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キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~  作者: 夏野 みかん
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葉月・・唖然。樹・・頭を下げる。

「ようやく、姫を見つけた。さぁ、早く国へ帰って、僕と結婚しょう。」

「…弟久住さん、私…日本語しかわからないので…通訳してくれません。」


「高宮…。いまのは完全に日本語だぜ。」


「じゃぁ…『ようやく、姫を見つけた。さぁ、早く国へ帰って、僕と結婚しょう。』って、この外国人の少年が言ったように聞こえたのは…気のせいでは…ない?」


「あぁ、俺もそう聞こえた。」



「何をこそこそと言っているんですか?」

や…やばいかも…まだ少年だけど、こ、これは刺激を与えないように去るしかない。この際、弟久住さんに犠牲になってもらおう。それがいい。一応弟久住さんも男だもん、大丈夫。たぶん…大丈夫。


いつも、鈍いと言われる私の頭が…ここぞとばかりに、スーパーコンピュータ並みに判断をすると…私に笑顔を作り出させ

「じゃぁ、私はこれで…。ジョセフィーヌさんと約束があるので…」


「お、おい、高宮!逃げんなよ。こんな変な奴とふたりにするなよ!」


「で、でも、私は忙しいので!」

と、走り出した私の足をたった一言の言葉が止めた。


「また、逃げるんですか?」


「えっ?また…って、どういう意味?」


ゆっくりと、振り返った私に…その少年はにっこりと微笑むと




赤い髪をかきあげ、緑の瞳を細めながら

「いつまで逃げるんですか?Wendy」


・・・と言った。




「…あなたは誰?なぜ…私の…」


「おまえは…」


赤い髪の間から見える緑の瞳は、クスクスと笑うと

「Wendy。僕は君の夫になるために、こんな島国にやってきたんだ。もっと、可愛い笑顔で迎えて欲しいなぁ。」



****


翌朝、俺は理香さんの事務所を尋ねた。

俺が訪れるのは、仕事が終わった夕方だと、理香さんは思っていたんだろう。事務所で、理香さんを待っていた俺の姿を見て、驚いたように「仕事はどうした?」と聞いてきた。


俺は、右手を理香さんに見せると、どう顔を繕っていいものかわからず、ただ…ひとこと

「…これで、午前中は休みにしました。」


「喧嘩か?お前、結構できるもんなぁ、あたしのフックを手で受け止めたのはお前ぐらいだしなぁ。お前が怪我をするくらいなら、かなりの腕だなぁ。おい、誰とやったんだ?」


理香さんは俺の右手を見て、ニヤリと笑うと


「弁護士は必要か?もみ消すのは…得意だぞ。」


「喧嘩なんかしませんよ。一応、俺も久住の人間です、怪我をするほどの喧嘩などやったら、どんなことになるのか、わかっているつもりです。ましてや理香さんにもみ消しなど頼んだら、それをネタに強請られそうですしね。そんなハイリスクはしません。」


理香さんは嫌そうに小鼻に皺寄せ

「じゃぁ…どうした?」


「…ガラスで…」


「ガラス?」


「…ビールグラスで…」


「はぁ?」


「ビールグラスを手で潰しました!」


「…やっぱ、馬鹿だ。いや馬鹿力だ。」


右手の包帯に目をやり理香さんは…はぁ~と大きな溜め息をつき

「あたしは…熱血ドラマは嫌いじゃないよ。だが…樹、お前はそんなキャラじゃねぇーだろう。イメージが狂うぜ、まったく…。」


「…すみません。」


「…いろいろ、考えていたら、やっちまったんだなぁ。」


「はい。いろいろ考えて、いろいろ気が付きました。理香さんが言っていた、葉月ちゃんより俺のほうが鈍いという意味も…」


理香さんは、ハッとしたように、俺を見て

「そうか…お前には悪いと思ってる。だが…」


理香さんの声を遮るように、俺の胸元に入っていたスマホが、軽やかなメロディを奏でた。

そのメロディは、職場からだったが、俺はスマホを取るのを躊躇した。そんな俺に


「職場からか?出ろよ。」


「はい、すみません。」


俺はそう言って立ち上がり、理香さんの部屋から出ようとしたが、


『そうか…お前には悪いと思ってる。だが…』と言いかけた、理香さんの言葉の続きが気になって、「理香さん」と言いながら振り返って、言葉を失くした。


理香さんは、俺に背を向け、タバコをくわえ

「かなわぬ夢、揺れ続ける思い…か」


そう言って、やめようとしていたはずのタバコをくゆらせていたからだ。

吸わないと、堪らない思いにさせているのかと思うと、俺は理香さんに軽く頭を下げ、軽やかなメロディを奏でるスマホを片手に部屋を出た。



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