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  作者: 花京院
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第二章 一節


ランスタッド国王の死後、七年の歳月が過ぎていた。新たな国王として就任したのは皇子ジュード。だが、彼もまた争いを好む性格から戦争は続いていた。

物語はシャルと敵国の少年兵ロイドの出会いから始まる。


春の風が頬を撫でる。

眠りから目を覚ますと隣にはサツキがいた。

「やっと目を覚ましたのね」

「アスカもうたた寝をすることもあるんだな」

シャルが隣に座る。

起き上がると右手に違和感を感じる。てんとう虫が右手を登っている。手を伸ばすと指先からてんとう虫が羽を開き飛び立っていく。


ランスタッド前国王ジェイクの死。そしてアレンが姿を消してから七年の歳月が過ぎていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


キュリオス国の少年兵、ロイドは深手を負っていた。

ここは戦場。先程までランスタッド国と我がキュリオス国の戦争が行われていた。今は焼け野はらとなった草原にはごろごろと死体が転がり、ロイドはその中でじっと機会を待っていた。

キュリオス国は今回の戦闘に負けた。装備や兵士たちの士気はとても高く、支給されている装備もとても充実していた。しかし、結果は敗北。その原因は根本的な兵力差にあった。もともとキュリオス国民の数が10万人に対してランスタッド国の国民は30万人。当然の如く兵の数も同じく大きな差が生じてしまう。その兵力差をすこしでも埋めようと今回少年兵も戦場へ向かうこととなったのだが、結果は敗北。変わることはなかった。

戦に敗れた敗戦国の兵がどうなるかなど想像に容易い。身分の高そうな者は捕虜にされ、それ以外の兵たちは皆等しく残党狩りと称した殺戮。

と、その時。遠くから味方の断末魔が聞こえた。どうやら始まったらしい。急いでここから離れよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


キン

甲高い金属の摩擦音が響き渡る。音の発信地には銀髪に青眼の青年、シャルがいた。

日課となっている剣の鍛練をする。これは小さい頃にラクスに言われてずっと続けてきた事。得意とするのは抜刀術。ラクスに初めて誉められたのが抜刀だったことからずっと続けている。一日の始まりにこれをしないと逆に調子が悪くなる。

「シャル!これから丸薬の販売にいってくるね」

アレンがテアとともに薬の入ったバックを担ぎながらテトラの町に向かうと言う。それに片手をあげて応える。

あれから俺とアスカはルークの孤児院に世話になっていた。人見知りだったアスカもすっかり孤児院に馴染み、ルークの薬売りにもやる気を出している。剣の稽古は朝の一時間だけ一緒にするだけになってしまったが、アスカは誰かの役に立ちたいという思いが、薬売りのやる気に繋がっているらしい。

俺はこれからどうしようか…。

いかんいかん。頭を左右に振り雑念を追い払うと再び稽古に集中する。


丁度稽古が終わる頃、聞きなれた声が聞こえた。

「また剣の稽古してるんだ」

肩まで伸ばした茶髪に赤いジャケットを羽織っているのはサツキだ。サツキは両親とケンカ別れをし、実家のある王都から離れた場所で生活している。その為か頻繁に孤児院に顔を出すようになっていた。

