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1─2─5

「あ、真梨ちゃんが彼氏とデートしてるー!」


 そんな折、不意に女性の明るい声が聞こえた。名前を呼ばれた真梨が声の方向に振り向く。


「⋯⋯お姉ちゃん」


「お姉ちゃん⁉」


 真梨の台詞を聞き、隼人も思わず振り向いた。


 そこには綺麗な女性が立っていた。


 上品な茶髪、瑞々しい肌、そして豊満な胸。見たところ大学生で、肩にぱんぱんに膨らんだトートバッグをぶら下げている。


「こんにちはー! 真梨ちゃんの姉の渡辺琴(こと)()です! よろしくね」


「お姉ちゃん嘘つかないで。──この人の名字は『萩追(はぎおい)』よ。姉妹じゃないわ」


「え? え?」


 笑顔で手を振る琴葉に溜息をつく真梨。


 隼人は状況が飲み込めず、目を白黒させてしまう。


「この人は萩追(はぎおい)(こと)()さん。私の近所に住んでいて、小さい頃からの付き合い──幼馴染なの。今は大学生よ。『お姉ちゃん』って呼んでいるのは昔からの名残なの」


「ああ。なるほど⋯⋯」


 それを見兼ねた真梨が説明して隼人はなんとか理解できた。


「そうなの。彼氏さんごめんねー!」


「いや、俺は彼氏では⋯⋯」


 琴葉が可愛く舌を出して謝る。隼人はそれに苦笑いしながら弁明。


「⋯⋯はぁ。こちらは松川隼人君。彼氏じゃないわ。買い物に付き合ってもらっているの。お姉ちゃん、あんまりてきとうなこと言わないで」


「あーそうなんだー! ごめんごめん。二人は何を買いに来たの?」


 真梨が再び説明を入れる。琴葉は隼人を本当に彼氏だとは思っていなかったらしく、特に反応せず会話を進めた。


「今は雑貨屋で文房具を買ってたけど、メインはDBTのクリスタルよ。お姉ちゃんこそ、そんなに何を買ったの?」


 呆れ顔の真梨が琴葉の膨れたトートバッグに視線を移す。


「ふっふー。この中には夢と希望が詰まっているのだ!」


「⋯⋯もう、いつもそうなんだから」


 琴葉のてきとうな返しに真梨は頬を膨らませる。


 隼人やクラスメイトには見せない真梨の子供っぽい仕草。本当に二人は長い付き合いで仲が良いのだろう。


 隼人は一人っ子で、近所に同年代の先輩もいなかった。二人の関係性が羨ましく思える。


「⋯⋯あっ、真梨ちゃんと二人でクリスタルを買いに来たってことは、隼人君もDBTするの?」


「あ、はい、一応」


 その場の成り行きを見守っていた隼人は突然話しかけられて口籠る。


「へー! 実はわたしもやるんだ! どう? ひと勝負しない?」


 琴葉は目を輝かせる。隼人はそれを聞き、真梨に視線を移す。


 もしかしてこの人が真梨にDBTを勧めた人物なのだろうか?


 隼人の視線を感じ取った真梨はこくんと頷く。


「そうよ。お姉ちゃんが勧めてくれたの」


「ちょっとー。隼人くーん!」


「あっ、すいません。今からですか?」


 返事をしない隼人に琴葉が不満を主張する。隼人は慌てて琴葉の方に向き直る。


「うん! マイアイランドってお店にスペースがあるの。ダメ?」


「俺は大丈夫ですけど⋯⋯」


 筆記用具の補充は済ませたため隼人はこれ以上特に買うものはない。


 だが、真梨はどうなのだろう?


