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1─3─3

「──え?」


 思考の海に溺れる隼人を真梨の凛とした声が呼び戻した。


「作るって⋯⋯そっちの方が見つけるより難易度高けーんじゃねーの?」


 真梨の意見に亮太が難色を示す。


「そんなことないわ。あなたたちが数日間探し続けて見つからなかったものを発見するより、自分たちで生み出すほうが可能性が高いと思うの」


「⋯⋯渡辺さん。あてがある?」


 なおも否定的な視線を真梨に向ける亮太を抑えて、隼人は期待半分、確認半分で質問した。


「⋯⋯一応は。この間の大会決勝戦、最後のラウンドで松川君が私の『(ガイア・)(ドラゴン)』を押し出した時を思い出して」


「あの時⋯⋯?」


 隼人は顎に手を当て考える。あの時は逆転するために『(ガイア・)(ドラゴン)』だけを外に出そうと躍起になっていた。


 思い返すと今求めていること──自分のクリスタルより重い相手のクリスタルのみを一方的に場外にすること──と似通っている、否、同じといっていい。


 確か『ドラゴニル』で『(ガイア・)(ドラゴン)』の移動時を狙って──


「──! 動いている所を狙えば!」


 摩擦係数が小さい状態であれば『フェニックス』でも一方的に場外に出せるかもしれない。


 ──しかし、


「⋯⋯渡辺さん、あの時も言ったけど移動中の『(ガイア・)(ドラゴン)』を狙えたのは軌道が読めていたからなんだ」


 隼人は残念そうに首を振る。


「もちろん、重さの偏りで不規則に動く『フェニックス』には不適だとは思うわ」


 真梨は素直に肯定した。


「それに、萩追さんがそんな単調なプレイングをするとは思えない。⋯⋯君だってもうしないだろ?」


 その試合では真梨のワンパターンな戦術の隙を突くことで辛勝できたが真梨のことだ、同じ手は通用しないだろう。


「⋯⋯そうね。でも、参考にすべきポイントが『移動時を狙う』という観点以外にもう一つ、あの時のプレイングにあったと思うの」


「どーゆーことだ?」


 真梨は隼人の言葉に同意するが、なおも有用性はあると主張する。それに対し亮太が若干の苛立ちを孕んだ問いかけをする。


「お姉ちゃんは《スラントプレス》で『フェニックス』をコントロールしているのよね? もし、あの時と同じように対戦相手の『フェニックス』がフィールドに着地した瞬間にクリスタルを投げれば?」


「⋯⋯《スラントプレス》は使えない⋯⋯⋯⋯?」


 真梨の淡々とした解説を聞き隼人は一つの結論を導きだす。


 DBTには、『オフェンスは相手クリスタルがフィールドに触れた瞬間から自分のクリスタルを放つことができる』というルールと、『相手クリスタルにテクニックの影響を直接及ぼしてはならない』というルールがある。


 《スラントプレス》は盤面を傾けることでクリスタルを操るテクニック。


 そのため相手クリスタルも動いている状態の場合、自分のクリスタル同様摩擦係数が小さくなっているのでそちらにも働いてしまうため使用できない。


「なるほどな⋯⋯場外を狙えるかはともかく、コントロールを妨げられるっつーわけか」


 亮太が一理あるとうんうん唸る。


「ええ。そうすれば安定した高得点は望めなくなる。つけいる隙が生まれてくるはずよ。⋯⋯ちなみに今の『相手クリスタルがフィールドに触れた瞬間放つ』のはもうテクニックとして名前があるの?」


「いや、ないと思う。実用性がなさそうだったからな⋯⋯」


 真梨の視線を受けて、隼人は否定する。ネット上でのこれまでの議論全てを見てきたわけではないが、おそらくなかったはずだ。


「まー、《スラントプレス》対策ってだけだかんな。汎用性はねーよな。そもそも《スラントプレス》を使える人自体少ねーし」


「そうだな。まあそれでも一応名付けるとしたら《アンチプレス》ってとこかな」


「⋯⋯松川君が名付けるのね」


「え? 名付けたかった?」


「⋯⋯いえ、別に」


 真梨は不服そうにそっぽを向いた。やはり発案者として名付けたかったのだろうか?


