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琴葉であった。
「⋯⋯お姉ちゃん?」
真梨は様々な疑問を一言に乗せるが琴葉は取り合わない。
『あ、そうだ、人数は多い方がいいから彼氏くんも誘って! 後はなんかてきとうに捕まえられたら捕まえといて!』
「だから松川君は彼氏じゃないわ。お姉ちゃんてきとう言わな──」
『彩大に着いたら連絡してね! じゃあ!』
「ちょっと! ⋯⋯切れたわ」
真梨は耳からスマホを離し深い溜息を吐く。隼人はその一部始終を呆気に取られながら傍観していた。
⋯⋯高校生にサークルのことで助けを求める大学生って⋯⋯いいのだろうか?
「⋯⋯今のが萩追先輩か? なんか、凄げーな⋯⋯」
「ええ⋯⋯」
「⋯⋯どうするんだ?」
『お姉ちゃん』というワードで琴葉だと推測したのだろう、引き気味の亮太に真梨は同調する。隼人は問いかけた。
「申し訳ないけれど、私は行くわ。⋯⋯放って置けないし」
「なら、俺も行くよ」
「いいの? テクニックは?」
「現状行き詰まってるし、イベントが開催されないとそもそも戦う機会も無くなっちゃうしね」
真梨の言葉を聞いて、隼人は同行を申し出る。
真梨が琴葉の手伝いに行くと、亮太と二人になってしまう。元々男二人で打開策が見つからなかったため真梨の手を借りたのだ。その真梨がいなくなってしまっては、新テクニックを編み出せる確率も低下してしまうだろう。
「亮太はどうする?」
「オレ? そーだな⋯⋯DBTのサークルや萩追先輩見てみてーしな。一緒に行くぜ」
それを聞いた隼人が真梨に「亮太もいいよな?」と目くばせする。真梨は頷き亮太に「ありがとう」と言った後、片付けを始めた。
隼人と亮太もそれに続きクリスタルやプレイマットを鞄にしまう。
「では行きましょ」
こうして三人は琴葉の在学する彩玉大学に足を運ぶのだった。
***
南与野駅で降りてバスを利用し十数分。三人は彩大内へと足を踏み入れた。
時刻はもう夕方。冬に比べて日は大分長くなっているが、西の空に夕焼けが浮かんでいる。
真梨は琴葉に連絡する。数回のコールの後繋がった。
「もしもしお姉ちゃん? 着いたわ」
『ありがとー! どれくらいいる?』
「私と松川君、それとその友人の篠崎君の三人よ」
『おー! 真梨ちゃんやるー! 両手に花だね!』
「それは違うでしょ⋯⋯。バス停前にいるから迎えに来て」
『おっけー! ちょっと待っててね!』
真梨は通話を終え、スマホをしまい、隼人たちに向き直った。
「お姉ちゃんが来るから待っててって」
「分かった」
「りょーかい」
隼人と亮太は素直に頷く。
「それにしても⋯⋯大学ってこんななんだな」
隼人は辺りを見回しながら驚きの声を漏らす。視界に入るだけでもバス停やコンビニなど、少なくとも隼人たちが在学する高校の敷地内には存在しない設備がある。
「ああ。あのコンビニオレも使えっかな?」
「どうなんだろう⋯⋯? 部外者だしな⋯⋯」
亮太の疑問に隼人は顎に手を当てる。そんな二人に真梨は、
「使えるわよ。行く?」
と言ってコンビニへと視線を向ける。
「いや、いーや」
「⋯⋯俺も遠慮しとく」
その堂々とした態度に本気で行くのでは? とビビる亮太。隼人も亮太の意見に追従する。
「おーい!」
そうこうしていると、遠くから手を振り走ってくる影が見えた。
「お姉ちゃん!」
それに気づいた真梨は手を振り返す。隼人と亮太は会釈した。
「ありがとう真梨ちゃん! 隼人くんも! それから⋯⋯篠崎くん、だよね? も!」
「はじめまして。篠崎亮太っす」
「うん! 亮太くんね! 今日はよろしく!」
合流して挨拶をする。走ってきた琴葉の瑞々しい肌は熱で上気していた。それが爽やかな私服に映え、健康的な美しさを放っている。
「美人だな、萩追先輩」
「意外だった?」