「まぁな。日課だから」

「じゃあさ、あの話考えてくれた?」

「すまない。その話はもう少し考えさせてくれ」

「そっか、わかった。貴方が加わってくれたら戦力が大きく拡大する」

サツキが上目遣いで言葉を重ねる。

「私はシャルが加わってくれたら安心なんだけどな」

サツキは自分のかわいい角度をしっかりと理解しているようだ。これはほんとにずるい。断りづらくなってしまう。

「わかってる。前向きに考えるから」

本当はサツキの為に力を貸したい。でも、孤児院のことを考えるとやはり心配になり踏み出せずにいる。


と、そこへ剣を杖代わりにしてあるいて少年が現れる。白髪に白い肌、キュリオス国の人間のようだった。少年はシャルの顔を見ると安心するように気を失ってしまった。


少年は全身に刀傷があり、戦闘から逃げ帰ってきた様子だった。少年をベッドへ運んでから一時間がたった頃、少年が目を覚ます。

「ここは…」

「目が覚めたのね。ここは安全よ」

「ランスタッド人!」

少年は咄嗟に警戒する。

「安心して私は貴方を傷つけたりしないわ」

「あなたはキュリオス人ですよね?なぜここに」

少年は俺を見て言う。

「そうだな、俺はキュリオス人だが幼い頃よりずっとここで生活している。俺はシャル。こっちがサツキだ」

「俺はロイド。キュリオス国の兵士だ」

少年兵か。近辺で戦争があったと噂を聞いていたが、ここまで逃げてきたらしい。

「安心しろ。ここで匿ってやるからゆっくり傷を癒すといい」

「ありがたい。でも俺は敵国の兵士。ここにかくまわれていることがばれてしまえばあなたたちにまで危険が及ぶ危険があります。お気持ちだけで充分…」

ロイドはそう言うと起き上がろうとするが全身に痛みを感じうずくまってしまう。

「まだ起きてはだめ。傷口が開いてしまうわ」

「すみません」

ロイドは横になると、疲労のせいかすぐに眠ってしまった。


午後になるとテアとアスカが薬売りから帰ってきた。

二人が家に戻ると傷だらけのロイドをみて驚いていた。無理もないか。

「ちょっと!なんで敵国の兵士がここにいるわけ!?」

テアが予想通りの反応をする。

「傷だらけでここまで逃げてきたみたいなんだ。放っておけるわけないだろう」

「だからって。またこの家にやっかいごとを持ち込む気なの?」

「じゃああなたはあの子を見殺しにしろっての?」

サツキが口を出す。この展開は不味い。

「この家の皆が危険になるよりはマシだわ!」

「なんて冷血な女なの!」

「なんですって!?」

テアとサツキの口喧嘩が始まった。もうこうなっては誰も手出しをできない。もともとこの二人は我が強いというか自分が思ったことを曲げようとしないところがある。まぁ、二人が揃うと大体この展開になるからみんな慣れてしまったが。

「うるせぇなぁ。何事だよまったく」

おくの部屋から相変わらずボサボサ頭のルークが顔を出す。

「ねぇ、ルークはこの事をどう思ってるの?」

ルークはテアの問い詰めに対して、左手で頭をポリポリと掻くと落ち着いた口調で答える。

「テアの言い分はもっともだが、傷ついた彼を家から追い出すのはあまりにもひどいと思わないか?彼はまだ子供だ。子供達を守るのがこの孤児院の役目でもある。敵国の生まれだからといって彼を追い出すことはできない」

ルークの言葉にテアはしぶしぶ納得したようだった。するとルークが俺の方を向く。

「シャル。あの少年の世話はおまえが最後までするんだ。いいな」

「わかっている」

そういうとルークは奥の部屋へ戻っていった。ルークは片手を失ってからも薬作りを続けていた。変化と言えば丸薬を作ることが難しくなったので顆粒の薬が主な商品となったことくらいか。