「とりま《アンチプレス》は身につけるとしてどーする? 場外にするテクニックはねーままだろ?」


「そうだな⋯⋯。それに関しても俺たちで考えてみないか? 移動中を狙うじゃないけど、何か工夫があれば作り出せる気がするんだ」


 隼人は亮太を真っ直ぐ見つめる。それを受けた亮太はアップバングの黒髪をがしがしして、


「わーったよ。どーせ今週の土曜日だしな。それまでは付き合うぜ」


「ありがとう」


「私も参加させて貰うわ。土曜日のイベントには私も参加するし。一緒にテクニックを生み出せばそれだけプレイヤーとしての腕も上がるもの」


 ホビキンでの大会後にDBTの買い物の同伴をお願いしたり、今回も共にテクニックを開発することでプレイヤースキルを磨こうとするあたり、真梨はストイックな一面を持っているらしい。それが学業にも影響していて高成績なのだろうか?


「渡辺さんもありがとう」


「そしたら明日の放課後も集まろーぜ。プレマは隼人が持ってこいよ」


「わかった。色んな方法で投げてみて実験だな」


「ちょ、ちょっと! あなたたち学校にDBTのプレイマットやクリスタルを持ち込むつもり⁉」


 隼人と亮太の会話に真梨の驚き混じりの非難が入る。


「流れ的にそーだろ。なあ?」


「うん。実際に試すことで見えてくるものがあると思うし」


「⋯⋯学校に不要物を持ち込むのは校則違反よ」


 真梨が男二人に冷たい目視線を浴びせる。どうやら学校に娯楽品を持ち込むのがお気に召さないらしい。真面目な真梨らしい考えだ。


 どう説得しようか悩んでいると亮太が目配せをしてきた。隼人はその意図を察して数秒迷った後、それに乗っかることを決めて小さく頷く。


「じゃーな渡辺!」


「今日はありがとう渡辺さん! また明日!」


「ちょっ⋯⋯」


 真梨とこれ以上の言い合いは面倒だと感じた亮太は隼人とともに帰り道へと駆け出した。


 隼人は明日真梨は怒ってないだろうかと少々不安になりながら亮太の隣を走るのだった。



***



 そして翌日の放課後。


「隼人、今のショットはどーだ?」


「うーん、さっきよりは威力があったと思うけどこれなら《ピンショット》でよくないか?」


「⋯⋯⋯⋯」


「亮太、今のは?」


「パワーなさすぎだろ。自分のクリスタルをフィールドに残すことを意識しすぎだって」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


「じゃあこれなら」


「あー、やっぱ《ピンショット》以下だな」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯なあ、なんでさっきからこっち見ようとしねーんだよ」


 机を二つくっつけその上にプレイマットを敷いて新テクニックを考案している隼人と亮太。そこから数歩離れた場所で真梨は目をそらしていた。


「⋯⋯もしかして、見ちゃうとやりたくなっちゃうから?」


「⋯⋯! そんなことないわ」


 隼人に図星を突かれた真梨は早口で端的に否定する。しかしその頬がかあっと赤く染まったため、説得力がない。


「昨日校則違反が云々とか言ってたくせに持ってきてんのか?」


「いえ、持ってきてはないわ。ただ、その⋯⋯」


 亮太がニヤニヤとした指摘を真梨はキッパリと否定するが、後半もごもごと口籠もり俯いてしまう。


「⋯⋯借りてでもやりたいって?」


「⋯⋯!」


 隼人がてきとうな予想をポンと口にすると真梨にキッと睨まれた。当たってしまったらしい。


「へー、そーなのかー」


「何度も言うけれど校則を破ってまでやろうとは思わないわ」


 ますますニヤニヤする亮太を真梨が再び否定する。


「まあまあ。それはともかく見てては欲しいな。俺たちでは気づかないことがあるかもだろ?」


「⋯⋯それも、そうね。見てなければ協力できないものね」


 隼人はヒートアップしないうちに横槍を入れる。真梨はその言葉で自身を律することができたらしく、プレイマットの敷かれた机へと歩み寄った。


「これなら⋯⋯!」


 隼人は『ガァルーダ』のクリスタルを既にフィールド内に存在する亮太の『バレットプス』へと放つ。


 ポイントタイプで軽量な『ガァルーダ』と、ブレイクタイプで重量のある『バレットプス』でのシュミレーション。


 対琴葉戦ではブレイクタイプ、下手するとそれ以上の重さをもつ『フェニックス』を最低でもバランスタイプの『ドラゴニル』で落とさなくてはならない。軽量な『ガァルーダ』でも落とせればなお良し。


