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1─3─2

 火曜日、水曜日と隼人は亮太の協力を仰ぎながら調べるも、一向に良いテクニックを発見できなかった。


 そして木曜日、今日も隼人は思考の半分をDBTに割きながら授業を聞いていた。


 隼人の席は窓側最後尾とベストポジション。ぼんやり授業を受けていても滅多なことでは注意されない。


 机に電子辞書を置いて死角を作り、そこにスマホを置いてテクニックを調べる。


 スマホをいじる際、シャーペンを持ったまま小指だけで操作するのがバレないコツだ。遠目からではシャーペンで文字を書いているようにしか見えない。


 ──見つからないか。


 昨日や一昨日とは違った検索エンジンや検索ワードを用いてみたものの、琴線に触れるテクニックは見つからない。


 この授業中での捜索は諦め、隼人は顔を上げる。すると教室の正反対側、対角線上の席──真梨の席が目に止まった。


 普段は視界に入ることはないのだが、隼人と真梨の席を結ぶ直線上にある席に座っている生徒──男子生徒ばかりだ──がもれなく突っ伏して夢の世界に旅立っているため、隼人は真梨を視界に捉えることができた。先生は諦めているのか彼らを注意しない。羨ましい。


 真梨は真剣に黒板の文字をノートに書き写している。先生が黒板に文字を書くのをやめてもその手が止まることはない。


 おそらく先生の発言もメモしているのだろう、つくづく真面目である。


「⋯⋯ん?」


 そんな真梨をぼんやり眺めているとあることに気づいた。真梨の使っているシャーペン、あの木製のシンプルなデザインは日曜日、一緒に出かけた際に彼女が購入したものだ。


 ──マイアイランドで琴葉に敗北した後、琴葉と真梨の二人と連絡先を交換した。


 『ゴールデンウィーク初日サークルイベント参加』というざっくりとした説明だけでは困ってしまうという理由と、真梨もそのイベントに参加する旨を表明したからだ。


 その後二人と別れ──真梨は「今日はありがとう。楽しかったわ」と言っていた──帰りの電車に乗ったのだった。


 それ以降真梨とは話していない。もちろん琴葉とも。


「⋯⋯頼ってみるか」


 話しかけるには相応の勇気が必要だ。だが、彼女なら何かいいアイデアをもたらしてくれるのではないか──。


 隼人は大きく息を吸い込み覚悟を決める。


 隼人は休み時間を利用して、手に入れたばかりの連絡先にメッセージを飛ばしたのだった。



***



「それで⋯⋯相談って?」


 放課後、静かな教室で真梨は小首を傾げた。夕日に照らされたその姿は美しい。


「うん。DBTで強くなりたいんだ。今新しいテクニックを身につける方向で調べてるんだけど見つからなくて⋯⋯。協力して欲しい」


「お姉ちゃんに勝つためよね。⋯⋯分かったわ、この間のこともあるし」


「ありがとう!」


「⋯⋯それはいいんだけど⋯⋯」


 真梨は居心地悪そうに視線を彷徨わせる。そして同じようなリアクションをする人物がもう一人。


「⋯⋯おい、隼人」


「何?」


「なんで渡辺がいんだよ」


 亮太は隼人を腕で引き寄せ小声で話しかける。


「見てのとおり、協力して貰うから? 亮太別に渡辺さんのこと嫌いじゃないだろ?」


「確かにそーだが気まずいだろ、お互いに」


「まあなんとかなるって」


「隼人⋯⋯この前の奢りの件の意趣返しか?」


「いやいやそんなこと」


 隼人は月曜日の夜を思い返す。帰り道、行きつけのラーメン屋『(みゃー)(みゃー)』──断じてエッチな店ではない──に連れていかれ大盛りラーメンを奢らされた。スタミナラーメンが美味である。


