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キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~  作者: 夏野 みかん
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秋継①

大学内のカフェで、ぼんやりとしていたら…


「先輩、今日はどうされたんですか?」


「体調が悪いんですか?」


毎日ご機嫌を伺うようにやって来る後輩らに、イライラが爆発した。

「もう!うるさいなぁ!早く行けよ!」


知ってんだよ。お前らが見ているのは…俺の後ろの久住という家だってことは…初めっから知ってんだよ。睨むようにそいつらを見ると、妙な笑いを浮かべ、

「そうですか…じゃぁ…」


と言って俺に背を向け…きゃぁきゃぁと大きな声で話し、そして笑いながら去っていった。


フン…。どいつもこいつも…


あいつが日本からいなくなって、俺の周りに人が集まってくるようになった。始めは嬉しかった。カッコ良くて、頭が良いあいつがいなくなれば、周りの人間…両親…そして由梨奈も俺だけを見てくれると思っていたから、そして事実俺は、注目の的だったが、でも欲しいと思っていた人の心は変わらなかった。両親は10年経った今もあいつの部屋を残し、由梨奈は心にあいつを残している。近づいてくるのは漁夫の利を得ようとする奴らばかり。


婆様にしたって、ただ…本家の血が俺の中にあることが重要なだけだ。

このままだと、俺は久住の歯車のひとつになってしまうと思うと、本来なら今年から社会人だったが…久住に飲み込まれるのが恐ろしくて、俺は留年し久住から逃げた。


逃げる自分が、そんな弱い自分が大嫌いだった。

その気持ちが、あいつが帰国した事で…自身への嫌悪が、燻っていたあいつへの憎悪に火をつけ、むくむくと大きくなっていった。


いつも…あいつだ。久住 樹が俺の前に立ちふさがる。なんであいつばっかりなんだよ!


神様から、誰もが振り返る容姿と優秀な頭脳を貰い、俺の両親なのに俺よりも愛情を貰い、そして、俺がどうしても欲しいと思っていた由梨奈から愛を貰うんだよ。


いつ頃だっただろう。

由梨奈が俺を子ども扱いする事に、ふてくされるようになったのは…

あいつの視線に気が付いた由梨奈が、はにかんだような笑顔を浮かべる姿に、胸が痛いと感じたのは…


婚約した当時、小学生4年生だった俺を中学3年生の由梨奈が、いつまでも男として見てくれないのは…当たり前かもしれない。いつまでも子供だと思っていれば、好きなってくれるはずはないじゃないか。


思い通りに物事が運ばなくて、いつも…イライラしていた。



だが…あの時、あの言葉に…


『弁護士の松下 理香は、結構いい腕してんだよ。話せよ。あたしが解決してやってもいいぞ。』


俺は自然と口を開いた。


口の悪いこの女性弁護士を苦手としていたのに…(話せよ。)と言われた時、あぁ、俺は誰かに話しを聞いてもらいたかったんだと思った。



弁護士の松下 理香は…俺の話を聞いて、ひとこと


『解決の方法は簡単じゃないか。由梨奈嬢とラヴラヴになればOKだ。』


『ラヴラヴ…OK…』

俺の長年の悩みを、この弁護士は…そう言った。


間違った…絶対に間違った。



【弁護士の松下 理香は、結構いい腕してんだよ。話せよ。あたしが解決してやってもいいぞ。】

その言葉を信じたちょっと前の自分を恨んだ。

恨めしそうだったと思う。弁護士の松下 理香を見る目は…。


でもそんな胡乱な目つきの俺に、松下弁護士はニヤリと笑うと


『解決策は浮かんだ。あとは舞台だ。だが…主役のお前がうまくやらないと、舞台は拍手喝采で終わらないぞ。舞台はあたしが画策する。ボンボン逃げんなよ。あたしが用意する舞台に穴を開けたら…タダじゃ済まないからな。あたしが連絡したら、万難を排して来い!』


『お前さ…女を知っているのか?俺様気取りのくせに、肝心なところが弱腰で、それじゃ、女は靡かないぜ。あたしの準備ができるまで、女が揺れ動くような口説き文句を考えてろよ。』



ははは……。

もう、笑うしかない。



はぁ~口説き文句なんか…由梨奈に言えるはずないじゃないか…まだ心にあいつが住んでいる由梨奈に、何を言っても、その心が動くはずはない。


♪♪♪……


「誰だよ。人がいろいろ考えているとき、電話なんて………マジか?…」


「…久住です。」


(なに、トロトロやってんだよ。早く電話に出ろ。とにかく今から葉月のコンビニに来い!)


「ちょ、ちょ待てよ。なんだよ、なんで!あのとぼけた高宮のところに…」


(弁護士のあたしが、お前が長年悩んでいた事の、解決策になりそうな糸口を見つけてやった。だからすぐ来い。)


「いや…だから…」


ツ一一ツ一一ツ一


き、切れた。


来いって言うことは…俺が…由梨奈を今から口説くのか?…俺がか…?


無理だ。絶対…出来ない。


「……出来るわけがない。」

そう言って、頭を抱えテーブルに伏した…だが…耳元であの松下弁護士の声が…


『弁護士のあたしが、お前が長年悩んでいた事の、解決策になりそうな糸口を見つけてやった。だからすぐ来い。』

…という言葉が、また聞こえていた。



そんな俺に、さっきとは違うグループの後輩らが、


「先輩、どうしたんですか?」


「顔色が悪いみたいですけど?」



もう、大声で怒鳴る力もなくて、俺は覇気のない声で

「あぁ…最悪なんだ。悪いがひとりにしてくれ。」


そう言って、スマホを握り締めた。

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