 隼人は横目で真梨を見る。


「私も問題ないわ。むしろそっちの方が好都合かも⋯⋯」


「真梨ちゃん誘惑に弱いからねー!」


 真梨も首を縦に振る。その心意──商品の見歩きが原因で起こる衝動買いの防止──を理解した琴葉がニコニコ笑い。


「そんなことないわ」


「え? シャーペン⋯⋯⋯⋯」


 ふいっとそっぽを向いて否定する真梨に隼人は思わず言及する。すると真梨は、


「確かにあれは予定外の品ではあったけど、クリスタルが想定より安かったから今回の予算内」に収まってるわ」


 と弁明する。羞恥のせいか顔が赤い。


 だが、今言ったことは真実なのだろう。誘惑に弱くともきちんと資金管理した上で行動するのは彼女らしい、と思う。


「とにかく全員オッケーみたいだねー! さあレッツゴー!」


 琴葉が元気良く右手を突き上げる。


 こうして隼人と真梨は琴葉に連れられて再びマイアイランドへ歩くのだった。



***



「よーしいくよー!」


「よろしくお願いします!」


 マイアイランドの対戦スペース。例の高い椅子に座った隼人と琴葉は相対する。


 じゃんけんの結果隼人の先攻となった。琴葉がフィールドへとクリスタルを転がす。だが、その動きがかなり不自然だ。まるで千鳥足のようにふらふらと不規則な動きをくり返している。


 どんなクリスタルなのだろう?


 隼人は脳内を検索しているうちに動きが止まり、内部にあるフィギュアを確認できるようになる。


「これって⋯⋯『フェニックス』?」


「あったりー! 前弾の目玉だよ」


 目を見開く隼人に琴葉は得意げだ。


 『フェニックス』。前弾のスーパーレアで、炎の身体を持った神々しい神鳥だ。


 特筆すべき点はその性質。上面9、1、1、1、下面1、1、1、1という異色の目を持ち、9の目の反対側に重さが一極集中している。


 そのためどんなにてきとうにクリスタルを転がしたとしても必ず9の目が出るのだ。


 当然ポイント、バランス、ブレイクの三タイプのどれにも属さないイレギュラー。


「へえ⋯⋯お姉ちゃんはこういうクリスタルを使うのね」


 横で試合を観戦している真梨が感心したように呟く。


「え? 萩追さんに勧められたんじゃないの?」


「本当に勧められただけよ。『(ガイア・)(ドラゴン)』をくれて、それっきり。対戦したことはおろか、ルールすら教えて貰ってないわ」


「えっへへー。説明面倒になっちゃって」


「それは雑すぎるのでは⋯⋯。──ん? 『(ガイア・)(ドラゴン)』を貰った?」


「そうだよー! わたしがあげたんだー!」


 隼人は琴葉に三白眼を向けたあと、真梨の言葉に引っ掛かりを覚える。それを琴葉は笑って誤魔化しながら肯定した。


「あげたって⋯⋯」


 隼人は驚きの眼差しで琴葉を見る。


(ガイア・)(ドラゴン)』は入手の非常に難しい貴重なクリスタル。いくら幼馴染の後輩だからといって、そんな簡単に譲渡してしまえるものなのか。


「真梨ちゃんにだからいいんだよ。それに『(ガイア・)(ドラゴン)』は使ってて面白くないし。『フェニックス』くらい癖がなくっちゃ!」


「⋯⋯そういうものですか」


「そうだよー!」


 隼人の内心を読んだのか、琴葉が端的に答える。


 隼人はもっと聞き出したい気持ちもあったがひとまず諦め『フェニックス』を確認。


 出た目は当然9で場所はフィールド最外部。よって二倍される。さらにファーストディフェンスボーナスが加わり21点だ。


 この点数はまずい。だが『フェニックス』が位置するのは最外部。落とすのはさほど難しくはないだろう。


「隼人くんはどんなクリスタルを使うのかなー?」


 琴葉はにこにこと無邪気に微笑む。


 隼人は不死鳥を落とすべく、陸龍──『ドラゴニル』をフィールド外に設置する。相手クリスタルを狙い撃つのに有効なテクニック、《ピンショット》だ。


 デコピンにより推力を得た陸龍が不死鳥へと突貫、激突する。

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