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キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~  作者: 夏野 みかん
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由理奈 ②

部屋に入ると同時に私は、震える手を握り締めて、松下さんの背中に声をかけた。

「あ、あの…松下さん。」


でもそんな私の行動は、初めから御見通しだったのだろうか、松下さんはにっこりと笑い


「本来なら、受付が言っておりました通り、アポイントメントを取って頂かないと、私も事務所にいるとは限りませんので、次回からは、その様にお願いします。」


そう言って、私に椅子を勧めると

「私は、企業法務を専門にしておりますが、一応民事も刑事もご依頼があれば、全力で依頼主が満足頂ける結果を出せる自信はありますが…今日はどのようなご相談でしょうか?」


「い、依頼では…あの…違うんです。私…」


「まぁ私用で?わざわざここに?それも私が仕事中に?」

そう言って、私を見る目は呆れているのか、ふう~と息を吐くと、


「私用ならば…お仕事バージョンはここまでってことで…」


と言うとクスリと笑い

「まさかと思うけど、…樹と別れてくれとでも言いに来た訳?」


「あ、あなたは…強いから…大丈夫でしょう!でも私は病気だし…何の力もないし…樹がいないと私はこれから先、生きてゆけないから…だから返して、樹を返して!お願いです。」


「いろいろ男女の修羅場は知ってはいるけど…『私は病気だし…何の力もないし…樹がいないと私はこれから先、生きてゆけないから…だから返して』は、マジ笑えるね。」


「…ひ、ひどい!」


「ひどいのはあんだだろう!!」


「えっ…?」



「樹は…物じゃねぇよ。そうやって利用するのはやめろよ。今あんたが切々と語った樹への思いは、どこかずれてるぜ。わかるかい?今あんたが言っている恋は、相手を利用するところから始まってんだよ。10年前も…意識して、樹を利用したとまでは言わないが、あんたは自分が一番好きなんだ。樹より自分が、好きなんだよ。」


「自分が一番…好き?違う!わ、私は樹を愛しているわ!」


「じゃぁ…聞こう。10年前17歳のガキだった樹について行けなかったのはわかる。


だが、なんで、助けてやらなかった?

久住の婆さんが、樹を笑って許すわけはないとあんただってわかっていただろう。


あの駆け落ち未遂が、樹をたったひとりで、アメリカに行かせたんだぞ!家庭の温もりを欲するあの寂しがりやをたったひとりでな!


なぜ、そのとき樹を庇ってやらなかった?!愛しているんだろう?だったらなぜだ?!関係ない顔で、安全な場所であんたは隠れていたんだ?!わかっているのか?実の両親から見捨てられて、傷ついていた樹の心が、ようやく落ち着ける居場所を見つけ、それなりに幸せだったのに、あんたのせいで失ったことを…。なのに…またかよ。また自分が久住家から、放り出されそうになったら、また樹を利用するのか!」


「違う!…樹は…樹は私より強いし、それに…私を久住というしがらみから出してやるって…言っていたもの。私は…弱いから、ひとりでは無理だから…」


「あんたさぁ…。それを愛だと思っているのか?あんたの愛って、自分だけに利をもたらす物みたいだなぁ。あたしなら、自分の問題で好きな相手が苦しみ、悩むのを見たくないがね。」


そう言って、松下さんは私を見て言った。

「…病気の件は…知っている。」…と


樹が…話した?!どうして…話すの?どうして?

「そ…そんな…」


「それで樹を責めるな。あいつがずいぶん悩んでいたのを…あたしが話しをさせたんだ。だがなぁ、本来なら、樹にそんなことを相談するあんたのほうが、むちゃくちゃなんだ。」


むちゃくちゃ…って…


「なんで男のあいつに、そんな相談をする?また同情させて利用するのか?」


「あ、あなたって…!ひどいわ!」


「だがそうだろう?!樹にどうして貰いたいんだ。(子供が生めないかも知れないの、そうなったら久住を追い出されるわ、だからお願い…樹。居場所がなくなる私を拾って)ってあたしにはそう、聞こえるよ。あたしもあんたと同じ女だ、その病気がどんなに、あんたを不安な気持ちにさせるかわかるが…今更、昔の男に頼るな!それは愛じゃない!あんたと樹の恋はもう終わっている。」


言葉が出てこない私に


「久住という伏魔殿から出たいのなら、自分の足で出るんだ。自分自身で解決しなければ、また捕まるぞ。誰かにやってもらうんじゃない。自分でやるんだ。ひとりで歩いて倒れそうになったなら、弁護士のあたしが杖になってやる。だから自分で扉を開けて、久住から出て行くんだ。」


ひとりで…ひとりで扉を開けて、久住から出て行く。

そんなことが…



ブッ…ブルブル…


バイブレーションの音に、現実に引き戻されたように、顔を上げた私に…松下さんは、チラリとスマホを見ると、顔を歪ませ

「悪い、電話にでてもいいか?」


と、私に言って、スマホを手に取った。


「丸山、なにかあったのか?」

「…そうか、今からそっちに行く。」


と言って切ると、今度は松下さんが電話をかけ始めた。

「今、どこだ?」

「なら、一番お前が葉月のコンビニに近いな。」

「……昨日の事は知っている。だが、今はそんなことを聞いている暇はない。九尾の狐が現れた。」

「そうだ。片付けようぜ。」


と言って、黙ってスマホを見ていたが、フッと笑みを浮かべ、呆然とする私に


「もう、一件電話してもいいか?」


黙って頷いた私に、また微笑むと

「なに、トロトロやってんだよ。早く電話に出ろ。とにかく今から葉月のコンビニに来い!」

「弁護士のあたしが、お前が長年悩んでいた事の、解決策になりそうな糸口を見つけてやった。だからすぐ来い。」

松下さんは、そう言うと、電話の相手の声を無視して切ると、バックにスマホを入れ


「行こう。」と言って、私に手を差し伸べてきた。


「…行こうって、いったいどこに…」


「化け物退治にさ…まぁこの一発でやられるような化け物じゃないけど…いろいろな問題は片付くかもな。」


そう言って、満面の笑みを浮かべた松下さんに、私は眼を見開いた。



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