ロイドの部屋に戻ると、申し訳なさそうに謝ってきた。

「すまない。俺のせいで皆が争い事を」

たぶんサツキとテアのいい争いを聞いたのだろう。

「気にするな。あの二人が言い争ってるのはいつものことだ」

ロイドは首から下げていたネックレスを取り出す。

「早く国にかえって母に俺が生きていると報告しないと。きっと戦争の敗北を聞いて俺が死んだと思っているに違いない」

「そのネックレス…」

「これ?これは僕の家紋が刻まれているネックレスだ。戦で死んでもこのネックレスをしていればこのネックレスが誰かを教えてくれる。あなたも持っているのではないか?」

たしかに俺も持っている。俺がラクスに拾われたときから持っているもの。どのような物なのか今まで知らなかったが、このネックレスにはそういう意味があったのか。

首からネックレスを取り外す。ネックレスには鷲が盾を掴み羽を広げているような絵が刻まれている。

「その紋章は」

ロイドが俺のネックレスを見ると驚く。

「王家の紋章じゃないか。もしかしたら、あなたは王に仕える家系の生まれなのかもしれない」

王家に仕える者か。全然想像ができないな。

「ありがとう。俺の出生の秘密が少しわかったような気がする」

「シャルさん。俺は傷が癒えたなら国に戻ります。よければ一緒にいきませんか?」

予想外の申し出。しかしその提案には惹かれるものがあった。キュリオス国にいけば俺の出生がわかるかもしれない。そして家族と会える可能性もある。

「あぁ、考えておくよ」

そう答えたが、心は傾いていた。


それから数日が過ぎた。ロイドの傷はルークの薬がよく効いたようでみるみる良くなっていた。

「今夜にも出発しようと思う」

唐突にロイドが告げる。たしかに傷は大分塞がっては来たが。

「少し早いんじゃないか?」

「完治。とまではいかないけど、もう普通に歩くことも出来る。何より早く母に会いたいんだ」

「そうか。そういうことなら仕方がないな。…俺も一緒に行こう」

ロイドは顔を明るくする。一人での旅は心細い。それに彼はまだ少年だ。俺の答えが嬉しかったのだろう。

「本当ですか?それなら心強い。僕はこの国の地理に疎いので助かります」

俺がロイドと共に行く理由。彼を安全に送り届けたいという思いはもちろんだが、自分の本当の家族に会えるかもしれないという思いもあった。別に本当の家族に会ったから何がしたいという訳ではないが一度会って話をしてみたい。どんな人でどんな生活をしてきたのか、しりたくなったのだ。

と、そこへサツキが部屋に入ってくる。

「シャル!私との約束はどうなるの?」

聞いてたのか。地獄耳とはこのことか、と心のなかで思った。

「わかってる。彼を送ったら約束は守るから」

「本当?」

またもサツキは上目使いで問いかける。本当に厄介な女だよ。これでは断れる訳がない。

「本当だ。約束するよ」

「わかった」

サツキは俺の言葉を聞くとパッと離れる。

「でもごめんなさい。私はやることがあるから一緒にはいけないわ」

「気にしなくていいよ。俺も彼を送り届けたらすぐに戻ってくるから」

「えぇ、でも出発するなら気を付けて。今朝テトラの町に兵士が多くいたわ。どうやら戦の残党狩りをしてるみたい」

ついにこの辺でも始まったのか。

「なら予定通り今夜。闇に乗じて出発しよう」

ロイドと約束する。


そして夜。今夜は雲が多く。暗闇に包まれていた。出発するには丁度良い夜だ。

見送りにはルーク、テア、テッド。そしてサツキが来てくれた。

「シャル。あんたとは喧嘩してばっかりだったけど無事に帰ってこいよ」

「道中気を付けて」

「これは餞別だ。持っていけ」

ルークから薬をもらう。

「すまない。売り物なのに」

「気にするな。でも、俺の薬が良く効くからって無理して怪我するなよ」

「私からも餞別を渡すわ」

そういうとサツキが抱きついてきた。

「ちょっ…何を」

「言ったでしょ、餞別を渡すって」

というとほほにキスをするサツキ。思わず顔が赤くなる。

「じ、じゃあ、行ってきます」

顔が熱い、恥ずかしくてとても皆の顔を見れたものじゃない。

出発して少し歩いたところでロイドが話しかけてくる。

「ねぇ、サツキさんと付き合ってるの?」

「え!?いや、その、付き合うとかそんなんじゃ」

「そうなんですね。でもサツキさんは貴方のこと好きだと思いますよ」

「変なこというんじゃない」

頭のなかではもしかして本当に。と余計な期待をしてしまう自分がむなしい。


「まって!」

と、あとを追いかけてアスカが走ってくる。

「僕も行く!」

驚いた。アスカはこういうことには絶対についてこないと思っていた。人見知りだし、危ないことは嫌いだったからだ。

「アスカ。この旅は危険な旅になる。やめておけ」

「でも、僕も一緒に行く。行きたいんだ」

アスカのいつにない気迫に負けた。

「わかった。でも無理はするなよ」

こうして俺とロイド、そしてアスカの3人の旅が始まった。



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