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  作者: 花京院
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第一章 終節


今夜はいつにもまして静かな夜だ。松明から弾ける火花のおとが時おり静寂を破る。今宵は新月。城内は松明がなければすべて暗闇に閉ざされてしまいそうになる。

城門を守る衛兵は知っていた。月の光が届かない時は悪意が沸き上がる。幼き頃に祖母に教えてもらったことを思い出す。こういう夜はなにもないことをただ祈るだけ。人の力ではどうにもならないこともあるということ。

衛兵は正面に動く影を見つける。

嫌な予感がしたが確かめなければならない。松明を前方にかざす。いつでも警笛をならせるように片方の手でポケットから笛を取り出すと口にくわえる。と、長刀を担いだ人だと気づいたときは手遅れだった。背後から首もとに刀を当てられていた。

次の瞬間目線のしたの辺りから勢いよく赤い液体が吹き出す。それが自分のものだと気づいたときにはもう体に力は入らず、倒れる。

二人はそのまま城門の隙間を抜けると音もなく衛兵を次々と斬殺していく。その光景をゆっくりと眺めている。すでに痛みなど感じない。ゆっくりと視界がぼやけていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


城内に入る手前で立ち止まる。

「ルーク、たぶん子供達がとらえられているのは地下牢だ。城内に入ったら奥の階段を下り地下牢を目指せ」

「お前はどうする」

「俺は、最上階。王を目指す」

と、ルークを呼び止める。

「ルーク、ひとつたのみがあるんだ。地下牢にはきっとアスカとシャルがいると思う。一緒に助けてあげてくれないか」

ルークは頷く。

「ここでお別れか?アレン」

「あぁ、身勝手なお願いばかりですまない」

「謝るな。俺は子供達を助ける手伝いをしてくれたことに感謝しているんだ」

ルークは小声でまたな、と言うと素早く奥の階段を下っていく。

ゆっくりと城内に入り階段を上っていく。城内には兵士の姿は見えない。

階段を最上階まで駆け上がり玉座の間へと続く通路の扉を開ける。と、そこには二人の騎士が待ち構えていた。


「久しぶりだな。アレン・ルシアン」

二人の騎士は同じ背丈同じ顔をしている。この気配知っている。

「まさか、イスカとエスカ…なのか?」

二人はふふっと同じく笑う。

「全く懐かしいな。また、こうして会うことが出来るなんて」

イスカ・テンドールとエスカ・テンドールは双子だ。俺が彼らと知り合ったのは少年兵時代の同期だったからだ。といっても俺と彼らは仲良くはなかった。二人がまとっている鎧は明らかに騎士長以上の身分を表す装飾が施されている。あれから騎士の訓練に励み続けていたのか。

「一応聞かせてもらおうか、なぜここにいる?」

「俺はクレアを取り戻しに来た。そのために国王と話をつける必要がある」

「お前は王に謁見などできない」

「そんなの、俺たちが許すわけがないだろう」

イスカとエスカは同時に抜剣する。

イスカは右利き。エスカは左利きだ。その二人が同時に走り出す。

瞬時に四神を抜刀し二人の斬撃を同時に受け止める。が、さすがに弾かれ柱に叩きつけられる。そして間髪いれない突きの二撃目。前転をしつつ攻撃を回避する。

「どうした?」

「反撃してみろ」

二人同時の攻撃。受け流すだけで手一杯だ。何より隙がない。イスカの隙はエスカが、エスカの隙はイスカがカバーしている。二人同時に相手にするのは分が悪すぎる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