 そのためこのくらいの重量差のクリスタル同士で検証しているのだ。


「やっぱりこーだろ!」


 続いて亮太が『ドスカブト』を『バレットプス』へと放つ。『ドスカブト』もポイントタイプゆえ軽量だ。


 『バレットプス』に衝突するも、『ドスカブト』のほうが大きく弾かれてしまう。


「⋯⋯⋯⋯あ」


「⋯⋯何か気づいた?」


 その様子を見ていた真梨が小さく声を漏らした。それを隼人がめざとく拾う。


「いえ、テクニックとは関係ないんだけど⋯⋯『ガァルーダ』や『ドスカブト』ってポイントタイプなのよね?」


「そうだけどどうしたの?」


「⋯⋯ポイントタイプのクリスタルって決まって上面に良い目が集まってるわね」


 真梨はフィールドで静止している『ドスカブト』を見つめながら言った。


 確かにそのとおり、『ガァルーダ』は上面11、11、8、5、下面3、2、3、2、『ドスカブト』は上面10、10、6、6、下面5、5、4、3と、大きい数字は上面に集中している。


 だがそれには理由があるのだ。


「《スピンシュート》前提でデザインされてるからだね。例えば『ドスカブト』が下面を上にして回転するところを想像してみてよ」


 公式テクニック、《スピンシュート》により放たれた甲虫が、漆黒の三本角を振るいフィールド上を暴れまわった後静止。


 ──そこには腹を表にしている『ドスカブト』の姿が! その様は実にシュールである。


 というか死んでいる。昆虫的に。


「⋯⋯ふふっ。そういうことね」


 無様な『ドスカブト』のイメージが頭に浮かんだのであろう、真梨は楽しげに笑った。


「そう。そういうこと⋯⋯ぷっ」


 隼人も真梨につられ、鮮明な想像を思い浮かべてしまい吹き出す。


「おい、お前らオレの『ドスカブト』で変な想像して笑うな」


 そんな二人に亮太は眉間に皺を寄せた。


「ごめんごめん。でも、なかなか見つからないな⋯⋯」


 隼人は顎に手をあて思考する。


 重い相手も一方的に押し出せるテクニック。それは純粋な力加減を極めるのではなく、例えば『移動中』などの『特定の条件下』を上手く利用することが生み出すきっかけになると感じている。


 今はその『特定の条件下』を探すためにひたすら数を重ねて試行実験しているわけだが、思うような成果は上げられずじまいだ。


「やっぱり、渡辺にも投げて貰うのがいーんじゃねーの? 見てるだけとは違げぇだろーし」


 亮太の提案は一理あるかもしれない。隼人は下に落としていた視線を真梨へと持ち上げる。


「いえ、でも⋯⋯⋯⋯」


 二人に見つめられながらも躊躇う真梨。やはり学校で禁止されている娯楽に興じるのは気が進まないのだろう。


 その様子を見ていた亮太がはたと何かを思い出し、意地悪い笑顔──いつも隼人をからかう時なような──をする。


「こないだ隼人に買い物手伝って貰ったんだろ? こんなんで恩を返せんのか?」


「いや、俺は別に⋯⋯」


「隼人は黙ってろ」


 自分の名前が出てきて隼人は口を挟もうとするが、非常に楽しそうにしている亮太に止められてしまう。


「そ、それは⋯⋯」


「DBT、したくねーわけじゃねーんだろ?」


「うっ⋯⋯⋯⋯」


「さー、さー!」


 真面目で義理堅い真梨は間に受けて葛藤を始めた。亮太は片手にクリスタルを握り真梨へと一歩一歩近づいていく。


 絵面から犯罪臭がするな⋯⋯。そう感じた隼人が間に入ろうとしたところで、真梨のスマホから着信音が鳴った。


 真梨はスマホを取り出し素早く通話ボタンを押す。隼人も亮太も気を使って口を噤んだ。亮太は渋々といった感じだが。


 静かになったためか、はたまた相手の声が大きいからか、隼人にも声が聞こえた。


『もしもし真梨ちゃん! イベントの準備が終わらないから手伝って!』

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