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1─2─4

「えっと⋯⋯この後どうする?」


 隼人は真梨に問い掛ける。


 目的は果たしたため解散だろうか? 個人的には名残惜しい感じがするのだが⋯⋯。


「そうね⋯⋯。私はせっかく来たわけだしもう少し回るつもりだけど⋯⋯あなたは? この後忙しいの?」


「いや、俺も見て回りたいなって考えてたところ」


「なら一緒ね。そしたら少し早いけどお昼にしましょ。お礼にご馳走するわ」


「奢って貰うのは遠慮するけど、ご飯には賛成だ」


 お昼時になるとマユーン内部の飲食店はどこもごったがえす。早めに食べるのはいい判断だろう。


「遠慮しなくていいわよ?」


「いやいや」


 そんなやり取りをしながら同じく三階にあるフードコートを目指す。


 フードコートは既に混雑し始めていたが、何とか席を確保できた。


 フードコートには沢山のテーブルが立ち並び、それを囲うように様々な飲食店が構えている。


 そのほとんどが有名ハンバーガーショップやラーメンショップなどのチェーン店だが、それゆえにハズレを引く心配がない。


「お先にどうぞ」


「ありがとう。行ってくる」


 二人席で隼人の向かいに座った真梨が促す。席を取っておいてくれるらしい。


 これなら奢られずに済みそうだと、隼人は言葉に甘えて席を離れる。


 フードコート内をぷらぷら歩き、目に留まった食べ物──ハンバーガーに決める。


 バーガーとポテトを注文。商品を受け取り、席に戻るついでにフードコート中央にあるセルフサービスの水を二杯、バーガーショップのトレイに乗せる。


「お待たせ。はいこれ」


「ありがとう。行ってくるわ」


 今度は真梨が席を立つ。しばらく待つと手にうどんの乗ったトレイを持って帰ってきた。


 真梨が席に座るのを確認してからバーガーを口に入れる。いつもどおりの味がした。特にコメントは無いが普通に美味しい。そんな感じだ。


「松川君は具体的に回る場所決めてるの?」


 真梨が隼人に問い掛ける。黒髪を耳にかけ、うどんを飲み込む喉の動きが(なまめ)かしい。隼人は視線をポテトに逸らす。


「とりあえず雑貨屋かな。ペンのインクが切れそうだから詰め替えを買いたい。渡辺さんは?」


「私も雑貨屋には行くつもりよ。後は洋服も見てみたいけれど⋯⋯そこまでの持ち合わせは無いのよね。まあ、見るだけでも楽しいけど」


 真梨は悩ましげにするのを見て、隼人は疑問符を浮かべた。


「洋服って⋯⋯さっきマイアイランドに向かう時、見向きもしなかったよね? あんまり興味無いのかと思ってた」


「あるわよ。ただ、あの時は、その⋯⋯視界に入れると見て回りたくなっちゃうから、敢えて⋯⋯」


 真梨はふいっと顔を背けた。うどんを食べる際に露出させた耳が赤く染まっている。


「あー、誘惑に負けないようにってこと?」


 学校での真面目な様子や、DBTで常に動じず《スピンシュート》を放っていた様から、理性的な女の子かと思っていたが、こんな一面もあるらしい。


「ほら! わざわざ松川君に来て貰っているのに、用件以外に思考を巡らすのは失礼じゃない? だから、その⋯⋯」


 恥ずかしいらしく、頬を染めて慌てふためく真梨はとても新鮮だ。


「まあまあ。そこまで気にしなくていいと思うよ」


 いくら人に頼んだからといって、それ以外のことを考えてはいけないというのはあまりに極論だろう。


「食べ終わったら一緒に雑貨屋行こうか。ちょうど二人とも行きたい訳だし」


「⋯⋯そうね。そうしましょう」


 そう言った後隼人はバーガーに食いつき会話を切る。真梨は落ち着くために水を飲む。


 そんなこんなで二人は昼食を食べ終える。


