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1─2─3

 そして日曜日。天気は晴れ。駅の改札を出ると、穀雨の陽光がガラスの天井越しに隼人を照らした。


「ここら辺だよな⋯⋯?」


 結局あれ以来真梨と会話することはなく、今日に至る。


 さいたま新都心駅で十時半に落ち合う約束をしたものの、具体的な場所までは決めていなかった。


 改札口の外には大きな空間が広がっている。左手に行くとさきたまウルトラアリーナ、右手に行くとマユーンへたどり着く。


 駅前にはそこそこの人数がいた。さいたま新都心は、さいたま市周辺に住んでいる学生にとって、休日友人と遊ぶにはもってこいの場所だ。


 先に述べた施設──マユーンには映画館も内蔵されているし、大宮から一駅で交通アクセスも良いからだ。


 真梨はもう着いているだろうか?


 隼人は辺りを見回しながら、広間の中央付近へ向かう。


「松川君。こっちよ」


 その途中で凛とした声が聞こえた。


 声の方向を見やると、真梨が立っていた。黒のとろみシャツに、キャメルのスカーチョを合わせたコーディネートだ。


 その大人びた可愛さに思わず見惚れてしまう。


「⋯⋯どうしたの?」


「ああ! いや、おはよう」


 真梨が訝しげな視線を向けてきた。隼人は慌てて真梨のいる方向へと進む。


「今日はよろしくお願いするわ。さっそく行きましょう」


「そうだな」


 二人は改札から見て右──マユーンへと歩を進めた。


 駅は巨大なデッキでマユーン1の二階と繋がっている。デッキを二人並んで歩く。


 コンクリート製の灰色デッキだが、ところどころ茶色の素材──強化プラスチックだろうか? 具体的にはわからないが──が使われている。


 また、植物も配置されていてコンクリート特有の無骨さが無く、親しみやすいスペースだ。


 そのままマユーン1の二階に繋がる。空調設備により中は快適。建設されてからそう月日が経っていない、広々とした空間が二人を迎える。


 白い屋内に、様々な店舗──といってもマユーン1の二階は衣服屋が大半だが──が配置され、多くの色が隼人の視界を彩る。


 まるで真っ白なキャンパスに沢山の絵の具を自由気ままに乗せたかのようだ。


 隼人がここに来たのは初めてではないが、来るたびに目を奪われる。


 一方真梨は、左右に連なる呉服店に一瞥もくれずにスタスタと直進する。


 真梨はこういった物に興味はないのだろうか?