「いーや、渡辺の姉ーさん的存在なんだろ? 順当ーちゃ順当だな。明るいのは意外だけど」
隼人と亮太は小声でボソボソと喋る。
「何してるの? 行きましょ」
「付いてきてねー!」
そうして二人は琴葉の後に続いたのだった。
「助っ人呼んじゃいましたー!」
着いたのは数ある大きな建物の一つ、その二階の教室。
琴葉が元気の良い声とともにガラリとスライド式のドアを開けて入る。その後ろに真梨はスタスタと、隼人と亮太は恐る恐る続く。
「サンキュ──って高校生じゃないかぁ⁉」
男性の悲鳴が響いた。そちら──教室の奥を見やると、切れ目で黒縁の眼鏡を掛けている、やや小太りの男性が作業の手止めて固まっていた。
「まあいいじゃないですかー! ダメって決まりないし!」
「確かにそうだが何か問題が起こった場合にはだなぁ⋯⋯胃がキリキリするぜぇ」
「イベント間に合わない方が問題ですよー! 責任はわたしが負います。多分!」
「お前が負う気ないのはわかってるんだよぉ!」
朗らかに喋る琴葉と、皺の入った眉間に指を当てて悩む男性。状況に置いていかれた隼人は躊躇いがちに琴葉へ声を掛ける。
「あの⋯⋯⋯⋯」
「ほら部長! 高校生困ってますよ! いいんですか?」
「元の原因はお前に引っ張ってこられたからだろうがぁ⋯⋯! はぁ⋯⋯仕方ないかぁ」
琴葉の発言に溜息を吐いた男性──部長は、こちらへ向かってきて頭を下げた。
「おれは『GameLovo』サークル長の永井友也だぁ。今日は手伝いに来てくれてありがとぅ。よろしく頼むぅ」
友也の真摯な挨拶に、隼人と亮太も頭を下げて自己紹介する。真梨も軽い会釈をしていた。
「⋯⋯?」
その仕草に違和感を感じる隼人だが、友也の声にすぐに意識を戻される。
「松川君に篠崎君かぁ。男手が増えるのはありがたい。助かるぅ」
「でしょー! わたしのおかげだねー!」
「お姉ちゃん」
友也の感謝に乗っかり琴葉が胸を張る。それを冷たく睨んで嗜める真梨。
「えーっと、オレらは何すればいーすか?」
頭をガシガシ掻きながら、亮太が質問する。
それを聞き、隼人は教室内を見回す。
サークルがイベントをする際、どんな準備が必要なのだろうか? 隼人にそんな経験は当然なく分からない。
教室には高校の会議室のように長い机とプラスチック製の椅子が置かれている。
ただ、それらは乱雑しており、片付けもしくは移動中であることを窺わせた。
また、一部の机の上には中身がびっしり詰まっているであろう袋やダンボール箱が鎮座している。
「そうだなぁ⋯⋯とりあえず男は会場準備。渡辺ちゃんにはポスターの設置と備品配置を⋯⋯⋯⋯萩追、教えてやってくれぇ」
「はーい!」
「分かりました」
友也の指示に琴葉は元気よく、真梨は静かながら凛とした声で応える。
「松川君、篠崎君。こっちにぃ」
「はい!」
「りょーかいっす」
隼人と亮太は友也に手招きされ、ホワイトボードの近くへと移動した。
友也が黒ペンでスラスラと簡易的な図を描いていく。
「こっちをホワイトボードのある側と考えて、こんな感じで長椅子を二組ずつくっつけて並べてほしぃ」
隼人と亮太は頷き作業を開始する。二人で長椅子の端と端を持って動かす。幸い長椅子は半折りたたみ式で足の先がロック可能な車になっていて、持ち上げる必要はなかった。
友也が教室の奥へと長机を押しやり進路確保してくれるため、そこまで苦労はしない。
「なあ亮太」
「なんだ?」
「渡辺さん、前来たことあるのかな?」
隼人は机を転がしながら、彩大に来てからふと浮かんだ疑問を口にする。
隼人と亮太が友也に自己紹介した時、真梨は会釈のみだったことが引っかかっていたのだ。
「さー? でもっぽいよな。コンビニも慣れてる感じだったし永井部長も渡辺のこと知ってたし。つーか隼人もっと右な」
「わ、悪い」
亮太は特段興味なさそうに机から視線を外さずにいた。隼人は指摘に謝りながらもぼんやりと考えていた。