 そしてフードコートの混雑ピーク前に、その場を後にした。


 二人はエスカレーターで二階へ。七色キャンパスのようなマユーン2内を様々な人達とすれ違いながら歩く。そうして二人は雑貨屋へたどり着いた。


 雑貨屋のスペースには木のレイアウトとレトロな照明が施されており、鉄筋コンクリート製の建物ではなく、木製の小屋にいるような錯覚に陥る。


 大手メーカーの商品も取り扱っているが、木材をふんだんに使用したこの店オリジナルの商品が多く、目を奪われる。


 隼人はとりあえず大手のペンの詰め替えをカゴに入れ、棚の商品を見て回る。


 真梨もカゴに大手産のシャープペンシルの替え芯を入れてから、この店独特の品物を見て楽しんでいるようだった。


「このシャーペン、素敵ね⋯⋯」


 真梨が両端以外が木で出来ているシャープペンシルを手に取り顔を綻ばせる。


「本当だ」


 それを見た隼人は棚から同じ物を取り出す。よく見ると木には猫の肉球が描かれており可愛らしい。


「買っちゃえば?」


「でも⋯⋯シャーペンは必要ないのよね⋯⋯」


「シャーペンなら予備があってもいいんじゃないか? テスト中何本も机の上におくし、家用として買うって手もある」


 思い悩む真梨を隼人が後押しする。


「う⋯⋯そうね、せっかくだから買うわ」


 隼人の言葉を聞いてから十秒以上黙り込んだ後、真梨は意を決した。


 その後店内を軽く回った後、二人でレジに向かう。その際昼食時同様、真梨が支払いを申し出たが隼人は拒否。


 真梨は「今度お礼させてね」と不服そうな顔をしながらも引き下がった。


 先に並んだ隼人は会計を済ませて真梨を待つ。真梨はお金とともに割引券(・・・)を提示していた。


 どうやら何度もこの店を利用したことがあるらし────


「お待たせ」


 真梨が買った品物を持参のトートバッグに入れながらやって来る。


「──渡辺さん、これ」


 隼人は財布に仕舞いっぱなしで失念していたあるものを真梨に手渡した。


「⋯⋯これは?」


「ホビキンのクーポン。大会入賞者に配られたやつ。渡辺さん表彰にいなかったから俺が預かってた」


 隼人の言葉に真梨は目を丸くする。


「表彰⋯⋯? そんなものがあったの⋯⋯⁉」


「え? 知らなかった?」


「ええ。だとしたら私は表彰される立場にも関わらず無断欠席してしまったのね。⋯⋯後日謝罪しに行った方がいいかしら⋯⋯菓子とかも持参して⋯⋯」


「いやいやいや! 表彰っていってもゆるい感じのだったしそんな気にする必要ないって!」


 真剣に悩み始めた真梨を隼人は慌てて止める。


「でも、迷惑かけてしまったのは事実だし⋯⋯」


「まあするにしても用があるときについででいいと思うよ。お店も気にしてないだろうし」


「そう、かしら」


 隼人の説得を不承不承といった感じで受け入れる真梨。


 まさかこんな理由で表彰に来なかったとは⋯⋯。


「もしかして、大会に出たのってあれが初めて?」


「ええ。事前にもっと予習しておくべきだったわ⋯⋯」


 隼人の質問に悔やむように回答する真梨。


 ──あの時のことを聞くなら今しかない。それが買い物に付き合った目的の一つなのだから。


 隼人は続けて、ずっと聞きたかった質問をぶつける。


「ええっと、渡辺さんが大会に参加しようとした理由──もっと言えばDBTを始めたきっかけって?」


 隼人は真剣な面持ちで真梨を見る。真梨は一瞬きょとんとしたがすぐに答えた。


「大層な理由はないわ。知り合いに勧められたの」


「そう、なんだ⋯⋯」


 この時隼人は思った。


 ──本当にそれだけなのか? と。

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