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そして再び週が明け、月曜日。
天気は生憎の曇り空であった。どんよりとした雲が日光を遮り、学校がいつも以上にモノトーンに見える。
「おす隼人。昨日はどーだった?」
教室内。朝のSHR五分前に来た亮太がニヤニヤしながら、椅子に座っている隼人に話しかけてきた。
「⋯⋯亮太。相談がある」
「ん? 恋愛そーだんか? いーぜ?」
亮太は目をキラキラさせている。ワインレッドの眼鏡越しでも伝わってくるほどに。
「DBTで強くなるにはどうすればいい?」
「いや待て何があった」
隼人は真剣さを声音に乗せて亮太を見る。予想外の内容に目を白黒させる亮太。隼人は構わず事情を説明する。
「昨日途中で渡辺さんの幼馴染の先輩に会って、DBTしたんだ。⋯⋯悔しいことにボロ負けでさ。強くなりたい」
「⋯⋯なんかすげー展開になってんな。ある意味面白ハプニングか? そーなると今じゃキツイな。放課後でいーか?」
亮太は隼人の話に興味を示したが、黒板の上に掛けられている時計をチラ見した。まもなくSHRが始まろうとしている。
「わかった。よろしく」
「おー。その代わりどんなデートだったかも教えろよ?」
「デートじゃないって」
亮太はこれ以上からかえないのを名残惜しそうに隼人の席を離れる。
そんなやり取りをした直後、チャイムが鳴り、一日が始まった。
先日琴葉に大敗した隼人。リベンジの機会を今から五日後──ゴールデンウィーク初日に取り付けることができた。
その日琴葉の所属するゲームサークルのイベントが開催され、対戦してくれるという。
だが、今のままでは敗北は必至。強くなる必要がある。
しかし、その方法がわからない。あの絶対的な不死鳥を打ち負かす手段が考えつかないのだ。
新しいクリスタルを手に入れる? ──『フェニックス』に釣り合うスペックのクリスタルは高価であるし、仮に手に入れたとしてもたった五日で使いこなせるだろうか? 難しいだろう。
新たなテクニックを身につける? ──一体どのような? 『フェニックス』は必ず9の目が出る。しかも重い。妨害するためには思いっきり自分のクリスタルをぶつける必要があるだろう。
しかし、それでは自分のまで道連れで場外になってしまう。
高威力で自身はフィールドに残りやすいテクニックなど存在するのだろうか? 少なくとも昨日インターネットで調べた限りでは無かった。
他に手段はないだろうか?
思考の海に沈んでいた隼人はあっという間に放課後を迎えたのだった。
「じゃー会議を始めますか」
亮太が言った。夕日の差し込む教室。隼人と亮太以外誰もいない。
「──で、渡辺の先輩に勝ちてーんだっけ? その人どんなクリスタルを使うん?」
「『フェニックス』」
亮太の質問に隼人は端的に答える。
「マジか。扱い辛いって噂だけどやるなその人。もう一つは?」
「⋯⋯『フェニックス』一つで惨敗した」
「⋯⋯隼人がか。マジで凄げーな」
悔しさを滲ませて呟く隼人。亮太はそれを聞いて対戦相手──琴葉に感心する。
「その人、なんてゆーの?」
「萩追琴葉さん。大学生らしい」
「え? 女子?」
「あれ、言わなかったっけ?」
目を丸くする亮太に隼人は目を丸くする。
「いや、幼馴染の先輩としか。DBTするってゆーからてっきり男かと。デート見られて修羅場ってたのかとワクワ──心配してた」
「おい、本音出てるぞ」
ポロリと言葉を零した亮太を隼人は睨む。。
「──まー、そろそろ真面目に考えっか」
「勝手に脱線したのも亮太だけどな」
それを誤魔化すように亮太がわざとらしく咳払いをして、真剣な表情を顔に貼り付けた。
「とりあえず、隼人はなんか意見ねーのか? 授業中上の空で考えてたんだろ?」
「⋯⋯バレてたか。思いついたのは新しいクリスタルを買うのと新しいテクニックを身につけるのだけどどっちも微妙なんだよな⋯⋯」
「別に悪くねーんじゃねーか? 『フェニックス』に対抗できるクリスタルってなるとスーパーレア⋯⋯ちょい高そーだけどな」
亮太は隼人の意見の片方を取り上げる。
「でも買ったばかりのクリスタルって使うの難しくないか?」
「あー⋯⋯」
隼人の意見に亮太は「それもそうか」という表情を見せた。
DBTのクリスタルはそれぞれ一つ一つ重さと重心の位置が微妙に違う。
重心は『フェニックス』などの例外を除いて基本的に真ん中なのだが、内部のフィギュアの形状からぴったり同じ位置とはいえない。
隼人はかなりの間『ガァルーダ』と『ドラゴニル』を愛用している。下手にクリスタルを変えると違和感が生じパフォーマンスに影響が出てしまう恐れがあるだろう。
「それに俺⋯⋯今月あんまり金無くて」
「スーパーレアは高けーか」
言いづらそうに口籠る隼人に亮太は同意する。
DBTのクリスタルのレア度は四種類に分かれている。コモン、アンコモン、レア、スーパーレアの順に希少性と性能が増していく。
そしてスーパーレアともなるとその価値ゆえ二千円前後することもざらなのだ。
「そーなると、新テクニックか?」
「そう思って調べたんだけどな⋯⋯」
隼人は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。
「見つからなかった、って訳か」
「ああ⋯⋯」
亮太の言葉に隼人は首肯する。
「隼人はどこ調べたんだ?」
「ええっと、インターネットと動画サイトを」
「動画サイトって?」
「AnataTube」
「それ以外は?」
「いや、調べてない」
「じゃーとりまニカニカとか漁ってみっか。どんな感じのテクニックを探してんだ?」
「ブレイクタイプ並に重いクリスタルを自分が落ちることなく場外にできる感じのテクニックかな」
「うわ無茶振りだな。まー探すだけ探すか」
亮太はスマホを制服のポケットから取り出しアクセスする。
「⋯⋯ありがとう」
「いーって。後でなんか奢ってもらうから」
「いや俺さっき今月ピンチって言った⋯⋯」
隼人の抗議をスルーして、亮太はイヤホンを耳につけた。
「悪りー聞こえなかった」
「嘘つけ!」
「つーか隼人も調べろよ。なんかあったら報告な」
こうして二人は黙々と動画をチェックするのだった。
しかし、
「亮太。どうだった?」
「オレは全然だ。隼人は?」
「俺も収穫なし」
「厳しーな⋯⋯」
成果は芳しくなく、二人は暗くなった帰路についたのだった。




