。


「じじじーっ⋯⋯」


「⋯⋯萩追さん、声に出さなくても。やりづらいです」


 ずっとニコニコと眺めてくる琴葉に耐えかねて、つい隼人は苦言を呈する。


「いやーはじめてのお使い見てるようで面白いね!」


「⋯⋯ちゃんとポイントチェックしてるんですか?」


「だいじょーぶだいじょーぶ!」


 道を直進して左手に見える二つ目の建物、おそらくこれが理学部一号館だろう。


 確認のため琴葉に視線を向けるが相変わらず微笑んでいるだけで判別し難い。⋯⋯判断基準があってはシュミレーションにならないためその方が良いのだが。


 今一度案内図を確認してから建物内に入る。階段を上り下りした記憶があるので迷わず二階へ。


 その後は各教室前にナンバーの書かれたプレートが付けられていたため、すんなりと到着できた。ドアを開ける。


「お帰りなさい。お疲れ様」


「えっと、ただいま?」

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