地下牢。衛兵に背後から刀を突き刺し無力化させる。

牢のなかには子供達が閉じ込められていた。

「ルーク!」

「すこし離れていろ」

子供達を牢の扉から離すと錠を破壊する。と、子供達が勢いよく牢から出てきてルークに抱きつく。

どの子供達もすこし痩せこけていた。十分な食事を与えられていなかったようだ。

「ルーク、絶対助けに来てくれるって思ってた」

「テア、心配かけたね」テアは人一倍傷ついていた。きっと他の子供達をかばい多くの罰を受けたのだろう。

と、牢の奥に見覚えのない二人を見つける。

「君たちがアスカとシャルだね」

「なぜ、俺たちを知っている」白髪のキュリオス人の男の子が威嚇するようにいい放つ。

「俺はアレンに頼まれたんだ」

「兄ちゃんに?」

怯えた様子で質問してきた男の子。なるほど、外見だけはアレンににている。

「一緒に逃げよう」

二人をつれて地下牢から脱出を図る。

「俺たちも一緒に逃がしてくれないか?」

レイ・カトラスが牢のなかにいた。

「俺たちは反乱軍だ。子供達をつれて逃げるなら俺たちも協力しよう」

確かに、一人で子供達10人を守りながらこの城から脱出するのは難しい。

「もし、裏切るようなら斬る」

忠告をしながら牢の鍵を開ける。

「そんなことはしない。誓おう」

レイはクリスの手をとると牢から脱出する。

「あの、妹が王のところにいると思うんです。どうか、助けにつれていってください」

クリスという女、目が見えないのか。そんな状態でいっても足手まといになるだけ。子供達を避難させることが最優先。それに、王のところと言えば。

「王のところへはアレンが向かっている。きっと彼が助けるはずです」

「でも」

クリスは納得していない様子だったが、レイがなだめているようでなんとか納得してくれたようだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


双対となる斬撃。その斬撃を切り崩すのは容易ではない。過去に双剣を使う剣士となら戦ったことはある。だが、それとはまるで剣閃が異なる。

ここは一人づつ片付ける他ない。エスカの斬撃を弾くとイスカの突きが放たれる。ここで、イスカの剣を巻き込み反撃の剣技・青龍を放つ。イスカを技の衝撃で弾き飛ばす。

すかさずエスカが斬り込んで来た。これをかわしつつ、剛の剣技・玄武を放ちエスカを打ち上げる。空中に打ち上げたところで追撃。朱雀 いかづちを放つ。

「エスカ!」

イスカの声が聞こえたが斬撃はすでに放たれていた。同時に放たれた6つの斬撃はエスカの右腕を吹き飛ばし。右目と左足にも大きなダメージを与える。

これで、残りは一人。

姿勢を低くして四神を構え直すと、イスカが玉座の間に通じる扉の前に立ち剣を構える。

「ここは、通さない」

瞬速の剣技・白虎を放つ。斬撃はイスカの首をはねる。

もう、殺すことに躊躇いはしない。

「イスカ!よくも、よくもイスカを!…殺してやる!殺して…」

エスカの言葉は次第に弱くなりゆっくりと聞こえなくなる。倒れていたエスカが気を失ったようだった。


玉座の間へと続く大扉の前にたつ。この先に王ジェイクがいる。

ゆっくりと扉に手を掛けると扉を開く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なぁ、アレンはここに来ると思うか?」

クレアは王と共にいた。玉座の間は松明の明かりが玉座を囲むように4つ設置されているだけ。その明かりが届く範囲しか確認できないがそれでも十分な広さを感じさせる。また、その広さは孤独感をより感じさせた。

「アレンはここには来ないわ。来るはずがない。私は彼を傷つけたんだもの」

「いや、来るさ。必ず来る」

「…なぜ、そんなことが言えるの」

「部下から聞いた、彼はお前を愛していたんだろう?なら必ず来る」

「あなた目的は反乱軍じゃなかったの?…まさか本当の狙いは」

玉座の間、大扉がゆっくりと開く。

「そんな、どうして…」

「待ちわびたぞ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ルークと子供達は地下牢を抜けて城の1階ロビーへ戻ってきた。

