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キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~  作者: 夏野 みかん
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葉月・・・ドキン・チク・チクン・ズキン・ドキドキ・フンフン。

「ごめん。葉月…ごめん。」


理香さんは、呟くように言うと、顔を歪め視線を私から外した。


理香さんにそんな顔をさせているのは…私?


ドキンドキン・・・


胸の鼓動が、早くなった。苦しい…胸が苦しい。

でもどうして?理香さんがそんなに辛そうな顔をするんだろう。私と久住さんが付き合うとか、そういう話じゃないのに、ただの片思いなのに…この事が、どうして理香さんに、あんな顔をさせることになってしまったの?


理香さんにそんな顔をさせたくない。

なにか、なにかあるんだろうか。

会うことさえも反対だなんて絶対おかしい…でも…

どんな理由があっても、理香さんは…私にとっては大事な家族だもん。


だから…私は…


笑うんだ。大丈夫って言って笑うんだ。


出来るだけ明るく笑って

「理香さん。何を心配してるんですか?私の片思いですよ。叶うはずない私の片思いです。」


「…葉月…」


「あっ?!葉月のくせに…恋をするなんて、100万年早い!!と言いたいんですか~。」


「…バカ…何言ってんだよ。」


「エヘヘ…」


「おまえ…」


「理香さん…。理香さんが久住さんと会うなというなら、もう会いません。」


チクン…。

大丈夫、まだ我慢できるもん。大丈夫。


「ぁ…。葉月…」



チク、チク…。

ちょっと…痛いかなぁ…。


「そろそろジョセフィーヌさんを助けに行ってください。今頃きっと困ってますよ。」


「でも…葉月。」


ズキン…

ごめんなさい。理香さん…。

「じゃぁ、先に広間に戻って、美味しいものを食べて待ってますから。」


背中で理香さんの声が聞こえたけど、涙が出てきて振り返る事ができないよ。泣いてる顔を見られたら、きっと理香さんはまた悲しい顔になっちゃう。


大事な人の悲しい顔は見たくない。

ジョセフィーヌさん、理香さんそして…久住さんの顔はいつも笑って欲しいから…


だから…泣いてる顔は見られちゃいけない。

走って、たくさん走って…胸の中で、大きくなりそうな物を吹き飛ばしたい。

走ろう、眼の前の道を走ろう。少しでも心の中を軽くしなくちゃ、押しつぶされそうだもの。




そして…


ドキドキ


ここは……えっと…どこ?どこなのかなぁ…?


ドキドキ


ま、迷子だ。これは迷子だ。

ぁぁ…なんてこと、なんてことよ!!!



力が…抜けそう。こんなときに迷子になるとは…

こんな広い庭で、誰かに遭遇なんてないよね。あぁ、どうしよう。


「あぁ、朝もお昼も我慢して、張り切ってここに来なきゃ良かった。お腹すいたし、喉も渇いたよ。あぁ~もう力が入らないよ…はぁ…でも…」


大きな桜の木にもたれ、ズルズルと座り込みながら

「でも、広間にもどる道がわからない。」


「ふ~ん…そうなんだ。」


えっ?…なにか聞こえたような、気がする。


キョロキョロと周りを見る私に、また声が聞こえた。


「上!」


「上?」


「そう、あんたが凭れている木の上。」


そっと見上げた顔の上に、冷えた缶ビールが……のった。


「へっ?!えぇっ!!!なに!」


「静かにしてくれよ。誰かに気づかれたらどうすんだよ。」


「で、でも、冷たい!!なんなんですか!いったい、あなたは誰ですか?!」


「俺を知らないの?あんた、兄貴の新しい女なんだろう。」


「兄貴?新しい女?」


「兄貴と一緒に来ていたじゃん。」


「いや…だから!兄貴って誰ですか?」


「久住 樹。」


「久住 樹…?!えぇっ…?!あなた…!じゃぁ…あの、あの秋継さんですか?!」


紺色のタキシードを着たその人は、鋭い眼を細め、木の上から飛び降りると、缶ビールを一口飲み

「…あんた、なんか変わってるね。」


と言って、また缶ビールに口をつけた。


「女性の顔の上に、缶ビールをのせる殿方こそ、変わってると思いますけど!」


「これまた、はっきりと仰る。こんな生意気なガキがいいとは…兄貴も、趣味が変わったもんだ。」


「あなたってほんと、一言一言がムカつく!」


「俺にムカつくって言うんだ。へぇ~」


「ムカつく!!何度でも言ってやります!ムカつく!ムカつく!」


「あはは…ほんとガキだよなぁ。」


なに、この人!久住さんとは大違いだ。言い方に刺がありまくりだ!

こんなのを相手にしていたら、心がぜっ~たい歪む。間違いない。


「では、失礼します。久住家のお坊ちゃま!」


「おまえなぁ…名前ぐらい言えよ。」


「お断りします!」


「ふ~ん、じゃぁ兄貴の女。」


「言っときますが!私は誰の女でもありません。もう少し、お兄さんを見習って、アマちゃんを卒業なさってはどうですか?」


「…どういう意味だ。」


「逃げてばかりいたって、物事は解決しないってことですよ。久住さんは、前に進むために帰ってきたんです。こんなところで隠れていないで、あなたも前に足を進めるべきです。」


「おい…」


「あら、失礼しました。生意気なガキが言ったことですので、どうかご容赦を…」


と言って、アッカンベーとしてやった。


フンフン


鼻息を荒くして、歩いたが…だが…このまままっすぐ行っていいのかなぁ…。

だけど、死んでもこの人には聞きたくないもん!道があるんだから、どこかに行くはず。


「おーい、おまえさぁ…迷ってんだろう。いいのか~」


後ろから、そう聞こえたけど…でも無視!


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