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キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~  作者: 夏野 みかん
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葉月・・・最下位

「…えっと…私、施設にいたんです。父はよく覚えていなくて、母とも一緒に暮らしたのが3歳ぐらいまでだったので…」


「えっ?…悪りぃ…」


「あ、あっ!、いいんです。」


「だが…」


「ほんとに、大丈夫です。」


そう言って、少しわざとらしいと思ったけど、にっこりと笑った。でもどうやら効果は今ひとつだったようで、私の笑みに弟久住さんは黙って、あの切れ長の眼で私の心を覗くように見てきた。


その視線に耐え切れなくて少し下を向くと、小さな声でまた弟久住さんの声が聞こえた。

「…ごめんな。」…と、でもその声が一瞬

『ごめんね。ウェンディ』と変わって聞こえた。


髪と瞳の色を言われたせいなのかなぁ。

久しぶりに思い出しちゃった。


『ウェンディ』

それは、私を呼んでいるとは思えないけど…。

でも昔その声を、大きな腕の中で聞いたような気がしていた。


でもその人が、私の父親なのかはわからない。


覚えているのはその声と鮮やかな色。


それは金色と…青い色。


私は軽く頭を振り…


その人がどんな人だか、どこに暮らしているのか…何も知らない。

幼い頃はよく思い出していたが、どうしても母には聞けなかった。


それは…その映像の最後は、母がその人の背中を見て泣いていたから…。

それからもう…思い出す事をやめた。


母との間に何があったかはわからない、でも、もしその人が父親なら、その背中を見つめてただ泣く母は、その人を愛していたからだ、そう思うと母が可哀想で、そんな思いを母に残したまま出て行った父を…思い出したくはなかった。


お母さん、ごめんね。忘れるから…

『ごめんね。ウェンディ』と謝るあの声と、金と青の鮮やかな色を忘れるから…ごめんね。


拳を作り頭の中から追い出そうと、二三度小突いたら、訝しそうな響きをのせて、弟久住さんが聞いてきた。


「何してんの?」


「へぇ?」


「いや、なに頭を小突いてんの?」


「いや、あの…気合をですね、入れてまして…」


「…高宮 葉月。そうか、わかった。」


「えっ?なにがですか?」


「この塀を乗り越えるために、気合を入れていたんだろう?!」

 

「えっ?いや、あの…、だから私はワンピースに、ハイヒールだから…」


「そうか!ワンピースにハイヒールだから、気合を入れていたのか、なるほど…」


なるほどじゃないし!

さっきまで、私を傷つけたんじゃないかと、小さな声で『ごめんな。』と言った、あの神妙な顔はどこにいった?!!なんなの、この弟久住さんは体育会系なの?!


呆然と見つめる私に

「先に塀に上って、手を引いてやるからなぁ。」とにっこり笑うその顔が、妙に久住さんに似ていて…つい…微笑んでしまった。

あぁっ!!違う!違う!ここは微笑むところじゃない!


そう思った瞬間、弟久住さんは

「やる気満々のいい笑顔だ。任せろ!」と言って、塀によじ登り、私に手を差し伸べてきた。


差し出された手を見ながら

【やる気満々…って、わけないじゃん。】とは思ったが…

久住さんにちょっぴり似た笑顔に、刃向かえることが出来なくて…


あぁ……。マジですか。登るんですか、この塀を…この格好で…

はぁ~大きく息を吐き、ハイヒールを脱ぐと、弟久住さんに預け


「弟久住さん、頼みますよ。落とさないでくださいよ。」


「大丈夫だって!」


「もう~安易に言わないでください。」



嫌な予感はしていた。

いつも見ている朝のテレビ番組での星占いで、9位までは見ていたが、なかなか私の星座は出てこなくて、今から久住さんの家に行くのに、これはマズイと思って、テレビを消したんだけど…もしかして…最下位だったのかもしれない。


あぁ…付いていない。

そう思いつつ、私は手を伸ばした。


『今日の最下位は、てんびん座のあ・な・た』


「えっ?」


それは弟久住さんが、私を引き上げようと手を握った瞬間だった。

突然聞こえた天の声に…まるで時間がゆっくりと時を刻み始めたかのように、弟久住さんが切れ長の眼を見開き、口が【あ】の形を作ると……私の上に落ちて来た。


「あぁっ!わあっ!」


「キャァ~!!!」



ガタン!!!



「…痛~い。」


「…痛てぇ~。高宮 葉月、お前重いぞ!」


「ひ、ひどい!」


「小さいから、軽いと思ったら…油断した。」


「も、もう…どうでも良いから、私の上からどいてください!!」


「……。」


「何、黙っているんですか!どいてください!」


「…兄さん…由梨菜…」


「えっ?…」


弟久住さんに圧し掛かれ動けない私は、眼だけ動かすと、そこに黒い紳士靴と青い着物が見え…体が固まった。久住さんと…由梨菜さんだ。なんで…こんなときに会うの。




絶対、今日の星占いは…最下位だったんだ。




『今日の最下位は、てんびん座のあ・な・た。大事な人と心がすれ違う出来事がおきそう。特に知らない異性には近づかないこと。なるべく今日は、家から出ないほうがいいかもよ。』




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