「なにしてんだ?」

ふと、声をかけられ振り向くと大階段に腰かけている男が見えた。

その男は白銀の豪華な装飾が施された鎧をまとい長髪の黒髪、王子ジュード。

「テア、先に行け!」

子供達をテアに任せてジュードに向けて刀を向け構える。

ゆっくりと立ち上がると余裕の表情を見せて剣を抜く。

「面白い。俺も退屈していたんだ」

ジュードは地面を蹴るとルークとの距離を瞬時に積める。

斬撃。ルークは受け止めるがその重撃に弾き飛ばされてしまう。

「あいかわらず何て力してやがる。」

ジュードの外見は決して大男とは言えない。骨格なども俺やアレンとそう変わらないはずなのに、この力の差はいったい。

ジュードとまともに打ち合ったら勝ち目はないと思い長刀が生かす距離を保ちつつ斬撃を放っていくが、ジュードは軽々と斬撃を弾いていく。

「お前の攻撃は単調だな」

刹那。ルークの放った斬撃を左手で掴むように受け止める。と、刀を動かすことができない。

「こんな古い刀で俺とやりあおうなんて、甘すぎるんじゃないか?」

そのまま左手に力が加わっていくのがわかる。このままでは、焦るがいっこうに刀を引き抜くことができない。その時。

バキッという音と共に刀が割れる。

反動で体制を崩したところにジュードがすかさず斬撃を放つ。折れた刀で防御を図るがジュードの斬撃は刀など関係ないといったように右腕ごと弾き飛ばす。

思わず倒れ込むと目の前には剣を突きつけるジュード。

「身の程を知れ」

振り上げられる剣。子供達を守らなくちゃ行けないのにこんなところで終われない。

そのときジュードを脇から斬撃が放たれる。ジュードは斬撃をすかさず防御し。距離をとる。

剣を持っていたのは反乱軍、レイだった。

と、俺の左肩をシャルが支える。

「早く、逃げましょう」

シャルに支えられて城をなんとか脱出する。

俺の脱出に会わせてレイも城を脱したようだった。

不思議とジュードは追ってくることはなかった。本当にただの暇潰しだったのだろうか。


城の外は侵入の時に片付けた兵士達に気づいた衛兵が厳戒体制をとっていた。

兵士達に見つからないように物陰に隠れながら城を脱出する。心配なことはアレンだけ、どうか無事で。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


扉を開けると王ジェイクがいた。そして、クレアも。

「待ちわびたぞ」

一番に口を開いたのはジェイクだった。

「あせらずとも褒美はたんまりくれてやるぞ」

拳を握りしめる。

「もう、茶番はいらない。俺はクレアさえいればいい。返してもらうぞ」

「なんだ、そんなことか」

ジェイクは椅子から立ち上がるとクレアの髪をつかみ持ち上げる。

「そうだ、褒美も一緒にくれてやる」


クレアの腹から剣がつき出す。

「あっ…」

瞬時に走り出す。クレアのもとへ、たった十数メートル。

俺の目の前でジェイクが剣を引き抜くと、剣を振り上げる。

たのむ、やめてくれ。それだけは、俺の大切なものを…奪わないでくれ。

しかし、俺の願いは届かなかった。


瞬時に下ろされる二撃目。クレアの背中からは正面にいる俺からでもわかるほど散血し、それが致命傷となることは明らかだった。

「受けとれ」

ジェイク剣撃により吹き飛ばされたクレアをなんとか受け止める。

「クレア!クレア…しっかりしろ」

「アレン、あのね」

クレアが言葉を話すたびに腹部に空いた傷から血が溢れ出す。

「しゃべっちゃダメだ」

「お願い。聞いて」

クレアは手を俺のほほに当てる。その手をしっかりとつかむ。

「私ね。貴方に謝らないといけない。貴方を傷つけてしまったから」

「謝るのは俺の方だ。俺が君を裏切っていたから」

「いいえ、これは私の罰。あなたを最後まで信じることができなかった」

クレアは微笑む。

「でもね。私の願いは叶ったよ。最後に、貴方に会えたから」

クレアの手が力なく落ちる。

「クレア!俺はお前にまだちゃんと伝えられていないのに、まだ言いたいことだっていっぱいあったのに」

クレアの亡骸を抱き締める。


「畜生…畜生…畜生!」

ジェイクを睨み付ける。

「お前は…お前だけは…」

クレアをそっと降ろす。

「殺してやる!」

ゆっくり立ち上がると、四神を構える。

そのまま、ジェイクに向かい突進する。瞬時にジェイクが剣と盾を構え迎撃する。

反撃の暇なんて与えない。怒濤の連撃を放つ。だが、ジェイクの盾が攻撃を的確に弾いていく。

一度四神を下げると勢いよく回転させて玄武を放つ。しかしジェイクの盾を弾くことができない。

「いいぞ、アレン・ルシアン!もっと怒れ、もっと怨め!」

ジェイクが剣撃を放つ。その斬撃はとても洗練されている。真っ直ぐに俺の首だけを狙っている。

瞬時に交わすと青龍を放つ。しかし、ジェイクの盾は青龍をも弾く。

それならと、空高く飛び上がる。

ジェイクが大技を感じ、盾を構える。

天空からの六連撃、朱雀 いかづち

斬撃はジェイクの両足にわずかに食い込んだ。同時に六撃を放つ雷でもダメージを与えられないのか!