 隼人はちらちら左右を見ながら真梨の後に続く。


「早く行くわよ」


 真梨が突然速度を速めた。


「ああ、分かった」


 隼人は不審に思いながらも真梨の速度に合わせ、隣に並ぶ。


 二人はマユーン1から2へと繋がるデッキまで最短距離で向かった。二人の目的のお店はマユーン1ではなく、2に存在するのだ。


 マユーン2は三階建て。三つの中で最も大きい。


こちらも1の二階同様、主にアパレル店が大半を占めているのだが、雑貨屋やフードコート、そして今回のお目当てのゲームショップ『マイアイランド』もある。


 マユーン1を出て短いデッキを渡りマユーン2へ。その際屋内外を移動する関係で、人口気候から自然気候、そして人口気候へと目まぐるしく変化する。


 2の内観も1と同様で絵の具の乗ったキャンパスのようだった。


 1と向かい合っている壁はガラス張り。なおかつ三階立てで吹き抜けているため、1よりも広々とした印象を受ける。


 二人は1と2の連絡口付近にあるエスカレーターを用いて三階へ。


 視点が上昇するのを利用して、隼人は二階をざっと見渡す。十時オープンということもあり、まだそれほど混雑していない。


 そして少々歩くと、DBTのクリスタルが飾られたショーケースが目に入った。


 ──目的地、『マイアイランド』だ。


「あれね」


「みたいだな」


 視線を交わして確認した後入店する。


 マユーンの賃貸料が高いのだろう。ホビーキングダムと比べてもそこまで広くはない。


 だが、


「⋯⋯! 凄い⋯⋯」


「だな⋯⋯!」


 二人が息を呑むほどDBTの商品が充実していた。それこそDBT専門店を名乗れるくらいには。


「奥も見てみよう」


「ちょ、ちょっと!」


 興奮した隼人は真梨を急かす。先行し、手招きする。


 店の奥にもショーケース。様々なクリスタルが並んでいる。


 これならば目的のクリスタルを見つけるのも容易いだろう。


「そういえば、渡辺さんはどんなクリスタルが欲しいの?」


 隼人は早速本題に入る。クリスタル選びを手伝うといっても、方向性がわからなければ選びようがない。


「⋯⋯そうね、ブレイクタイプ、かしら」


 追いついた真梨が商品を眺めながら答えた。


 DBTのクリスタルは三種類に分けられる。


『ポイントタイプ』、『バランスタイプ』そして『ブレイクタイプ』だ。


 ポイントタイプのクリスタルは、目の数値が比較的大きい。また、配置も偏っている。


 そのため、平行回転をかけて放つ基本スキル──《スピンシュート》さえ習得していれば、高得点を狙いやすい。


 反面、軽量で弾かれやすいという弱点を持つ。隼人の『ガァルーダ』が代表例だ。


 次にバランスタイプ。ダイスの目の大きさや、配置も平均的。重さもそこそこと、よく言えばオールラウンドに戦え、悪く言えば器用貧乏だ。


隼人の『ドラゴニル』がこれに当たる。


 最後にブレイクタイプ。ここに属するクリスタルは目の数値が控えめだ。しかし、三タイプの中で最も重い。


 相手のクリスタルをフィールド外へ弾き出すのに適している。また、自身は弾かれにくく、フィールドに残りやすい。


 亮太の使っていた『バレットプス』がこれに当たる。


 因みに真梨の『(ガイア・)(ドラゴン)』はこのどれにも属さない。


 ポイントタイプの目の大きさと配置に加え、バランスタイプ並──もしかするとレア度の低いブレイクタイプ程度の重さを持つ。スーパースペックだ。


 そのためこれ一体で多くの状況に対応できる。


 真梨はほかのクリスタルの必要性を感じなかったのだろう。


 だが今、彼女は新たなクリスタルを求めている。


 『(ガイア・)(ドラゴン)』を上回る重量のブレイクタイプ。それがあれば点数を稼ぐ時は『(ガイア・)(ドラゴン)』、相手を場外にしたいときはそれを使う。


 役割の補完ができ、組み合わせとしては妥当だろう。


「ブレイクタイプとなると⋯⋯ここら辺だな」


 隼人はショーケースの一片へと真梨を誘導した。そこにはメタルパーツを用いたクリスタルが数多く並んでいる。


「とりあえず、オススメはこれかな」


 隼人は一つのクリスタルを指差した。


 雲のようにもこもこした純白の羽を持つ妖精だ。身体が空色に塗装されたメタルパーツ製であり、鈍い光を放っている。


「『クラウリィ』⋯⋯?」


「そう。俺はあんまりブレイクタイプは使わないから無難なやつしか紹介できないけど、亮太のお墨付き」


 亮太曰く、オーソドックスで使い勝手がいいため、ブレイクタイプ初体験には最適らしい。


 レア度がアンコモンのため安く買える点も入門用としての株を上げている。 


「あと対戦していて思ったのは、『(ガイア・)(ドラゴン)』の目はポイントタイプ型だから、爆発力がある代わりに安定して同じくらいの点を取り続けることが難しいと思う。ブレイクタイプもいいけど俺としては安定感のあるバランスタイプも悪くないと思う」