 手伝ってもらう立場とはいえ若干の理不尽さを感じたものだ。


 ただ、今回のセッティングに恨みの感情は全く込められていないと断言しておこう。本当だ。本当に本当だ。⋯⋯若干ないとはいわない。


「はぁ⋯⋯しゃあねーか」


 亮太は真梨に聞こえないよう小さく溜息をついた後、隼人を引っ張り真梨と相対した。精神的疲労からか、アップバングの黒髪がしなびている。


「オレもこいつに付き合わされてる。よろしく」


「こちらこそよろしく、篠崎君」


 互いに言葉を交わす真梨と亮太。二人の表情は平時よりやや固いがとりあえずは問題ないだろう。


「早速だけど渡辺さん、何か良いテクニック知らない?」


「振りが雑だな隼人」


「しょうがないだろ、こう言うしかないんだから」


 隼人の率直な問いかけに亮太がツッコミを入れる。真梨はそのやり取りを流しながら真顔で思考した後、


「⋯⋯そもそもみんなテクニックをどこで知りえてくるの?」


 と返した。


「どこでって⋯⋯インターネット?」


 隼人は質問の意図が分からず疑問符を浮かべる。


「インターネットって、DBTの公式サイトのことよね? 《スピンシュート》しか載ってなかったわよ」


「え?」


 さらに混乱する隼人の横で亮太がハッとした表情になり、脳裏に浮かんだ予想を確かめるようにゆっくり口を開く。


「⋯⋯渡辺、もしかして公式サイトに書かれているテクニック──《スピンシュート》しか知らないのか?」


「いえ、そんなことはないわ。このスラントプレスを見る機会があったの」


「萩追さんが使ったんだ」


 真梨の言葉に隼人が説明を付け足す。あの時真梨に《スラントプレス》の説明をしたのは隼人だ。


「マジか、高等テクだぞ? ホント凄げーな」


 琴葉に感心する亮太の前で真梨は話を続ける。


「でも不思議よね。今私が《スラントプレス》と口にしただけで『高等テク』という単語が出たわ。あの時と同じように。つまり共通認識があるってことよね。どこで共有しているの?」


 真梨は隼人に疑問を乗せた視線を向ける。亮太も同時に隼人を冷めた目で見た。「こいつ役に立つのか?」という思いがひしひしと伝わってくる。


「ええっと⋯⋯まず、テクニックは公式テクニックと非公式テクニックの二種類に分けられるんだ」


 四つの目を同時に向けられて隼人は気圧されながらも真梨に解説を始める。


「つーても公式テクは《スピンシュート》の一つだけだけどな。今んとこは」


「亮太の言うとおりで、DBTのテクニックのほとんどは非公式、つまりプレイヤー側が考え出したものなんだ」


「⋯⋯知らなかったわ」


 亮太が呆れたように補足する。それを真梨が真剣に聞いている。


 学力の劣る男二人が真梨にレクチャーする様をクラスメイトが見たらどう思うだろうか? きっと驚くだろう。


 そんな考えが頭によぎるも隼人は話を続ける。


「それで非公式のテクニックが生まれて広まる過程なんだけど⋯⋯渡辺さんは『ナンバーちゃんねる』とか知ってる?」


「いえ、あまり詳しくは」


 隼人の質問に真梨は首を横に振った。隼人や亮太にとっては馴染みのあるサイトだが、一般的な人はあまり利用しないのかもしれない。


「ナンバーちゃんねるは簡単に説明するとインターネット上の掲示板のようなもので、不特定多数の人と議論できるんだ」


「⋯⋯そこで非公式テクニックが生み出されているってこと?」


「まあ、端的に言えば。そこで開発された実用性のあるテクニックには名前が付けられて、動画配信されたりもする」


 ちなみにその手の動画配信者で有名なのはAnataTuberの『ビート』だ。資金力に物をいわせ、全クリスタルをコンプリートしている猛者。テクニックに関しても卓越した技術を持ち、高難度のものをいくつも成功させている。


「なるほどね⋯⋯今度検索してみるわ」


「うわぁ隼人が女子高生にナンバーちゃんねる紹介してる」


「いや亮太も共犯だろ!」


 ドン引きした表情を作り一歩後退する亮太に隼人が食いつく。


「でオレたちは萩追先輩? に勝つために有用なテクを探し回ったんだが⋯⋯」


「──見つからなくて渡辺さんに聞いてみたわけ」


 それを亮太は華麗にスルーし話を進める。隼人は不服そうにしながらも亮太の補足をした。


 説明を終え一息つく隼人と亮太に真梨は申し訳なさそうに口を開く。


「残念だけれど⋯⋯私は知らないわ。どんなテクニックを求めているの?」


「ブレイクタイプ並に重いクリスタルを自分が落ちることなく場外にできるテクニック」


「⋯⋯⋯⋯」


 隼人の言葉に真梨は少々面食らう。その様子を見た亮太が反応した。


「渡辺も無茶ぶりだって思うだろ?」


「ええ。正直探しても見つからないと思うわ」


「でもなあ⋯⋯」


 確かにそんな都合のいいテクニックはこの数日間探しても発見できなかった。おそらく無いのだろう。薄々勘付いている。


 だが、そうなると琴葉に勝つ方法が思い浮かばない。


 一体どうすれば────


「──だから、新しく作ればいいと思うの。私たちで」

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