と、ジェイクからの横薙ぎの攻撃をかわし、距離をとる。

「どうした、アレン。お前の力はこんなものか?」

挑発。

「これならどうだ」

さらに低く姿勢を構える。全身全霊の斬撃を放ち、ジェイクを殺す。

全身の筋肉に力をためる。ジェイクは奥義を察したのか剣を構え直す。

「いくぞ」

全身の筋肉を爆発させて神速の奥義・麒麟を放つ。

刹那、ジェイクの降り下ろす剣が俺をとらえている。なんとかかわすが、体制を崩し地面を滑る。


まさか、麒麟を見切ったのか。

「そんなものが、お前の奥義か?」

ジェイクがこちらを見据える。

俺の攻撃が通じない。以前にもこんな状況は経験している。だが、今回は相手が悪すぎる。怒りに身を任せて攻撃をしていたが、技のキレは冴えていた。でも、そのすべてが通じない。


手が震えている?俺が、恐れているのか。この男を。

「だとした、残念だ。俺はお前を買い被っていたのかもしれない」

剣を握り直すとジェイクは攻撃に転じる。鋭い剣閃。なんとか四神で受けるがあまりの重撃に弾き飛ばされる。ジュードの斬撃とは比べ物にならないほど早く重い一撃。

それが、二撃、三撃と連続で放たれる。四神で受け流すだけでも大きな隙が生じるため、攻撃をかわすことにのみ集中する。一撃でも斬撃を受けてしまえば、それは…即死。

ガン。

剣撃に集中していた俺を盾による打撃が襲い、床に倒れる。瞬時にジェイクが剣を振り上げる。

このまま。斬撃を受けたなら即死だろう。死ぬことは怖い。だけど、クレアと共に逝けるなら。それもいいのかもしれない。

静かに目を閉じる。


ーーーーーーーーーーー


お前も私を置いていくのか。

私をまた一人にして…。


ーーーーーーーーーーー


人は死ぬ直前に生前の出来事を思い出すという。過去の思い出。

父の事。母の事。兵士時代の事。ルークの事。アスカの事。シャルの事。ラクスの事。キサラの事。そして…クレアの事。

最後に思い出すのは二人で夜空を見上げた夜のこと。


顔をあげると回りの景色が止まっている。きっとこれが走馬灯なのだろう。このまま命を落とすには、一つ後悔がある。

命を大切にしてという約束は守れなかった。

『一番大切な君の命すら守れなかった』

部屋の闇に降り立つ一匹の猫が見えた。

【汝の願いを叶えよう】

『…俺の、願い。もし、願いが本当に叶うのなら…俺は』


右手に持った四神を強く握る。

「俺は…!」

ジェイクの左脇を白虎で駆け抜ける。

「何人でも、何十人でも、何百人でも…殺してやる!」

血が溢れだし左手の盾を落とす。が、ジェイクの表情は喜びに満ちている。

「それでいい。さぁ、もっとだ!」

すかさず距離を積め、連撃。もっと、もっと、もっと早く。鋭く。

連撃に追い付かなくなったジェイクの剣を弾き、そして生まれるわずかな隙。

そこに渾身の掌底。奥義・掌破動を放つ。

「グッ…」

大きく怯んだジェイクは距離をとる。

四神を大きく回転させる。三連の玄武・荒玄あらぐろを放つ。

ジェイクがすべての斬撃を剣で真正面から受けきる。

「もっと、もっとだ!」

再び四神を回転し勢いをつけ、朱雀 いかづちを放つ。

が、ジェイクの放つ突きを四神の柄で受け止めるも、衝撃で弾き飛ばされてしまう。

「同じ技は二度食らわんぞ」

瞬時に受け身をとり、姿勢を低く構える。

白虎。ジェイクの懐へ入る。即座に繰り出される斬撃をフェイントをかけてかわす。二撃、三撃。そして四撃目の横薙ぎの斬撃を高く飛び上がりかわす。四神を回転し勢いをつけ、落下の速度を利用して放つ。

ジェイクは突きの構えをとる。

体に捻りを加え、渦を描くように天空からの六連の同時斬撃・朱雀 大蛇おろちを放つ。突きの攻撃をかわしつつ放った斬撃は吸い込まれるようにジェイクの肉体を斬り刻む。

斬撃を受けてなお、立っているジェイクの目の前に降り立つ。姿勢は低く、四神の切っ先をジェイクに向けて構える。

「プレセア。やっと、お前のもとへ…」

刹那、最後の力を振り絞り全身全霊で奥義を放つ。


「麒麟」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


アレン・ルシアンは決意した。

激戦を終えた体は、まるで地獄の業火に焼かれているようだ。歩くだけで激痛が走る体に鞭を打ち、倒れているジェイクの脇を抜けて、クレアを抱える。

そして、この世界の混沌。俺を飲み込もうと両手を広げて待ち構えている闇へ向け、言葉を放つ。


「聞け!我が願いを!」



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