「なるほど⋯⋯。松川君はバランスタイプの方が良いと思うのね?」


「『出目』の観点からはね⋯⋯。『重さ』で言ったらブレイクタイプの方が良いんだよな⋯⋯。バランスタイプだと下手すると『(ガイア・)(ドラゴン)』より軽いし⋯⋯」


 真梨の質問に隼人は頭を悩ます。どちらも一長一短あるため、絶対的な正解は存在しない。


「そうね⋯⋯。バランスタイプのおすすめも教えてくれないかしら」


 『クラウリィ』を見つめていた真梨が隼人に要求する。


「バランスタイプだと、扱い易いのは⋯⋯『ベルバール』かな」


 二人は数歩分横にずれ、バランスタイプのエリアを正面に捉える。真梨は隼人の指の先へと目を移した。


 そこには少々ぶかぶかな金色のベルを頭に被った灰色の(ひよどり)のクリスタルがあった。両足で先端が丸い細長の金色棒を持っている。


「ベルの帽子がぶかぶかなのが可愛いわね」


 真梨は顔を綻ばせ呟く。


「デザインもいいけど、八面のうち五面が5で、安定性が凄く高いんだ」


「実用的でもあるのね」


「そのとおり」


 解説する隼人は自慢げだ。


 真梨は顔を俯かせて少し思案した後、じっと『バルベール』を見つめた。


「⋯⋯試しに使わせてくれないかしら」


「うーん、どうなんだろう? 中古のフィギュアを扱うお店なんかだと状態確認のために触らせてくれる所もあるけど⋯⋯」


 こればかりは店によるとしか言えないだろう。


 ただ、買い手としては実際に手に持って重さを測りたいところだ。


 加えて、傷の有無も確認したい。大きな傷があると投げた際、軌道が不安定になってしまう。


 ショーケースから見た限りではどれも目立った傷は無いのだが、死角に無いとは言い切れない。


「店員さんに聞いてくるわ」


 真梨は『バルベール』から離れていった。


「わかった。ちょっと奥見てる」


 隼人はその背中に声をかける。真梨は立ち並んだショーケースの角を曲がり、見えなくなった。


「さて、と⋯⋯」


 隼人は真梨の向かったレジとは反対側へとショーケースの道に沿って歩く。左右に連なるクリスタルに目を奪われながら進むと、ひらけた空間が見えた。


 机と椅子が置かれている。──対戦スペースだ。


 ホビキンのよりも狭いがその分机の大きさが小さく、数も少ないので、狭苦しさは感じない。


 椅子も最小限に抑えられている──


「あれ⋯⋯?」


 隼人は椅子に違和感を感じた。近くにより注視する。


 ──一般的な物より足が長く背が高い。ラーメン屋のカウンターに置かれている物と同じくらいだろうか。なぜこのタイプを採用しているのだろう?


 不思議に思い座って、初めて理由に気付く。肘が自然な形でテーブルの上に出た。


 これはクリスタルを投げやすくするための配慮だ。


 ついでに机も観察する。一般的な四隅に足があるタイプではなく、中央に太い足が一本つけられているものだった。プラスチック製である。


「では、こちらをお使い下さい」


「ありがとうございます」


 椅子の配慮がDBTプレイヤーに優しいなと感心していると、店員と真梨がやって来た。


「お試しできそう?」


「ええ。快く承諾してくれたわ」


 店員の右手には『クラウリィ』と『ベルバール』のクリスタルが握られている。


「私どもの同伴の下であれば、ご自由にお試しいただけます。お客様もご利用の際はお申し付けください」


「あ、ありがとうございます」


 店員が隼人にニコリと笑う。随分寛大な店らしい。


 いや、こうしてお試しまですると買わなくては申し訳ない気持ちになる。それが狙いなのだろうか⋯⋯。


「松川君」


 無体なことを考えていると、真梨に呼ばれた。椅子から降りて隣のテーブルに移動する。


「投げる時に確認すべきことってある?」


「重さ、と実際に他のクリスタルにぶつけた時の感覚、かな」


 隼人は真梨にアドバイスした後、店員に目で問う。


「申し訳ございません。接触時に傷つく恐れがありますためご遠慮願います」


 隼人の問いかけを読んだ店員は頭を下げた。


「いえ、こちらこそ、無茶なこと言ってすいません」


 隼人は両手を振って否定する。


「手に取れるだけで十分ありがたいです」


 真梨も隼人に続く。


「⋯⋯じゃあ、重さを確認して投げるわね」


「『クラウリィ』と『ベルバール』でかなり違うと思うから、体感してみてくれ」


 真梨が二つのクリスタルを店員から受け取り、それぞれを静かに放つ。


「⋯⋯ありがとうございます」


 交互に二、三回試した後、真梨はクリスタルを店員へと返した。


「どうだった?」


「迷ったけれど⋯⋯あなたの勧めた『ベルバール』にするわ」


「そっか」


 真梨が自分の意見を聞いてくれて、アドバイスした甲斐があったというものだ。


「お会計お願いします」


 二人と店員はレジへと向かい、会計を済ませた。


「ありがとうございました!」


 店員に見送られ退店する。スマホで時刻を確認すると、十一時四十分だった。


 そんなに長時間いたつもりはなかったのだが、楽しい時間は早く過ぎるものらしい。

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